第43話 このあとはどうするの?
「このあとはどうするの?」
「川へ行く」
「川?」
「あぁ、釣りに行く約束もしてたからな」
「えぇ、覚えてたの!?」
まさか先日の軽口を覚えているとは思わずびっくりするマリーリ。
しかもあのときは自分が好きと言いたかったのをちゃんと言えずに誤魔化すために口走ってしまったことなのに、それをわざわざ実行してくれるジュリアスにマリーリは申し訳なさを感じる。
「もちろんだ。とにかく行くぞ、時間が惜しい。さぁ、川までどっちが先に着くか競争だ」
「え、いきなり!? ずるい!!」
「はは、ではハンデをやろうか?」
「いえ、結構よ! アルテミスだって頑張れるもの。ねぇ?」
そう言いながら背を撫でると呼応するように「ふふんっ」と鼻を鳴らすアルテミス。
やる気は十分のようである。
「相変わらず負けず嫌いだな。よし、では行くぞ……!」
「負けないわよ!!」
そう言うと、マリーリはアルテミスの横腹を蹴る。
彼女のスピードにあわあわしつつも手綱をしっかりと握り直して態勢を整えると、風をきって川に向かって走るのだった。
◇
「はぁ〜〜、疲れた。アルテミスもお疲れ様」
言いながらしっかりと身体を撫でてやると、アルテミスを川の淵まで引っ張り水を飲ませる。
「久々のわりにはよく走れたんじゃないか?」
「そうかもしれないけど、負けたのは悔しい」
先程の競争は結果から言うとマリーリの負けだ。
さすがにいくらアルテミスとの相性がいいと言えど、まだ飼い慣らしていない状態ではさすがにジュリアスとバルムンクのコンビに勝つのは難しく、どんどん差を開けられてしまい、文句のつけようがないほどの敗戦であった。
「ちゃんと面倒を見て一緒に走るようになればもっと速くなるさ」
「そうよね。次こそはリベンジしてやるんだから」
「あぁ、期待しておく」
水分補給を済ませた二頭は近くの木にくくりつけ、ジュリアスは何やらゴソゴソと大きな荷物を持って川から少し離れた木陰に行くのをマリーリもついていく。
「釣りの前に腹ごしらえするか」
「え、でも昼食は……」
「ちゃんと用意してある」
そう言って敷物を敷くと、次々に荷物を開封していくジュリアス。
やけに荷物が多いなぁとは思っていたが、まさかここまで用意周到だとは思わず、マリーリは目を見張った。
「随分と荷物が多いなぁ、とは思ってたけど……いつの間に」
「気が利く夫だろう? もっと褒めていいぞ?」
「えぇ、凄いわ! ジュリアス!! さすがね!」
言われたとおりに褒めると、なぜか難しい顔をして顔を押さえるジュリアス。
(たまにこうした表情をするけど、一体なんなんだろう)
「ジュリアス? 大丈夫?」
「っ、あぁ、いや、とにかく食事だ。きちんとマリーリの好物も聞いておいたぞ」
「え、うわぁ! 凄いわ!!」
そこにはサンドイッチにサラダにミートパイにと、マリーリの好物がたくさん詰まっていた。
きっとミヤが色々と事前に準備してくれたのだろう、具材も含めてどれもこれもマリーリが大好きなものばかりだった。
「美味しそう!」
「食後にはデザートもあるぞ」
「え? まぁ、アップルパイ!!」
シナモンのいい香りが鼻腔を擽る。
アップルパイの芳しい匂いに目を輝かせてマリーリは心躍らせた。
「あぁ、早く食べたいわ!」
「デザートは食後だろう? まだお預けだ」
「はーい」
「では、早速食事にしようか」
こうして外で食べるのなんていつぶりだろうか、とマリーリは空を見上げる。
陽射しもほがらかでちょうどよく、いいピクニック日和だった。
視線をアルテミスに向けると、彼女も食事タイムのようで近場の草をムシャムシャと食べている。
バルムンクと相性がいいのか、喧嘩する様子もなくお互いそれぞれ仲良く食べていた。
「バルムンクとアルテミスも相性がよさそうね」
「あぁ、そうだな」
「オスとメスだし、そのうち子供ができたり……」
「ぐふっ」
突然咽せるジュリアスに、「大丈夫!?」と彼の背中を叩くマリーリ。
サンドイッチでも詰まらせたのだろうか、顔を真っ赤にしてゲホゲホと咽せている。
「はい、お水」
「んふ……っぐ、ありがとう、……っはぁ、すまない、助かった」
水をゆっくりと嚥下したジュリアスは、ほぅ、と小さく息をつくとどうやら喉の詰まりは取れたらしく、マリーリはホッと胸を撫で下ろした。
「あんまり急いで食べたらダメよ?」
「……あぁ、気をつける」
「もう、子供じゃないんだから」
苦笑しながら、マリーリもパクリと大きな口でサンドイッチを齧る。
先日狩った鹿肉のハムを使ったサンドイッチはとても肉肉しく、甘辛いソースもマッチしていてとても美味しかった。
「んんん〜! 美味しい……っ」
「そんなに美味しいか」
「えぇ、とっても。一口食べてみる?」
そう言ってジュリアスの口元に差し出すと、一瞬難しい顔をするジュリアスだが、そのままパクリとかぶりついた。
「どう? 美味しいでしょう?」
「あぁ、確かに。肉とソースの相性がよくて美味い」
「でしょう? 今度また作ってもらいたいわ」
「であれば、帰ってから交渉せねばだな」
「えぇ。……ってふふ、もうジュリアスったら、ソースつけてる」
端正な顔に不似合いの赤いソースが口元についているジュリアスを見て、思わず笑う。
そして彼のそれを指で拭ってあげると、そのままぱくりとその指を
その仕草を見て顔をそらすジュリアスに、何事かとマリーリが覗き込むも決して顔を見せてくれず、少々不貞腐れながらもマリーリはジュリアスと食事を楽しむのであった。
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