第46話 エロゲー制作秘話、その2

『どこかわからないけど、そこからはキラキラしたものがいくつも見えた』

『お姉さんはずっとニコニコしていて、ぼくを案内していた』

『ときどきお姉さんは、ぼくを抱きしめてくれた。お母さんに叱られたりして泣いてたときは、泣きやむまで抱きしめ続けてくれてた』


 ひとまず、こんな感じの文章が目に入った。

 同時に、読めば読んだだけ当時の俺が何を言っていたのか、思い出しつつあった。


 確かに、俺はこんな感じの夢を見た記憶がある。あまりにも具体的すぎて、当時でさえも「これは夢じゃないんじゃないか」と思ったくらいだ。


 そしてそれを見た、リリアンネは。


「あー、確かにちっちゃいときのゆーたに話しかけたことはあったねー」


 やはり、自覚していた。

 なら、あれは夢じゃなかったのか――?


「んーん、ゆーた。確かに夢だったよ」

「あれ、でも俺はリリアンネと会ってたことに……」

「そうそう。けどね、当時はまだ、ゆーたたち地球人と直接接触するのは、避けられてたんだ。だから、夢という形式を取って、ゆーたに話しかけたの」

「なるほどな……」


 そうか。

 確かに、俺が5歳の頃は、まだ宇宙人の話を迷信扱いされかねない時代だ。わずか15年でここまで変わるだなんて、当時の俺も思わなかっただろうな。


 待て、これを俺は、父さんと母さんに話したのか……?

 もしかして、“シャインスター”が出来たきっかけって、本当に俺の夢だったのか……?


「ゆーた、お父さんが言ってた通りだよ。ゆーたが夢を話したから、“リリアンネ”が生まれたんだってば」

「ああ、それについてはもう実感せざるを得ないほどに認識してるぜ。このノートに書かれてることと、リリアンネとの共通点はこれでもかってくらいあるからな」


 ここまで事実を突きつけられちゃ、否定しようにもできやしない。

 だが、俺には2つ、気になることがあった。


「なにー?」

「ああ……まず一つ目。どうしてリリアンネは、15年前も似たような姿だったんだ……?」


 そうだ。15年前には、“シャインスター”はなかったはず。

 だのにリリアンネが今と変わらぬ、銀髪碧眼、そして巨乳の姿をしているのは、どうしたってわからなかった。


 そんな俺を見て、リリアンネは微笑みながら父さんを手で指し示す。


「おっ? リリアンネさん、俺がどうかしたか?」

「お父さん。ひとつ確認したいのですが……あなたの職業は、エロゲーライターでしたよね?」

「ああ、そうだぞ。それがどうかしたのか?」


 戸惑う父さんを横目に、リリアンネは俺に向き直る。


「ゆーた。あなた、ときどきお父さんのお部屋に入ってたよね?」

「あ、ああ……」

「そのとき、壁に“リリアンネ”とだいぶ似た感じの絵柄のキャラを見てなかった?」


 そこまで言われて、俺たちはハッとする。


「確かに……俺が手掛けたエロゲーヒロインの一枚絵を、壁紙にしてたことはあるな」

「俺は小さい頃、見てた記憶もあるな……。今にして思えば、俺のエロゲー好きは父さんの影響だったのかも」

「でしょ?」


 事実を確認するかのように、あくまで穏やかに告げるリリアンネ。興奮する様子は、まったく見えなかった。


「だからこういうのが好きかなって思って、自分なりに組み合わせを考えて姿を作ってみたの。まさか巡り巡ってエロゲーのメインヒロインにされて、しかもゆーたに好かれるとは思わなかったけどね」


 ここまで言われると、むしろこっちが恥ずかしくなってくる。

 と、リリアンネは俺に思い出させるように、話しかけてきた。


「ところで、ゆーた。まだ私に聞いてみたいこと、あったよね?」

「……あ」


 そうだ。まだ一つ、あった。


「リリアンネが俺と話すとき、今と同じ姿を取ってた理由はわかった。ただ……そもそも、どうして俺に近づいてきたんだ?」


 失念しかけてたのを、思い出した。

 俺が言い終えると同時に、リリアンネは「待ってました」と言わんばかりに微笑む。




「それはね、ゆーた。ゆーたの心が、とっても綺麗だったからだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る