63「荒ぶるクリーです」③





「ふふふっ、ふはははははは! 僕ことギュンター・イグナーツは囚われの姫となったが、気付いたのさ。僕は守られてばかりのお姫様じゃないと、ねっ!」


 ぱちん、とウインクするギュンターに、何が何だか、と一同は首を傾げた。

 攫われたと聞いたはずが、なぜかいるのだ。本人の言葉から、一度は攫われたが戻ってきたようだ。

 自力で帰ってこれるならそもそも攫われるなよ、と思ってしまったのはおそらくサムだけでは無いだろう。


「まあ無事でなによりだよ。んじゃ、クリーのことよろしく」

「待ちたまえ、サム。愛しい人よ。いくら僕が全知全能の天才イケメンだったとしても、荒ぶるクリーママを抑えることはできない」

「んじゃ、クリーのことよろしく」

「二回言わなくてもいいじゃない!? 真面目な話をすると、僕がカスッカスになる可能性があるのだが」

「わかったよ。干からびたら水につけてあげるから」

「切り干し大根じゃないのだから、そんなことでは復活しないのだがね!」


 いつも通りのやり取りをしていると、視界の端で居心地悪そうにしている青年――ヴァルザードを見つけた。

 警戒こそしていたが、敵意を感じないのでまずはギュンターに問い詰めることを優先していたのだが、そろそろ無視できなくなっていた。


「それで、ヴァルザードがどうしているのかな?」

「ぼ、僕は――」

「まあ、待ちたまえ」


 ヴァルザードがなにか言おうとしたが、ギュンターが止めた。

 彼はヴァルザードに優しく微笑むと、任せておけ、と言わんばかりに彼の肩を叩く。


「誤解がないようにちゃんと説明しよう。まず、――浮気ではない」

「んなこたー疑ってないよ!」

「ならば結構。ご存じのように僕はヴァルザードくんとお散歩に出かけていたのだが、秘密の森に迷い込んでしまってね。そこで森の熊さんと激しい戦いを繰り広げたあと、なんとか脱出できたのさ。立ち寄った小さな町で買い食いをしているカルくんを見つけてね。先ほどスカイ王国に送ってもらったのさ!」

「いろいろ突っ込みどころがあって、どこから突っ込んでいいのかわからない!」

「僕に突っ込めばいいのさ! 待ちたまえ、話し合おう。その魔力が込められた拳を収めてくれたまえ。僕でも痛いし、死んでしまう」


 なんとなくだがギュンターがヴァルザードを庇っているのだけはわかった。

 本当に、サムの最愛の人を攫いにきたのだろう。しかし、運良く、もしくは運悪くギュンターと邂逅し、最愛の人が彼だと勘違いして連れて行ってしまったのだ。

 そこまではわかるが、なぜギュンターとヴァルザードが一緒にスカイ王国に戻ってきたのかが不明だ。


「サム、どうしますか?」

「あー、ギュンターが問題ないって言うのならそれでいいんじゃない」


 サムは見逃さなかった。

 ギュンターが常にヴァルザードを庇おうとしているのを。

 サムや友也が問答無用で攻撃をしても対処できる立ち位置にいるのだ。

 ギュンターは変態だが、悪党を理由もなく受け入れるほど酔狂ではない。何らかの理由があるのだ。

調子づくので絶対に口にしないが、サムもギュンターを信頼している。

 彼の行動を信じようと思う。


「久しぶりだね、ヴァルザード」

「……うん。久しぶり、サミュエル・シャイト」

「一応聞いておくけど、戦うつもりは?」

「ない。僕にはもう戦う理由がないんだ」

「ならいいさ。だけど、話はあとで聞かせてもらうよ」

「うん」


 ――と、話が終わればよかったのだが、そうはならなかった。


「くけぇえええええええええええええええええええええええええ!」


 いつかサムがウルと冒険していたころに出くわした怪鳥みたいな奇声を上げて、クリーが降ってきた。


「ぐぺ」


 クリーはギュンターに多い被さると、くんかくんか匂いを嗅ぎ、甘噛みをし、舐めて味を確かめている。


「ギュンター様のご帰還ですわぁあああああああああああああああああああああ!」


 太鼓が盛大に鳴り響き、笛かぷぺぺーと鳴る。

 ギュンターもクリーが妊婦だとわかっているので全力で受け止めたが、その場に突っ伏して好き勝手されている。

 ひとしきりギュンターを確認して理性を取り戻した、クリーは当たりをキョロキョロすると、サムと目を合わせた。


「あら、サム様。こんにちは」




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