14「そうだ、領地に行こう」②





「そうそう、サム。一週間ほど、向こうに滞在しているようにね」

「え?」


 食事を終えたサムに、リーゼが思い出したように言った言葉に目を丸くする。

 今まで、早く帰ってきてと言われることがあっても、しばらく滞在してこいと言われたことがなかったからだ。


「えっと、寂しくして死んじゃうかもしれないんですが」

「オフェーリアたちがいるじゃない。これを機に、もっと交流を深めてきなさい」


 それに、と彼女は言い辛そうに続ける。


「一週間後はあなたの誕生日でしょう? だから、いろいろ準備をしたいのよ」

「あ」

「サプライズができないのは承知しているのだけど、それならせめて、どのようなことをするのか知らせずに驚かせたいでしょう?」

「あー、なんだか気を使わせちゃってすみません」

「ふふふ。ギュンターなんて昨日から不眠不休で準備するって、遠藤友也様を連れて行ってしまったもの」

「それでいないのか、あのふたりは……というか、あいつらなにをするつもりなんでしょうか!?」


 同じ日本出身であり魔王である遠藤友也と、スカイ王国代表の変態の姿が見えずに静かだと思ったら、知らないところでなにかを企んでいるようだ。

 自分のためだと承知していながらも、なにをしでかすのか怖い。


「サム様、あとでメルシーちゃんたちにもお顔を見せてあげてから出発してくださいね」

「アリシア? どういうことです?」


 もちろん、メルシーたち子竜三姉妹に出発前に挨拶するつもりではあるが、アリシアが改まって顔をみせてあげてほしいなどと言うのは初めてだったので首を傾げる。


「実は、メルシーちゃんが同行するつもり満々だったのですが、そうしますと妹ちゃんたちも着いてきてしまうわけでして……領地にどのような方々がお住みになっているのかわかりませんが、きっと大混乱するでしょうからご遠慮してもらったのです」

「なるほど」

「そうしましたら、メルシーちゃんが拗ねてしまいましたの。といっても、お顔を膨らませて可愛らしいのですが、本人は人の姿だからいいじゃないかとちょっとお冠ですの」

「わかりました。ちゃんと話をしてから出発しますね」

「ありがとうございます」


 友人である灼熱竜と玉兎の娘のメルシーたち子竜三姉妹。

 両親が不在なことを気にせず元気いっぱいだ。

 とくにお転婆な長女メルシーだけが、唯一アリシアから名をもらって、人化もできるようになった。そのため、より一層わんぱくになってしまい、最近では単独行動も増えている。


 姉妹はメルシーの単独行動は気にしていないが、長女だけが名をもらって人の姿になれることが不満のようで、名付けをサムやアリシアに催促してくる。

 スカイ王国滞在中の竜王炎樹の見立てでは、名付けることには意味があり、子竜たちの今後の成長に繋がるようだ。

 そのため、サムとアリシアも両親不在中に名をあげていいものかと判断できず保留中だった。


 人化すると、赤毛のボーイッシュな健康的美少女になるメルシーは、すっかりスカイ王国に溶け込み、住民たちと交流している。

 困ったことに、美少女過ぎてスカイ王国第二王子をはじめ、数々の少年、青年の心を射止めているようだが、メルシー本人はまだ恋などには関心がないようだ。


 サムとしては、我が子とまでは言わないが、妹として可愛がっているメルシーがお嫁に行くにはまだ早いし、少なくとも自分を倒せるくらいの力を見せてもらいたいと思っている。

 アリシアたちには呆れられたが、親の灼熱竜と玉兎が出てくるよりマシだと思う。

 うんうん、と頷くサムは兄バカだった。


「メルシーたちのことはちゃんと対応するとして、身支度を整えないと。……カルがいるから忘れ物があれば取りに帰ってこられるんだけど」


 誕生日を祝ってくれるリーゼたちの頑張りを見てしまうわけにもいかないので、しっかり支度をしようと決めた。

 といっても、必要なものはかたっぱしからアイテムボックスに突っ込んでしまえばいいので簡単だ。

 着飾る趣味もないので、すでに支度のため部屋に戻ったオフェーリアたちに比べて準備という準備が必要のないサムだった。




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