間話「カリアンの呟きです」
「――娘、マクナマラ・ショーンは死にました」
神聖ディザイア国に帰ってきた枢機卿カリアン・ショーンが告げた言葉に、誰もが驚愕した。
神聖ディザイア国の中で選ばれた十人だけが与えられる聖騎士の称号を持ち、その実力は上から数えた方が早かった、あのマクナマラ・ショーンが死んだというのは大きな衝撃を騎士たちに与えた。
多くの騎士の目標であり、憧れだったマクナマラゆえ、カリアンを問い詰める者もいた。
「マクナマラ・ショーンは、魔王遠藤友也によって……これ以上は私の口からは言えません」
カリアンの一言で、騎士たちはすべてを悟った。
かつてマクナマラが、最悪の魔王遠藤友也に陵辱され、その恨みを果たそうとしていることは周知の事実だった。
今回、マクナマラが単独で、国を抜け出したことは違反だが、おそらく力をつけた彼女が魔王を討伐しに向かったのだと誰もが思っていた。
しかし、カリアンの言葉から察するに、さぞ凄惨な死を向変えたのだろうと予想できる。
おそらく、口にできないような辱めがあったのだろう。
――実に、誤解である。
報告を終えたカリアンは、住まいも兼ねている孤児院に戻り、子供たちにお土産を渡して、シスターに労いの言葉をかけると、私室に戻った。
執務机には、亡き妻の小さな似顔絵がある。
カリアン自らが描いた、愛しい妻の似顔絵だった。
「――メラニーは思っていた以上に元気そうでした。孫のクラリスはどこか君に似て可愛らしく、サミュエル君は感情がよく動く幼い頃のメラニーそっくりな子でしたよ」
個人的なお土産でもらったウイスキーとワインのボトルを、テーブルに置き、「今度一緒に飲みましょう」とカリアンが笑う。
「マクナマラは死んだことにしました。さすがに魔王と仲良くしているとは言えませんので……遠藤友也殿には責任をとっていただき悪者になってもらいましょう。彼ならいまさら、神聖ディザイア国に恨まれても痛くも痒くもないないでしょうしね」
苦笑しながら、不在の間に溜まっていた書類に目をやり、肩を落とした。
枢機卿という立場は、少しの休日も許されないようだ。
「さて、娘と孫と楽しい時間を過ごせたので、お仕事をしましょう」
カリアンはペンを動かしながら、妻の似顔絵に向かって話しかけ続けた。
メラニーの現状。良き夫、娘、家族に囲まれて幸せそうなこと。
サムに複数人の妻がいて、子供まで生まれること。
ニコニコしながら、カリアンは事細かに妻に語り続ける。
「できることなら、ひ孫の顔を見るまで生きていたいのですが……個人的な予感ですが、そろそろ事は動き出すような気がします。しかし、それは私も望んでいるところです。教皇様のために、女神様のために、この身を犠牲にしてでも――」
続きは、心の中で思うだけにした。
どこで誰の耳があるかわからないからだ。
最愛の妻だけに、想いが届いていればそれでいい。
「サミュエル君、きっとわ私は君を利用する形になってしまうと思います。どうか、恨んでください」
どこか悲しげに、そして諦めたように、カリアンは呟いたのだた。
〜〜あとがき〜〜
次回から本編再開です!
よろしくお願い致します!
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