25「友也が振られたそうです」③





「ふははははははは! ざまあみろ、遠藤友也め! 私を弄んだ罪の重さを知るといい、ふははははははははははは!」


 高笑いをするマクナマラに、一同はドン引きだ。

 相手が「あの」遠藤友也であっても、結婚のチャンスだったというのに、と誰もが思う。

 そんなマクナマラに、そっと声をかける者がいた。


「あの、マクナマラ様。よろしかったのですか?」

「なにかな、ステラ・アイル・スカイ・シャイト?」

「よろしかったのですか?」


 声の主はステラだった。

 彼女は多くを語らずに、ただ問うだけ。

 マクナマラは肩をすくめ、苦笑した。


「どうやら王女殿下にはお見通しのようだな」

「少し、無理をしているようにお見受けしましたので」


 肩をすくめたマクナマラは、友也が飛び出して行った方角を見た。


「女神エヴァンジェリン様のおかげで冷静を取り戻した。私もスカイ王国に当てられていたようだ。ふっ、あの魔王遠藤友也が責任を取らせてほしいと懇願したときは嬉しかったが、ただの責任だけでは私も奴もいずれ後悔するだろう」


 今まで高笑いしていた人間とは思えない良識的な言葉が出てきたので、一同は驚く。

 先ほどの言動が演技だったのか、それとも素であったのかはわからないが、マクナマラは闇雲に友也に責任を取らせようと今は思っていないようようだ。


「まあ、しばらくは飲み友達くらいから始めるとしよう。奴が私とうまくいくかどうかもわからんしな」

「……んじゃ、若返りはなしでいいってことか?」


 エヴァンジェリンが、確認するように尋ねると、表情を消したマクナマラがずいっと顔を近づけた。


「……四十になっていろいろまずいと思った時にお願いします!」

「ちけぇよ」

「私の忠誠は女神エヴァンジェリン様に捧げますので、どうか!」

「忠誠はいらねーって言ってんだろ!


 結局、マクナマラはエヴァンジェリンに忠誠を捧げることは変えないそうで、きっと神殿唯一の聖騎士として働き出すのだろう。

 しばらくすると、少し頬を赤らめたサムとカリアンが戻ってきた。

 マクナマラは父の元に駆け寄ると、


「お父様、私はスカイ王国で女神エヴァンジェリン様の聖騎士として生活しながら、変態魔王遠藤友也の飲み友達になろうと思います!」

「――この短い間にあなたに何があったんでしょうか?」


 父親としてカリアンが動揺を隠せずにいると、クライドたち娘を持つ父親が彼の肩を叩く。


「カリアン殿、今日は飲もうではないか! 御息女の第二の人生が始まった記念である! いやはやめでたい! とてもめでたい! 実によいビンビンである!」

「いえ、ですから、なにがったのか説明を……遠藤友也殿がいないのも気になるのですが、なぜ娘がエヴァンジェリン殿を女神と呼んでいるのか、ご説明を」

「なあに些細なことである!」

「いえ、プライベートでも無視できないことだらけなのですが。ま、マクナマラ、お父さんにちゃんと説明を」


 説明を求めるカリアンをクライドたちが引きずって行ってしまう。

 この後、飲み会が盛り上がるだろう。


「えっと、俺もなにがなんだかなんですけど、友也はどこに? あと、俺の女体化はいつ解けるの?」


 サムも事態がわからずポカンとしていると、エヴァンジェリンが指を鳴らし、女体化が解けていく。


「――嗚呼、おかえりマイサン!」


 サムのサムが戻ってきたことを確認していると、リーゼとフランがサムの肩にそれぞれ手を置く。


「さあ、サム」

「はい?」

「これからは夫婦の時間よ」

「え?」


 腕を絡められ、耳元でそっと囁かれた。

 これから何が起きるのか察したサムは、期待やもろもろの感情で身体が熱くなっていく。


「誕生日だからね、僕達頑張るから!」

「クリーにいろいろ伝授されたので期待してほしい」

「頑張りますわ!」

「み、皆様、お母様の前ですよ!」


 やる気満々の、水樹、花蓮、アリシアに、ステラが嗜めるも、彼女自身もクリーからいろいろ教わっている。

 そして、リーゼたちと一緒にサムの近くにいるが、顔を真っ赤にしてなにも言わずにいるのはオフェーリアだ。

 彼女も今宵から、参戦だった。


「ふふふ。僕も負けてはいられないね。クリーママによって鍛えられた僕の絶技を誕生日プレゼントとして捧げよう!」

「あー、なんだ、その、変態」

「なにかな、女神エヴァンジェリン様」

「――お迎えだぞ」

「え?」


 サムの妻になろうとしているエヴァンジェリンだが、寿命が長いせいか、空気を読んだのかオフェーリアと一緒に参戦するつもりはないようだ。

 サムが魔王となり寿命が長くなったゆえ、長命同士の付き合い方というのがあるのかもしれない。

 ジェーンも、「いずれその時に」と微笑を浮かべ、「真打は後で、っすよ!」と変に自信満々なカル。そして「わ、私にはまだ早い!」と顔を真っ赤にしているゾーイたちも、それぞれ今ではないようだ。


 そして、


「――あはっ!」


 エヴァンジェリンが指差す方向にギュンターが顔を向けると、少女らしく可憐ににちゃりと笑顔を浮かべるクリーが、誰も使い方が想像できない器具を持ってそこにいた。


「……あの少女、禍々しくないか? 魔王か? え? あれで人間なの?」


 初見のマクナマラからすると、どうやらクリーは禍々しく見えるようだ。


「お迎えに参りましたわ。この数日、いろいろ楽しめたようでなによです。さあ、お約束を果たしていただきましょう」

「――っ、そ、それは」

「それとも皆様の前ではしたなくおねだりしますか?」

「……ふっ、サム、愛しい人よ。僕はこれからママに辱めを受けるが、いつだって君のことを」

「そういう無駄な前振りはいいのでさっさとお屋敷に戻りましょう。……ところで、ギュンター様が産んだ場合も双子扱いをしてよろしいのでしょうか?」

「ぴぃ!」


 小鳥のように怯えた声を出すギュンターが助けを求めるように手を伸ばすが、サムたちがみんな笑顔で手を振って見送る。

 クリーに引きずられていいったギュンターが何日後に現れるのか知らないが、しばらくは静かだろうと思う。


「さあ、私たちも家に帰りましょう」


 リーゼの言葉にみんなが頷き、王宮に集まった面々は解散するのだった。







 ――一ヶ月後、酔っ払った勢いで合体してしまった魔王と聖騎士がとても気まずそうに相談をしにくるのは、また別のお話。






 〜〜あとがき〜〜

 需要がありましたら、「また別のお話」も書かせていただきます!


 新作もよろしくお願い致します!

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