58「危機です!」③





「僕の力を知りたいのかな? でも、教えてあげないよ。君の怖さはすぐに対応してしまうことでもあるからね。せいぜい悩んでほしい」


 アルフレッドがにこりと微笑む。が、ひどく歪んだ顔をしていた。

 彼はロボの頭部を潰してしまいそうなほどの力を足に込める。


「ロボちゃん!」

「おっと、アリシア・シャイトくん。君には用はないので、不用意な行動はしないほうがいい。君は稀有な体質らしいが、僕にとってなんの価値もないのだからね。と言っても気にした様子もないので、こう言った方がいいかな? 余計な手間を増やすなら、まずロボを殺す。僕の機嫌を損ねないように、息を殺してじっとしていろ」

「――っ」


 アリシアは、アルフレッドが本気でロボを殺すことになんの躊躇いもないと理解したようで、両手で口を覆って頷いた。

 アルフレッドが満足そうな顔をする。


「うんうん。素直でいい子は好きだよ。さて、遠藤友也も動くな。何かしようとすれば、あー、いや、君が何かしようとしていると僕が思った瞬間にロボは殺す。ついでに、用事のない女も殺そう」

「……貴様」

「あと、君が殺せなかったもうひとりの僕が、現在進行形でこの家の人間を確保している。彼らだって殺されたくないだろう?」

「――魔王である僕にそんな脅しが通用するとでも?」


 アルフレッドと睨み合っている間に、友也は思考を巡らしていた。

 アリシアが聖女ではないのなら、ステラかリーゼのどちらかだ。

 スカイ王国王家の直系であることを考えると、ステラなのだろうが、リーゼにも王家の血は流れている。

 実にわかり辛い。


 そもそも友也にはなにを持ってして聖女と判断するのかわからない。

 ゾーイは聖女として崇められ利用された過去がある。霧島薫子は聖女として勇者と共にこの国に召喚されたというわかりやすい背景があった。

 しかし、ステラにもリーゼにもそのようなものはない。


「強がらなくていい。君のことは調べてあると言っているだろう? この場にいる誰を殺されるのも君は避けたくてしょうがないはずだ。おっと、時間稼ぎをしなくてもいいよ。サミュエル・シャイトは竜の里にいる。近くに転移が使える者がいるようだが、現在、この国は転移は使えないようにしてある。身を持って知っているだろう? だから期待しない方がいい」

「…………」

「実を言うとね、とてもこっそりやってきたのさ。だから、君が応援を期待している他に家にいる準魔王や、離れた国にいる魔王には期待しない方がいいよ。そうそう、ギュンター・イグナーツだったね、あの穢らわしい変態は。彼の元にももうひとりの僕を差し向けている。この意味がわかるね?」

「まさかギュンターが聖女だと?」


 友也の言葉に、そんな馬鹿なとアリシア、リーゼ、ステラが目を見開いた。

 しかし、アルフレッドは友也を汚物でも見るような目を向ける。


「どうすればそのような発想に至るのか理解ができないよ。あんな変態が聖女なわけがないだろう? 君、頭大丈夫かい?」


 こんな状況ではあるが、友也は自らを恥じた。


「さて、問答するつもりはない。君たちに断る権利などないのだから」

「…………あとで後悔することになりますよ」

「負け惜しみかな?」

「お前は、サミュエル・シャイトの本当の怖さを知らないんです」

「ふん。ではあとで、その怖さを教えてもらうとしよう。では、リーゼロッテ・シャイト」



「――え?」



「僕と一緒に来てもらおう」


 友也、ステラ、アリシアが目を見開いた。


「……まさか私が聖女?」

「誤解しないでほしい。君は自分が聖女たり得る存在だと思っているのか!」

「なら、なぜ――っ」


 言葉の途中で、リーゼはひとつの可能性に思い当たり、お腹を腕で庇った。


「――正解」


 友也は総毛立ち、脂汗を浮かべる。

 リーゼは青い顔をし、ステラとアリシアは彼女の腹部を見ていた。


「ま、まさか、そんな」

「聖女は君の娘だよ。光栄に思いたまえ、穢らわしい魔王と、魔王と交わった売女の子供が聖女なんて……女神の恩恵だ。感謝して、捧げたまえ」


 アルフレッドが血走った目をリーゼの腹部に向けた。

 にたり、と嗤うアルフレッドは、醜悪で恐ろしい。


「……なんてことだ」


 想像さえしていなかった最悪の事態に、友也はどうすればいいのかわからなかった。






 〜〜あとがき〜〜

 聖女はサムとリーゼの御息女でした!

 次回は、イグナーツ家です!


 コミック1巻、書籍1巻、2巻が好評発売中です!

 よろしくお願い致します!

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