第14話 幼馴染

「よーし、今日はここまで! 課題はもうサイトに載せたから、各自締め切りまでに提出するように!」


 君島先生の授業も終わり、俺はリリアンネを連れて昼食に向かう。今受けたのは1と2時限でまとめて受ける一つの授業であり、その分疲れも昼食のおいしさも格別であった。


「こっちだ。レストランがあるから、行こう」

「うん」


 食堂もあるのだが、正直うんざりする混み具合だ。

 それにもしリリアンネを連れて行けば、目立って面倒になりかねない。駅でもちらほら男たちが振り向いていたし、何ならあのオヤジみたくセクハラまでしようとする奴まで現れる始末である。

 比較的人口密度の低い移動中の今でさえリリアンネに向けているであろう視線の流れ矢を浴びまくっているのだ、どうなるかは容易に予想がつく。


 一方でキャンパス内のレストランならば、ある程度人はいるものの食堂よりずっとマシだ。

 やや料金が高くそう頻繁には行けないが、そのぶん人が少ない。特に二人以上で群れている自称陽キャ連中がそうそう寄り付かないので、俺はそれだけのために行くこともある。


「おーい!」


 と、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。リリアンネではない。


「おーい、勇太!」

礼香れいかか。どうした?」


 声の主は俺の幼馴染、佐々見ささみ礼香だ。

 茶髪のポニーテール、まだ若干幼さが残る可愛らしい顔、そしてそこそこ大きい胸。性格も明るく、聞いたところではそれなりにモテているらしい。なのにまったく浮ついた話を聞かないというのは、少し不思議だった。


「一緒にお昼食べよっかなって。ところで、隣にいる人は?」

「ああ、彼女は……」


 そこまで言ったところで。

 リリアンネが俺をさえぎって、礼香に挨拶した。


「初めまして。私、勇太さんの“友人”であるリリアンネと申します」

「こちらこそ初めまして。私、佐々見礼香といいます」


 ふむふむ。どうやら初対面の印象は、お互い良好みたいだ。

 ……ところで、今。リリアンネ、「友人」って言ったよな?


「このあと勇太……さんとレストランに行くんですけど、一緒にどうですか?」

「いいですね! 三人で行きましょっか!」


 言葉の端に引っかかりを覚える俺をよそに、二人は意気投合していた。


     ~~~


 さて、レストランに着いた。

 とはいえ、今日は落ち着けそうにない。ただでさえリリアンネが来ているのに、礼香まで一緒なのだ。おそらく話に花を咲かせるであろうことを考えると、俺は巻き込まれざるをえなかった。


「リリアンネ、食べたいものはあるか?」

「んー……。これかな」


 迷わずメニューを選ぶリリアンネ。

 その様子を見て、俺は冷や汗をかいた。


 1500円するぞ、そのハンバーグセット。

 持ってきた現金で、払いきれるか……? これ。


 とはいえ、俺がどうにかするしかない。最悪礼香に借りたいところだけど、それはなるべく避ける。


 なので俺は、なるべく安いものを選ぼうと――


「待ちなよ、ゆーた」

「リリアンネ?」


 ちらりと振り向くと、リリアンネは財布を持っていた。

 チャックが開いており、中身が見える。


「安心しなって。ちゃんと持ってきてるし、私の持ち分は私が払うから」

「あ、ああ……」




 あっけにとられつつも、俺は結局、食べたいナポリタンを注文した。

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