護衛任務 20

 お昼を食べ終えた僕らは、村に戻りながら、ジャッカロープの狩りを続ける。

 縄張り争いをしていた2匹ジャッカロープを横から殴り倒し、昼寝をしていたジャッカロープを1匹、不意打ちで仕留めると、僕らは村に帰ってきた。


 タカオが僕に聞く。


「フレディのレベルは上がったかな?」


「うーん。まだだと思うよ。ジャッカロープを7匹しか倒してないし」


「まあ、とりあえず教会でみてもらうか」



 教会に行き、神父さまに見てもらう。


「すいません。フレディ君のレベルを見てもらえませんか?」


「良いですよ。フレディ坊や、こちらへ来て手を置いて下さい」


「はい」


 フレディ君は、水晶玉のついた魔法道具に手を置くと、司祭さまが呪文を唱える。


みちびきの女神マグノリアス様、この者のレベルを教えたまえ」


 すると『3』という数字が浮かび上がった。これはもちろん3レベルという事をさしているのだろう。

 ちなみに僕のレベルは3レベルで、いきなり追いつかれた。タカオのレベルは2レベルで、すでに追い抜かれてしまった。



「やったぁ、レベルが上がっているから、魔法を覚えられるよね」


 フレディ君は純粋に喜ぶが、レベルを抜かれてしまったタカオはきがきではない。


「お、おう。やったな、もうレベル3とは、やるじゃないか」


「うん。お姉ちゃんたちはレベルはいくつなの?」



 子供の無邪気むじゃき残酷ざんこくな質問がきた。タカオは真実を言うか、適当な言い訳を並べて、ごまかしてしまおうか、悩んでいるようだ。挙動不審きょどうふしんで冷や汗をかいている。

 時間を稼ぐために、とりあえず僕がレベルを発表する。


「ええと、ちょっと待ってね。ギルドカードを確認してみるよ。僕のレベルは4だね」


 ギルドカードは魔法の力により、リアルタイムで状況が表示される。よかった、ここに来てからの戦闘で、レベルが4に上がっていたみたいだ。それを聞いて、タカオが僕のギルドカードを覗き込んで来た。


「おっ、レベル4か。知らないうちに上がってたんだな。俺もギルドカードを確認してみるか……」


 おそるおそるギルドカードを取り出し、レベルの数値を確認する。すると、タカオの表情が明るくなった。


「俺のレベルも3だ。フレディと同じだな」


 どうやらタカオもレベルが上がっていたようだ。最低限の面子めんつは保たれた。



 神父さまが、フレディ君に声をかける。


「まずは取得できるスキルの一覧を調べるのですが、この作業には、銀貨2枚がかかります。さらに、スキルが取得できるとして、スキルの取得には、ひとつにつき、銀貨5枚かかります」


 金額を聞いて、フレディ君の表情が曇った。そんなにお金を持っていないのだろう。そこで僕が声をかける。


「そのくらいなら僕がだしますよ」


「いいの? ユウリお姉ちゃん。大金たいきんだよ?」


 銀貨1枚は、日本の価格の感覚だと、およそ1000円。子供には大金だろうが、冒険で稼いでいる僕らにとっては、大した金額ではない。


「大丈夫だよ。お姉ちゃんはお金をもってるから、覚えられるだけ覚えなさい」


「わかった、ありがとう!」


 明るい表情に変り、フレディ君に笑顔が戻った。


「では、こちらへいらっしゃい」


 神父さまに連れられて、違う種類の魔法道具の前に行く。



 その魔法道具は、ファックスのような形をしていた。神父さまが使い方を説明する。


「そのくぼみに手を置いて、しばらくジッとしていてね。今からスキルの一覧を、紙に印刷するから」


「はい」


 手を置き、神父さまが呪文を唱える。


みちびきの女神マグノリアス様、この者の才能と技能を示したまへ」


 すると、魔法道具はカタカタと動き出し、スキルの一覧を印刷しはじめた。ただ、そのスピードはかなり遅い。もしかしたら手書きの方が速いかもしれない。



 印刷している間に、タカオが小声で僕に聞いてくる。


「なあ、フレディのレベルが2つも上がったのは、ユウリの付けたスキルのせいだよな?」


「うん。『取得経験値、増大』ってスキルを付けたからね、そのせいだと思う」


「そのスキル、具体的には、どんな効果なんだ?」


「ちょっと待って、調べるから。ええと、本人に入ってくる経験値が7倍。パーティーメンバーに配られる経験値が3倍だってせさ……」


 僕は、とんでもないスキルを付けてしまったようだ。



 スキルの詳細を聞いて、タカオが渋い顔をする。


「これは、これから先、冒険者としてやっていくとすると、苦労するかもしれないな……」


「えっ? なんで? 経験値がこれだけ増えれば楽になるでしょう?」


「いや、本人とパーティメンバーで入ってくる経験値が違うっていうのが問題になると思うんだ。同じ冒険をしていても、1人だけレベルがポンポン上がっていくわけだろ? 下手すりゃ不正を疑われておかしくない。他のメンバーから仲たがいの原因になるんじゃないか?」


「あー、うん、そうかも。確かに他の人とパーティーを組むときには、注意が必要かもね」


 確かに、パーティーに後から入った新入りに、あっという間にレベルを追い抜かれたら、面白くないと考えるヤツもいるだろう。下手をすると、パーティー追放という事も考えられるかもしれない。



 色々とフレディ君の未来を考えているうちに、所得スキル一覧が印刷し終わった。


 印刷された紙を見てみると、僕の持っているスキル『発熱』『冷却』『製水』『洗浄』『整地』『修理』『石の壁』に加え、『石の矢』『炎の矢』『氷の矢』と、初歩的な攻撃魔法まで覚えられるようだ。


 僕が神父さまに聞く。


「フレディ君のスキルポイントはいくつでした?」


「ちょうど10でした。ここに表示されているスキルの数は10なので、全て覚えようとすれば、覚えられますね」


「では、全て覚えてしまいましょう」


 スキルの鑑定と習得に掛かった費用、合計で銀貨52枚。覚えられるスキルが多すぎて、思わぬ出費になってしまった……

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