24「忠誠とかいりません」②




「……は?」


 ガインたちは、サムの言葉が信じられないと目を見開く。

 数秒固まると、改めて腰を深々と折る。


「我々は領主様に忠誠をお誓いします!」


 やり直されてしまった。


「いえ、ですから、そういうのいいんですって」


 サムが顔の前で手を振る。

 オフェーリアたちが苦笑した。


「とりあえず、はい、顔をあげてください」

「は、はい」


 椅子に座るように促すと、サムは自分の意見を伝えた。


「忠誠とかいらないです。そもそも、あなたたちがこちらを警戒しているのは十分に聞かされていますので、その上で口だけの忠誠を誓われたって困ります」

「そ、それは!」

「別に責めているわけではないのでお気になさらず。人間関係って難しいですよね。それも相手は領主だ。あなたたちのほうが立場が弱いのもわかります。それで、話を最初の方に戻すとですね。俺たちは、この港町の人たちと、いいえ、領民たちと友好な関係を築きたいんです。忠誠とかではなく、そうですね、立場は違えど友人のようになりたいって思っています」

「……友人ですか」

「信じられないかもしれませんが、俺の本心です」


 領主としての仕事は、正直オフェーリア任せになるだろう。

 サムとしては必要に応じて力になれることなら、領民のためにするつもりだが、できることなどせいぜい力技ばかりだ。

 モンスターが攻めてきて町を守るなら、問題ない。だが、漁業に関してや、農業に関しての意見を求められると困るのだ。


 異世界転生をすると、領地改革や技術の向上などをしたほうがいいのかもしれないが、普通の生活をしてきたサムにとって、領地に関することなどさっぱりだ。

 自炊だって一般的にしかできないので目立った料理を披露することはできないし、娯楽も同様だ。


 同じ転生者である遠藤友也は、大陸西側でいろいろやっているようだが、サムには難しいだろう。

 最近、転移者である霧島薫子が料理に関して多くのことに挑戦し、王宮の料理長が弟子にしてくれと土下座しにきたことは聞いている。

 そう考えると、サムは本当にすることがないのだ。


「ちょって待ってくれ、領主様よぉ!」

「これ、ハンクス! 口の聞き方に気をつけんか!」

「構いませんよ。どうぞ、ハンクスさん。言いたいことを言ってください」


 緊張しているようだが、言うべきことを言おうとする気概は嫌いじゃない。

 サムは、ハンクスに続きを求めた。


「前の領主はやりたい放題だった。税は五割持っていき、生活こそできても余裕はなかった。他の街でも同じだ。女も男も全員じゃないが、好きにされて心に傷を負った奴もいる。それを踏まえて、領主様はこれからこの町をどうするんだ!」

「えーっと、とりあえず前の領主に関してはご愁傷様でした。どのような人間か書類でしか知りませんが、もう死んだので。こちらからは、思うことはたくさんあるでしょうが、前を向いてくださいとしか言えません」

「……謝罪をするつもりはないのか?」

「言っておきますが、俺はハンクスさんたちの知る領主じゃない。謝罪しろというのならしますけど、先ほどの町長さんの忠誠を誓うと同じくらいの感情しか篭っていないですよ?」


 冷たいように思われるだろうが、サムとしては前領主に苦しめられた領民たちをかわいそうに思うが、それだけだ。

 顔も知らない前領主の行いを謝罪するつもりもない。

 謝罪してなにかが変わるなら、土下座することもやぶさかではないが、なにもかわらないことはわかっている。

 厳しいことを言うが、前を向いて生きたほうがよほど建設的だ。

 無論、被害にあった領民が乗り越えられるかどうかケアする必要があるだろう。


(個人的には、そうまで気に入らない領主だったら命をかけて殺せばよかったのに)


 誰かが犠牲になったとしても、残された人々が平和に暮らせるならと思って実行した人間はいないと聞いている。

 もちろん、家族や、それこそ町そのものに罰が与えられたらと考えてしまえば動けないだろうが、死んだほうがマシだとは思わなかったのは領民たちの意志だ。

 サムは今まで気に入らなければ戦ってきた。

 そう師匠であるウルに教わり、共に生きた。

 貴族だとか魔法使いとか関係ない。戦う意志があるか、ないか、が問題だ。


「別にあんたに謝罪してもらっても変わらない! それでもよぉ!」

「やめて、ハンクス。今はそんな話をする場じゃないわ。それに、何もしていない領主様に謝罪を求めるなんて、それはおかしいでしょう」

「ハンナ!」

「領主様、失礼しました。どうか罰を与えないでください」


 立ち上がり、深く頭を下げるハンナに、サムは「気にしていませんから座って」と告げた。

 虐げられた領民が新しい領主に思うことが多々あることは理解しているつもりだった。


「ありがとうございます。私からもご質問をしてよろしいですか?」

「もちろん」

「結局、領主様は変態なのですか?」

「その質問、今すること!?」

「大事なことです」

「大事なんだ……はっきり言っておくけど、俺は変態じゃない! 周りに個性の強い変態共がいるから誤解されているだけだよ! 本当に、これだけは誤解しないでお願いします!」


 まだ燻っていた変態疑惑を問われ、サムは勘弁してくれと叫んだ。





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