三十八話 淡く光る君を追う
「ミリ……?」
セレカティアは息を整え、立ち上がると目の前に立つミリに歩み寄っていく。しかし、彼女は顔色一つ変えず、見つめ返しているその光景が、カイトにとって類まれない恐怖を抱かせた。
『私の』
ミリの閉じられた口がゆっくり開かれる。漸く反応してくれた事で、セレカティアが安堵の態度を取ったのが、彼女の後ろ姿から窺えた。
しかし、
『私の邪魔をするなら、消えてください』
ミリの言葉はとても冷たいものだった。
ミリはセレカティアの頬を右手で撫でるようにして触れる。幼い子供を慰めているようにも見えた。しかし、触れられたセレカティアの体が糸の切れた人形が如く、膝から崩れ落ち、地面に突っ伏してしまった。
「セレカっ!?」
「は……あ……っ」
自分と同じ事をされたのだろうか。苦痛に顔を歪め、体を震わせている。全身に力が入らない上、上手く呼吸が出来ていない様子で苦しそうに咳き込んだ。
彼女は目の前に居る者がだれか分かっているのだろうか? 友達を目の前にして、生き物を見ないような冷たく、鋭い眼差しがセレカティアを睨みつけ、とてもじゃないが、友達に向けて良い目ではなかった。
「いい目をしているね。ミリカ・ハイラントさん」
ニールが楽しそうに笑みを浮かべ、喉を鳴らす。
セレカティアは重い体を必死に動かし、やっとの思いで片膝をつかせ、彼を睨みつける。
「何がよ……。あんなの、ミリがしていい目じゃないわ……っ」
「何も、君に向けるんじゃない。自分をあんな目にした奴に向けているんだよ」
あの目にした張本人。恐らく、ミリの父親の事を指しているのだろう。彼女の胸を奥で存在した怨みが捕縛箱によって、たった一日で優しい顔から怨みに満ちた表情へと変化させてしまった。頭では分かっていても、父親に対する想いは正直なのだ。
彼女を正気に戻さなければ。あのまま放っておけば、周りに被害が及んでしまう恐れがある。
「何をしようとしているんだい?」
「決まってんだろ……あいつを元に戻すんだよ」
「君には無理だ。彼女はもはや、復讐する事だけしか考えていないんだ」
楽しそうに手を叩く音が耳障りこの上なく、殴ってしまいたかった。しかし、彼に構っている場合ではない。今は目の前に居る彼女を何としても止める方が優先させるべきだ。
「てめぇの指図は受けねぇ」
「はぁ……物分かりの悪い子供は嫌いだな。ミリカ・ハイラントっ」
呆れた様子で溜め息を吐いたニールが突然、ミリの名を呼ぶと、顎である方向を差す。
「君の殺したい奴は、この先にある刑務所だ。好きにするといい。思うがままに、ね」
彼の声に反応したミリは、一度だけニールの顔を見るなり、今まで見せたことのない不気味な笑みを浮かべさせ、こちらに背を向ける。そして、先程還した女性のミストと同じような奇声を発し、飛び去っていった。
「ミリ……っ」
「目的を果たした後の彼女を見るのが楽しみだね」
「てめぇ……絶対許さないからな……」
「好きにどうぞ。ほら、元に戻すんでしょ? 出来るといいね?」
もう返答するのも時間の無駄だと思い、カイトは身動きの取れないセレカティアに歩み寄り、抱き起こそうと手を伸ばす。だが、セレカティアはそれを手で払うことで拒み、震える指先で、ミリが飛び去っていった方向を差した。
「あたしは、いいから……。人だかりが出来てきたから……あいつも簡単には……手出し出来ない、筈……」
セレカティアの指摘で漸く、周囲に人だかりが出来てきているのに気付いた。目の前の事に集中し過ぎて全く気付かなかった。ミストを視る施術を行っていない一般人にすれば、今、自分達に起こった事など分かる筈がない。彼らから見れば、突然倒れ、誰かの名を叫んでいる不審者だ。
ただでさえ、還し屋は変人扱いをされる立場だ。そんな偏見持っている彼らが、この状態を見て、どう思うか。変な動きを見せれば、ミストの正体がバレてしまう恐れがあるため、下手な事は出来ない。
「……お願い」
セレカティアは地に着けたカイトの膝を弱々しく叩くと、涙を流す。
「あの子を助けて……」
彼女の涙は苦しいから流したものではないのが分かった。ミリにとっても、セレカティアにとっても、二人は友達なのだ。怨みに囚われたミリを助けたいが、動けない自分が不甲斐なさ。この先に待っている罪の深さを、目の当たりにさせたくない切実な願い。彼女を酷い状態にさせたニールに対する怒り。これらが積み重なって流された涙だ。
ミリを助けたい。それは自分も心の底から思う。彼女はここで躓いている場合ではないのだ。これからは、父親の呪縛から解放され、クリスの下で還し屋になる為に勉強をしなければならない。彼女の輝かしい未来を、護らなければならない。
カイトは嗚咽を吐くセレカティアの頭を撫で、頷く。
「あぁ、任せろ」
そう言うと、立ち上がり、ミリが去っていった方へと走り出す。その後ろをニールが楽しげな声色で茶化してきた。
「君は救えるか? 彼女を」
「聞く耳は持たねぇな。お前は後でぶん殴ってやるからな」
ここから刑務所までは走って五分程度の距離だ。その距離を走るに大した体力はいらない。一刻早く、ミリに追いつかなければならないので、後の体力を気になどしていられない。
今の状態の彼女を放っておけば、間違いなく父親を殺しかねない。恨みを持っているのは仕方ない。だが、本来の彼女はとても優しい女性だ。これからまともに生きていく事が出来るようになれば、きっとあらゆる人が彼女を好いてくれるだろう。彼女に幸せを感じさせられるのだ。
それを、ニールの目論見によって台無しにされようとしている。彼女の幸せを彼女自身の手で崩されると、我に返った先には罪悪感と自分に対する嫌悪感が待っている。そうなれば、自分には幸せになる資格はないと思い込み、自ら殻に閉じ篭ってしまいかねない。
そんな事はさせない。
走っている途中、体調不良で柱や建物の壁に寄り掛かっている人がちらほら見受けられた。おそらく、ミリが通りを抜けていく際に触れてしまったのだろう。本来なら、手伝うものだが、最優先をするべきなのはミリだ。こんなところで止まっていられない。
やっとの思いで刑務所に着き、石段を上がっていく。入口に差し掛かったところで、門番に当たる男性が顔を歪めながら壁に寄り掛かっている姿が視界に入った。
「大丈夫っすか?」
慌てないように一つ息を吐き、話しかける。
「あ、あぁ……。急に体が怠くなってな……」
「風邪だろうから早く帰った方がいいっすよ。流行り始めてるみたいだからな」
「忠告ありがとな。何か用か……?」
「少し、知り合いに会いに」
「そうか……中で受付していってくれ」
「はい、ありがとうございます」
カイトは男性に軽く頭を下げ、大きな扉開けて中へ入る。
入ってすぐに受付をする女性がガラス越しのカウンターの前で座っているのだが、外で見たものと同じで、夢にうなされているように弱々しく声を漏らしていた。こちらの存在に気付かない程に衰弱しきっていた。
何かしてあげた方がいいのだろうが、一刻も争うので、今回ばかりは無視させてもらう。
受付の先にあるドアを抜ければ、犯罪者が収容されている部屋に続く通路がある。しかし、自分だけでは通路を通るのが精一杯で手詰まりとなってしまう。
最終的に鍵を壊す事を視野に入れつつドアに手を掛け、手前に引いた。すると、カイトの来訪を待っていたかのように、ドアがあっさりと開かれ、白色で統一された殺風景な通路が視界に広がった。
「無用心だな――って、あぁ……」
開かれたドアが死角になって気付かなかった。壁に体を預ける形で、看守らしき男性が気を失っていた。おそらく、出ようとしたところをミリに接触してしまったのだろう。
顔を僅かに歪めているが、命に別状はないようだ。心配ではあるも、不幸中の幸い。彼がここで気を失っていなければ、自分はここを通る事が出来なかった。
カイトは看守に小さく頭を下げると、彼の服から複数の鍵を抜き取り、その足で奥へと進んでいく。犯罪者を収容するためだけの空間であるため、殺風景だから気を紛らわす何かをするといった工夫を施すといった事は一切無く、侘しいものだった。途中、仕切りとなる施錠された鉄柵と数回出くわしたが、看守から抜き取った鍵で時間は掛かったものの、問題なく通ることが出来た。
「……ここか」
目の前に広がる空間の存在が、カイトにここが監獄であるという実感を湧かせる。仕切りの向こう側には、いくつもの低い男性の声が飛び交い、民度の低い会話が成されていた。ここに収容されている人間が、どのような罪を犯したのかは知りたくはないが、人として外れた道を歩んだ末路であることだけは認識できる。
囚人が収監される檻を左右に挟んだ通路の真ん中で、一人の女性の存在が途轍もない違和感を与えてくる。その女性は微動だにせず、ある人物だけを見つめていた。
自身の父親。
「あいつ……」
カイトが開錠して中に入った瞬間、鉄格子の向こう側の人間達は、会話を止めてこちらを一斉に目を向けてきた。入ってきた者が、看守でも何でもない、若い人間だということに怪訝な表情を浮かべるも、すぐに笑い声を口々に漏らしていく。
そんな彼らをカイトは無視し、一直線にミリの下へ歩み寄っていく。そして、ミリに向けて十字を切る。それにより、二人の間に目を覆いたくなる程の光が生じ、ミリは苦しそうに数歩後ろへ下がった。
『う……くぅ……』
彼女には還す行為はしたくなかった。還してしまう可能性を危惧していたが、彼女の名を呼ぶだけでは足を止めてくれないと思ったからだ。
賭けであったが、成功して良かった。
自分の胸に手を当て、苦しそうに呻く彼女の姿がカイトの胸を鋭くつついた。友人に向けてこの行為をしてしまうのは非常に心が痛む。彼女の顔を歪めてしまっているのだ。
ミリは固く瞑った目を開き、その黒く濁った目でカイトを睨みつけてくる。
カイトは舌打ちすると、彼女から視線を逸らし、ベッドで横になっている彼女の父親、ダンへと目を向けた。
「おい、クソ野郎」
「……あ?」
閉じていた目を開け、カイトの姿を確認するなり驚いた様子で片眉を上げた。
「有言実行の割には早いな。それか、他の誰かを殺っちまったか?」
「お前の質問には答える義理はねぇ。俺の質問だけ答えろ。あいつに対する謝罪があるなら聞いてやる。てか、言え。幾分かマシになるぞ」
異様な瞳をしたミリを落ち着かせるには、本人の謝罪が一番だろう。突発で、強引なやり方だが、何もしなければ、彼女は父親を細い腕で殺してしまう。黙って見るよりも行動だ。
「どうなんだ? そうすれば、今までの事はなしにしてやる」
「あぁ……そうだな。色々考えて、一つ思ったわ」
一拍置き、彼は答える。
「もっと絞り取っておけばよかったってな」
カイトとミリを馬鹿にするように笑みを浮かべて、憎たらしく笑う。
どこまでもクズか。
カイトは彼からも目を逸らし、ため息を吐く。
ミリがダンを睨みつけた後、一度だけ目を回した。その瞬間、鉄格子の向こう側に居る囚人たちがほぼ同じタイミングで苦しみだし、その場に倒れてしまった。痙攣を起こし、口から泡を吹く者も居り、彼らに振りかかっているものが、異様なものであると一目で認識できる状況だ。
「おい……何がどうなって――」
ダンが突然の出来事に右往左往していると、何の前触れもなく、両方の鼻から大量の血が溢れて行き、囚人服を赤色に染めていく。
「な、なんだ……これは、よぉ……っ!?」
出血を抑える為に当てた真っ赤に染まった掌を見下ろし、絶叫するダン。それだけではなく、耳、目からも血が流れ始め、その惨状にカイトは思わず目を逸らしてしまう。
そして、彼の絶叫はベッドから落ちる音と共に止み、それ以降聞こえてくる事は無かった。
事務所で起きた現象が再び起き、その要因である彼女が、今度はこちらへと牙を向けようとしている。風もないのに靡く綺麗な髪も今や恐怖を与える恐ろしいものへと変化していた。
『もう、私の邪魔はさせません』
普段見せない、憎悪に満ちた表情を浮かべ、血の海に沈むダンを睨み続ける。
「待て、ミリ!」
彼女の名を呼ぶ。しかし、彼女は醒めた目でこちらを汚らわしい物をみるような目で見据えてきた。
『その名前で呼んで良いのは、カイトさん達だけです。気安く呼ぶなぁ!!』
丁寧な言葉遣いを荒げて叫ぶミリに、カイトは一歩たじろいでしまう。
ここまで感情を露わにするほどに憎悪は、自分自身を酷く追い詰めているのだろう。
それよりも。
(俺に気付いていないのか?)
短い期間ではあるが、毎日会っている人間の顔を一日で忘れてしまうくらいの怒りと憎しみを抱くということはない。現に、自分の名を口に出しているのだ。
認識が出来ていない。
そうとしか思えない。憎悪の根源であるダンの認識のみ抱かせ、それ以外のものを一切遮断していると判断してよさそうだ。
誰だから止めるという手段は取れそうにない。彼女から只の第三者。人として認識していることすら怪しい。
「父親を殺してどうすんだよ。復讐してお前に得があるのか?」
『父……同じ血が通っている事すらおぞましい……っ。私の前から消さなければ、私は前に進めない。夢を叶える事が出来ないんです!!』
夢。きっと、還し屋になることだろう。
還すということは、人助け。クリスからそう教わって還し屋になり、一年過ごしてきた。ミリも還し屋になるのならば、その気持ちを持ってくれるだろう。誰から見ても、心優しい女性なのだから。
しかし、今の彼女は目の前の幸せを奪おうとした父に向けて底知れぬ殺意を向けている。
人を救うとは対極となるものをしようとしている。
「……お前の夢ってなんだ?」
カイトは質問する。
「お前が人を手に掛けようとしてまで叶えたい夢ってなんだ?」
夢に執着する事は悪い事は出は無い。だが、叶える為に必要な物を見いだせず、必要な物を自ら捨て去ろうとする彼女を、カイトは許せなかった。
『私は……還し屋になりたい。けど、奴はそんな私の夢を奪おうとするんです……。カイトさんやセレカさん、クリスさんと一緒にミストを……人を救いたい……! だから――』
「還し屋は人助けだ。この世に未練を残している人を還すのが俺達の役目だ」
けどよ、と続ける。
「お前がやろうとしてることは、逆だ。人の道を絶とうとしてるだろうが。そんなやつが人助け出来る訳がねぇだろうが。復讐はけじめか? 復讐して気持ちの整理をしたとしても、人を殺したやつがまっさらな人生を遅れるはずがねぇんだよ。人生なめんじゃねぇぞ」
『じゃあ、どうすればいいんですか!? 復讐するなってことですか!? それで気持ちが晴れるんですか!? そんなもので私は救われませんよ!』
二つの感情の他に、哀しみの感情も浮き出し、険しかった彼女の表情が悲痛に歪み始める。
「復讐にやり方なんていくらでもあるだろうが。幸せなところを見せ付けてやれよ。相手がみじめになるくらいに、お前が幸せになれ。その為に俺らがいるんだ。俺が、俺達がお前を幸せにしてやる。どんな事があってもだ」
幸せにする。それは何の保障の無い言葉だ。誰からも約束されず、先も見えない人生の中でもっとも難関な道でもある。何かの拍子に理想とした道から外れ、修正するのに途轍もない時間を要してしまう可能性だってある。
一度幸せの道から外れたミリは、その言葉を聞いて顔を歪ませる。そして、その辛そうな顔から、カイトに問う。
『あなたは一体……一体なんなのですか!?』
「お前を幸せにする半人前だ。カイト・ローレンスだ!」
自分の胸に拳を打ちつけ、叫ぶ。
自分が幸せになる努力も未熟な中、彼女をも幸せに出来るのか不安ではある、半人前なのだから当たり前だ。しかし、自分の周りには頼りになる人達が居る。彼女達と共になら、ミリを幸せにだって出来る筈だ。
『カイト……さん?』
呆然と呟くミリの目がゆっくり元の蒼い瞳に戻っていき、数回瞬かせる。すると、カイトの姿を改めて見るなり大きな目を見開かせた。
『か、カイトさんっ!? 本当にカイトさんなんですか?』
先程から話していたのに、突然現れたかのように驚く彼女に違和感を覚えるが、いつもの彼女に戻ったのでよしとしよう。
「本当にって……さっきから――っと……」
何の前触れもなく全身の力が抜け、その場に両膝を着いてしまう。立ち上がろうとするも、膝が震え、はっきりした意識とは裏腹に、酷く疲労していた。
今になって彼女に当てられた影響が出たのだろう。
鉄格子を支えに何とか立ち上がると、血だまりの上で動かないダンへと目を向ける。それに倣って、ミリも彼を睨むようして見る。正気には戻ったものの、彼に対する怒りは幻想ではなく、確かなものであり、一生消えることはない。
『私は絶対に許しません。それくらいの事をしているんですから』
「分かってる。物理的な復讐しなくていんだよ。お前の役目じゃねぇ」
すると突然、ダンの体が僅かに動き、二人は会話するのを止めた。
「うぁ……くっそ……あぁ?」
口に付着した固まりかけた血を拭った後、カイトをじろりと睨む。
「てめぇ……」
「早いお目覚めじゃねぇか。性根腐ってる割にはタフだな」
「口閉じてろ、クソガキ」
ダンは震える足で立ち上がると、片眉を上げ、鉄格子に額を当てる程に近付けてきては、
「あいつを幸せにするって言ったがよ。あいつは幸せとは縁のねぇ人生を送らせてやったからな。これからの事が全部異常になるんだ。幸せが苦痛になるってことだ」
笑みを浮かべさせる。
「そうかよ。でもな」
カイトは、血に染まったダンの囚人服を掴む。彼は振り払おうと腕を掴んでくるが、逃がさないようにしっかりと捩じ上げる。
「そんな理屈、糞食らえだ」
そう告げたのと同時に、ダンの顔面へと自らの拳を叩きこんだ。
物理的現象による鼻血が弧を描き、ダンは大きく仰け反ると、再び自身が作った血の水溜りに沈んだ。二度に渡って気を失うということはとても酷なものなのだが、彼に同情する気などさらさらない。
カイトは痛む拳を軽く振ると、ミリに向けて笑みを浮かべさせる。
「ちょっとはましになってくれたか?」
ミリは殴られ、赤く腫れ上がったダンの顔を見て、数秒経ってから頷く。その動作が、渋々納得したということが汲み取れ、カイトは苦笑いしながら頭を掻いた。
しかし、彼女の気持ちは痛い程分かる。日頃の暴力を振るってきた人物が、他人の殴打で終わらせられるのは釈然としないものだ。それでも、彼女が暴力に訴えるということだけは避けたかった。優しいからこそ、彼女の顔をこれ以上、憎しみに歪ませたくない。
「じゃあ、行くぞ。まだやることがあるしな」
出入り口を顎で示すと、それに対してミリが首を傾げさせる
『やること……ですか?』
「あぁ。もう一人、やりすぎた奴が居たからな」
ミリを憎悪と殺意で染め、危うく人を殺させようとし、人生をやり直すという重要な過程を根こそぎ刈り取り、第二の人生を奪おうとした人物。
「そいつをぶん殴る」
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