間話「いっぱい飲みに来ました」②
「いやぁ、サミュエル・シャイト領主様とこうして一杯飲めて嬉しいぜ。スカイ王国民として認めてもらえたし、酒造りの給料も出るし、至れり尽くせりだな!」
「オフェーリアのおかげだよ。俺は内政は全然駄目だったなぁ」
ドワーフたちのリーダーガロンは、嬉しそうにウイスキーが注がれたロックグラスを掲げて、サムと乾杯する。
「そんなことねぇだろ。お前さんがいてこその、この領地と俺たちだ。前の領主は、酒だけ作らせておいてあとは取り上げていたからな! 天と地の差だ! 家も建てさせてもらえて、国から家族を呼んでもいいんだよな?」
「もちろんです。各地に散らばっている村などもできる限りひとつにまとめて大きな街を作って計画ですから、移住は大歓迎です」
「はっはっはっ! 嬉しいねぇ! ――ところで、そろそろあのお方たちを止めてくれねぇか、酒が無くなっちまう」
「あー」
サムとガロンは蒸留所の一角で飲んでいる。
夜にちゃんとした場を設けて飲もうという話だったが、ガロンが我慢できず準備していた。
最近では、人間も酒造りに参加するようになったが、まだメインで働くのはドワーフたちだ。おかげで、他ドワーフたちは酒が飲めずに仕事しているのだ。
そんな彼らの背後には、マイジョッキ片手に最近作り始めたビールを水みたいに飲むマクナマラ。ウイスキーの原酒を舐め「よし、この酒はこの樽に詰めろ」と命じて、樽にサインをしているゾーイ。竜王炎樹に至っては、樽を両手で持ち上げて、ごっごっごっ、と直飲みしている。
「友也くん、任せた!」
「無理です。無理無理。ぶっ飛ばされます!」
サムの隣でちびちびウイスキーを飲む魔王遠藤友也は、酒が入った三人に関わりたくないようだ。
サムもガロンも同じだ。
余計な反感を買って絡まれたくない。
「酒が無くならないことを祈ろう」
「……ドワーフ的には、あれだけ美味そうに飲んでくれるなら全部飲み干してくれて構わねえんだが、商人たちが泣くぞ」
「あ、あはははは。かんぱーい!」
サムが飲むウイスキーはガロンが気をきかせて用意してくれた十五年ものだ。
成人の十五歳にちなんだ年数を飲ませてくれるのは嬉しい。
芳醇な香りと、濃厚な甘味、そして塩っけと癖が最高だった。
「た、大変です! 所長!」
「ああ?」
ウイスキーを味わっていると、青年が走ってきた。
なにやら慌てている様子だ。
「何事だ?」
せっかく良い気分で酒を飲んでいたのに邪魔をされたと不機嫌気味に訪ねるガロンに、青年は顔を青くして告げた。
「他の領地からやってきた商人が酒を買い占めるとか言って乗り込んできました!」
「なんだと!?」
「よくわかりませんが、樽ごとすべて買い占めるとのことです!」
「いきなり、なんだって言うんだ、ふざけやがって!」
憤るガロンの背後で、マクナマラ、ゾーイ、炎樹の瞳が剣呑に光ったのをサムと友也は見てしまった。
礼儀知らずの商人が酷い目に遭うことが決まったので、ふたりは揃って黙祷を捧げたのだった。
〜〜あとがき〜〜
商人さんなーむー。
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