79「友也の死後のお話です」②





「それで結局、友也くんを殺した奴は少年院に入ったよ。あ、もう少年刑務所に移ったかな? ただ全員が全員罰を受けたわけじゃなくて、保護観察処分で終わった子もいるの。あくまでも重い罰を受けたのは首謀者だけ。でも、あいつらだって数年で出てきちゃうし」


 人をひとり殺しておきながら、罪が軽すぎると茜は憤っていた。


「でもさ、保護観察処分で終わった子たちは……やばかったよ」

「どういうことですか?」

「ほら、友也くんって、えっちなことをする割には人気あったでしょう?」

「え、ええ、まあ」

「その子たちが、正直引くほど怒っちゃって……」

「うわぁ」

「結構追い詰められたようで家族と一緒に病んじゃって、中には」

「あ、もういいです。聞いているこっちが滅入ってしまいそうですから」

「そうだよね」


 ふう、と友也は息を吐き出す。

 かつてラッキースケベばかりしていた友也だったが、顔がいいこともあり、一部の女子がストーカーになるほど好かれていた。

 そんな子に付き纏われて疲弊していた友也からすると、恨まれて付き纏われた加害者たちに、少しだが同情した。

 特に関係のない家族には、より同情が大きい。


「あのね、友也くん」

「はい」

「ご両親のこと、聞く?」

「…………一応、聞いておきましょう。お願いします」

「うん」


 両親に関しては、なにも思っていない。

 茜や、彼女の祖母や、白川司という気にしていた人間の中に、両親はいないのだ。

 育児放棄していた親に、期待はもちろん、失望もなにもない。

 本当に何も感じていない。

 それでも、自分の死後どうしていたのかくらいは聞いておくべきだろうと思った。


「あのね、友也くんの事件はニュースになったの」

「……はい?」

「全国ニュースで一ヶ月以上騒がれていたよ」

「……ま、まさか、僕のラッキースケベが全国ネットに!?」

「それは大丈夫! テレビでは大丈夫!」

「テレビではって、まさか」

「ネットではラッキースケベ大魔王とかラッキースケベ太郎とか言われていました」

「はははははははは! ちくしょう!」


 涙が出そうになった。

 こちらの世界で「ラッキースケベ大魔王」という愛称で呼ばれることには慣れてきたが、まさか前世の世界でも「ラッキースケベ大魔王」と呼ばれていたとは。

 やはりこの体質は呪いだと思った。


「なんか、ごめんね?」

「あ、茜さんが謝る必要はありません。僕はこの世界でもラッキースケベ大魔王ですからね!」

「あー」


 自棄になって自慢するように胸を張ってみると、茜はなんともいえない顔をしてしまう。


「と、とりあえず、話を進めるね!」

「お願いします!」

「えっと、ニュースになる前に、友也くんのご両親の育児放棄はしっかり問題になったの」

「そうでしょうね」

「お母さんから聞いた話だけど、友也くんのご両親は職場で針のむしろだったようで、仕事を辞めたようなの。そこに、ニュースで育児の放棄のことも言われちゃったもんだから……生きてはいるみたいだけど、ずっと顔を見たことはないかな」

「正直、ざまあみろって思います」


 友也の体質のせいもあるが、両親は我が子を見捨てた。

 愛情に飢えていた幼少期に、存在をないものとして扱われた。

 今なら仕方がない、と割り切れるが、当時は両親を憎んでいた。

 そんな両親が不幸な目に遭っているのなら、もういい。


「……友也くん」

「教えてくれてありがとうございました。これで過去と決別できそうです」

「……うん」


 友也は茜にお礼を言うと、手を差し出す。


「今の僕は、魔王遠藤友也です。この国を倒すために王宮に乗り込んできましたが、まず茜さんを保護したいと思います」

「よろしくお願いします。でも、その前に――」

「なにか問題でも?」

「うん。この国の王様グレゴリー・スノーデン様が監禁されているの。あと、多分だけど、第一王子のスレイマン様も」

「国王は健在でしたか。僕の記憶だと、スレイマン殿下はこの国では珍しくまともであるはずです。生きているのであれば、保護したいですね」


 国を完全に滅ぼすことは難しい。

 例えば、最大火力で領民ごと消し飛ばしてしまえば話は別だが、それはできない。

 できるだけ善良な人間を保護したいと思っているが、長い時間を生きていた友也には、今はよくてもいずれはスノーデン王国を復活させたいと思う人間が出てくるとも予想できていた。

 ならば、完全に滅ぼすのではなく、王族を生かし、国力を削り、どこかの国の属国にしてしまうくらいがいいのかもしれない。

 王族を貴族としてスカイ王国に受け入れてもらうのもひとつの手だ。

 それは、後で考えればいい。

 最悪、魔王ダグラスあたりに押し付けるのも手だ。


「できれば、子供をふたり一緒に保護して欲しいんだけど……大丈夫?」

「もちろんです」

「……よかった。ありがとう」

「いいんですよ。では、スレイマン殿下を探し、グレゴリー陛下と子供を保護しましょう」

「うん!」


 友也と茜が頷き、行動に移ろうとする。


 ――その時だった。


「――っ」


 爆発的な魔力が生まれた。


「え? え?」


 友也だけではなく、茜も魔力の渦巻きに気づく。

 少し離れた場所で、今までの勇者の誰とも違う、異質な魔力が生まれた。

 魔王とも違う、もっと別のなにかが。


「……これは、一筋縄ではいきそうもないですね」


 友也は、想定外の存在が現れたことに動揺を隠せずにいた。






 〜〜あとがき〜〜

 友也を加害した少年たち、両親はきちんと罰を受けております。

 さて、次回は復活した勇者くんです!


 カドコミ様にて「いずれ最強に至る転生魔法使い」最新話(十八話)が更新されております! ぜひお読みいただけますと幸いです!

 最新コミック3巻も発売したてですので、ぜひぜひお読みいただけますと嬉しいです!

 GWのお供に何卒よろしくお願いいたします!

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