街の図書館

 僕らは、街の中央にある図書館にやってきた。

 図書館はあまり大きな建物ではなく、コンビニの建物を少し大きくした程度だろうか。


 入り口から中に入ると、僕らはお婆さんに声をかけられた。


「レインコートは脱いで、そこのコートかけに掛けておくれ。本に水は天敵だからね」


「はい、分りました。僕らはこの街の住人ではないのですが、この施設は使えますか?」


 僕が聞くと、お婆さんはこう答える。


「身分証明書はあるかね?」


「ギルドカードならあります」


「それなら、登録料を払えば使えるよ。1人につき銀貨3枚だ」


「ではお願いします」


 僕とタカオはお金を出して、ギルドカードを渡す。お婆さんは石版のような装置にギルドカードをセットすると、石版がぼんやりと光を放つ。



「ギルドカードの裏に、この図書館の利用許可証を追加しておいたよ。次からそいつを見せておくれ」


 お婆さんがチェックをして、ギルドカードは僕らに返された。僕がお礼を言う。


「わかりました。ありがとうございます」


「ところで、何か探している本でもあるのかね?」


「ええ、生活魔法について、どのような魔法があるのか調べようかと思ってます」


「その様子だと、入門書や、初級の解説本でいいのかな?」


「そうですね。その手の本です」


「そちらの黒髪のお嬢さんは、どんな用事だい?」


 タカオに要件を振ると、こう言った。


「俺は、剣術に関しての本がいいぜ。格好いいイラストがたくさん載っているやつ」


「わかったよ。剣術のスキルが載っている本にしようか。私の後をついて来なさい」


 僕らは入り口から、図書館の中へと移動する。



 図書館の大きさはあまり広くないと思っていたのだが、実際に中に入ると印象ががらりと変る。

 4メートル近い、背の高い本棚が整然と並んでいて、この空間はびっしりと本で埋め尽くされていた。本は、かなりの数になるだろう。


 お婆さんは、本棚の間を進み続けて、何冊か本を手に取ると、僕に向ってこう言った。


「これが『図解で分る、生活魔法』、こっちは『べんりな生活魔法の使い方』、最後のは『生活魔法、最強の教科書』。これで大体わかるはずだよ」


「ありがとうございます。読んでみます」


「次に剣術の本だね。ちょっと高い位置にあるから、脚立きゃたつを動かさないと」


「あっ、力仕事なら俺らがやるぜ」


 タカオが気を利かせて、仕事を買って出る。


「それじゃあ、任せるよ」


 脚立を移動し、タカオが上に登り、お婆さんの指定したタイトルの本を手に取る。

 タカオの本は『剣術のスキル年鑑』というタイトルだった。

 このお婆さん、図書館の本の場所を、かなり把握しているみたいだ。



 本を受け取ると、読書コーナーに移動して読み始めた。


 どうやら生活魔法にも、『土』『水』『火』『風』の四大元素があるらしく。僕の覚えている魔法だと、土は『整地』、水は『冷却』と『製水』、火は『発熱』、風は『洗浄』になるらしい。


 魔法を使い込んでいくと、熟練度が上がっていき、ある程度の熟練度があれば、上位の魔法が覚えられるという話だ。


 上位の生活魔法、あらゆる汚れを清める『浄化』、壊れた物を直せる『修復』、性能をアップグレードする『改善』など。『改善』などは、構造をある程度は変えられるようなので、もはや錬金術に近い気がする。

 僕には『魔力の自動回復』のスキルがあるので、どんどん使って、熟練度を上げていった方が良いだろう。


 タカオは『剣術のスキル年鑑』を見ながら、独り言をつぶやいている。


「おっ、この技、格好いいな。こっちの技も良いな」


 ニヤニヤとしながら本を読んでいた。



 一通り、本を読み終えると、そこそこ時間が過ぎていた。

 僕たちは借りていた本をお婆さんに返却する。


「ありがとうございました」


「参考になったぜ」


「何か調べたい事があれば、また来なさい。本を丁寧に扱ってさえくれれば、いつでも歓迎だよ」


 お婆さんは僕たちから本を受け取ると、元にあった場所に戻そうとする。

 僕の借りた本は、低い位置にあったので、そのまま本棚に戻すだけだが、タカオの借りた本は、高い位置にあったので、脚立を登らなければならない。腰の曲がった高齢の人が、はしごに登るのは危なっかしいので、タカオが名乗り出た。


「俺が脚立に登るよ。どこに戻せば良いんだ」


「すまないね。その本棚の下から7段目、右の方だよ」


「ええと、ここら辺かな?」


「……うーん、最近、目が悪くなってきてね。とりあえずそこに入れておくれ。後で直しておくから」



 タカオは本を本棚に入れると、僕にこう言ってきた。


「目が悪いのって、魔法で治療できないのかな?」


「どうなのかな? そこまで効果があると思えないんだけど」


 そんな話をしていると、お婆さんが答えてくれる。


「低レベルの使い手だと効果が無いって話を聞いたね。大司祭さまのレベルになると、ある程度は効果があるっていう話だけどね」


「じゃあ、僕が試しに魔法をかけて良いですか?」


「あんた、白魔法が使えるのかい? 私は金を持ってないから、高額の白魔法の治療代なんて払えないよ!」


「いや、別にお金なんて要らないですよ」


「そういう訳にはいかないよ」



 遠慮するお婆さんの様子を見て、タカオは言った。


「ユウリ、やっちまえ」


「この者の病を治せ『治療の奇跡キュア』。ついでに怪我に効く『回復の息吹ヒール』」


 とりあえず、病気などが治るキュアと、怪我を治すヒールを両方かけておく。すると、それまで腰の曲がっていたお婆さんが、スクッと真っ直ぐに立ち上がり、周りを見渡しながらこう言った。


「さっきまで見えにくかったのが、嘘のように良く見えるようになったよ。腰も真っ直ぐになったし、ひざの痛みもしなくなった。あんた凄いね」


「治ったようでよかったです。では、これで」


 僕たちが去ろうとすると、呼び止められる。


「お金は無いから、せめてものお礼だ。本の貸し出しの資格を与えるよ。好きな本を持っていきなさい」


「えっ、他の本ですか…… そうだ。ギルドのクエストで、薬草を採取しようと思っていたんです。この地域に生えている薬草事典みたいなのはありますか」


 お婆さんはかろやかに脚立を動かし、脚立を駆け上がり、目的の本を素早く抜き取ると、僕に渡してくれる。


「返却期限は無期限だ。返すのは気が向いたらで構わないよ」


「ありがとうございます。お借りしますね」


 本を濡れないように倉庫魔法でしまうと、僕たちは図書館を後にする。冒険者ギルドに戻って、昼食にしよう。

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