間話「姉妹のお悩みです」
子竜から無事に竜と成長を遂げたメルシーの妹たちは、ウォーカー伯爵家の屋根の上で日向ぼっこをしながら、真面目な顔をして話をしていた。
「……このままではお姉さまに比べて私たちの成長が遅れてしまいます」
「うーん。こまったなー、別にこまんないかもしれないけど、こまったなー」
「いえ、困ります。私たちのそろそろアリシアお母様とサミュエルお父様にお名前をもらうべきではないでしょうか?」
「くれるかなー? アリシアママもサムパパも本家ママにお伺いをたてるんじゃないかなー?」
周囲には「きゅるきゅる」とかわいい鳴き声に聞こえないが、姉妹や両親、そして同胞たちならなにを話しているのかわかる。
アリシアやサムのように竜と親和性の高い者でも、人によって少々の違いがあるが、意思疎通が可能だった。
「そうですね……ならいっそ別の方に頼んでみるのはどうでしょうか?」
きっと人型になればきりりとした真面目な委員長タイプが次女だ。
「頼むって、誰に頼むのさー?」
ちょっと面倒臭そうにしている三女は、きっと運動は得意だが勉強が苦手で授業中は寝ている子の印象だ。
「……リーゼお母様たちはどうでしょうか? 私たちによくしてくれますし、かわいくおねだりしたらいけるのではないですか?」
「いーや、リーゼママは厳しいでしょー。ステラママと水樹ママもリーゼママと同じで簡単に名付けはしてくれないんじゃないかな? 花蓮ママなら適当に名付けてくれそうだけど、適当は嫌だなー」
「フランお母様はどうでしょうか?」
「フランママが一番無理っぽい。あら、大人びちゃって、とか言われて流されそう」
「そうでしたね」
「というか」
「はい?」
「リーゼママたちにはアリシアママみたいのちゃんと僕たちの言葉が伝わらないから、名前が欲しいとか言っても難しくないかなー?」
「……失念していました」
次女はため息をつく。
いつも一緒だった三姉妹の長女がメルシーという名をもらい、今では成長し、竜になったことを羨ましく思う。
メルシーが自慢げに、サムパパの力になったことを話すので、サムパパを負けず慕っている次女と三女としては面白くない。
長女の成長を祝う一方で、自分たちの成長の遅さにちょっとがっかりしていた。
「――あ、そうです。ふたり、言葉が通じる人がいるじゃないですか」
「誰?」
「ギュンターおじさまです」
「あー、変態かー」
「こら! 変態に変態と言ってはいけないといつも言っているでしょう! ギュンターおじさまは私たちの言葉がわかるので、尚更です」
「普段からみんなに変態変態言われているんだから、気にしないと思うけどなー」
「それでもです!」
実は、ギュンターと子竜三姉妹は交流が結構ある。
三姉妹とサムのきっかけとなった救出劇にも居合わせ、その後も、会うたびに美味しいイチゴやオレンジ、焼き菓子を持ってきてくれている。
「サムたちには内緒だよ」とウインクするギュンターは、よきおじさんといった感じだが、本性が少々あれなのはちゃんと次女と三女も理解していた。
「あのさー、変態おじさんに名前つけてもらっていいの?」
「し、しかし」
「きっといい名前をくれるんだろうけど、みんなに変態が名付け親とか思われていいのー?」
「そんなことをいったら、この国のほんとんどが変態ばかりじゃないですか!」
「うん、それねー」
子竜たちからも、スカイ王国と民はこんな感じんだった。
「変態といえば、クライドおじさんも僕たちの言葉がわかるし、王宮で遊んでくれるから、好きには好きなんだけどー」
「名前がビンビンにされると困るので、おねだりはやめておきましょう」
「それがいいと思うよー」
クライドもギュンター同様に可愛がってくれるのだが、ある日をさかいにビンビン国王になってしまったので名付け親にはちょっと遠慮したかった。
今も変わらず可愛がってくれるので好きなのだが、それはそれ、これはこれ、だ。
「ま、アリシアママとサムパパがきっといい名前をくれるよー」
「そうですね。アリシアお母様とサミュエルお父様の判断を待ちましょう」
「でもー」
「ええ」
「今度、メルシーが自慢したらー」
「噛みついてやりましょう」
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