9「あの種族と会えそうです」②
「さ、サム!?」
友也はもちろん、リーゼたち、そしてギュンター、ダフネ、ジョナサンたちまでもがサムが急に立ち上がってガッツポーズをしたので驚きに包まれていたのだ。
彼らの視線を集めていることに気づかず、サムは叫び続ける。
「ようやく! ようやくダークエルフだぁあああああああああああああああああああああ! 会いたかったぁああああああああああああああああああああ!」
サミュエル・シャイト、十四歳。
初めて河童を見たときよりも、まだ見ぬダークエルフと会えることに歓喜していた。
「――生まれてきてよかった」
「……サムはダークエルフという種族にどのような思い入れがあるの?」
戸惑い気味に、リーゼが尋ねてくるので、いざ語ろうとするサムがようやく周囲の視線に気づく。
「ごほん。なんのことでしょうか? ダークエルフ? 初耳ですね」
「初耳であれだけ興奮はしないでしょう。嘘おっしゃい」
この世界の人間であるリーゼにしてみると、ダークエルフと聞いてもピンとこない。
エルフなどは物語に出てくるが、そもそもエルフは魔族扱いなのだから、日本人の浮かべるエルフ像とは違う。
なので日本人に馴染みのあるダークエルフの役割までも物語の中ではエルフが務めているので、ダークエルフという種族をまず聞かない。
サムはかつてウルに聞いたことがあったが、彼女でも「エルフにダークがつくとどうなるんだ?」くらいだった。
「――ぼっちゃま。美しいエルフがここにいるのに手を出してこないと思ったら、ダークエルフ派でしたか……」
「自分で美しいとか言っちゃったよ! いや、ダフネは美しいけど」
「まっ、ぼっちゃまったらお上手ですね!」
そういえば、とダフネがエルフだったことを思い出す。
ダフネは種族関係なしに、姉であり家族であるので特別エルフがどうとか思えないのだ。
あと、サムが思い浮かべるエルフと少々違う。彼女の妹もそう言う意味ではエルフっぽくない。ただの変態である。
「サム、一応言っておきますけど、君や僕の中のエルフとダフネが違うように、この世界のダークエルフも全然違いますからね」
「――え?」
「そんなあからさまにがっかりした顔をしなくてもいいのに。君のこんなにテンション高いのは河童以来ですね。いえ、僕も河童には度肝を抜かされましたけど、あれはやばかった」
「河童はやばいね。正直、今でも感動しているもん」
夜の国で出会った河童さんは元気だろうか、と想いを馳せる。
日の国で、妖怪の類と戦ったことはあったが、やはり河童という日本人の心に響く妖怪の代わりになるような存在はいなかった。
「サムはあの頭にお皿を乗せた人に夢中だったね?」
「お皿? どういうことですの?」
夜の国に同行していた水樹が、サムの河童への入れ込みが理解できず不思議そうに尋ねる。河童を想像できなかったオフェーリアがソーサーを頭の上に置いてみたが、よくわからず困惑していた。
「河童なんてどうだっていいのです! なんなら今度二、三匹捕まえてきます! それよりもダークエルフです! ぼっちゃま! ダークエルフは危険な存在です! 敵対こそしていませんが、エルフとは仲が悪いんです! まさかダークエルフに興味津々なんて……やはりデリックさんに止められても幼い頃にエルフの良さを仕込んでおくべきでした!」
ダフネが痺れを切らして叫ぶ。
どうやらダークエルフがお気に召さないようだ。
「こわっ! デリックが止めなかったら何されちゃってたの!?」
「……ここでは説明できかねます」
「説明できないようなことをされようとしていたってことはわかったよ!」
シャイト伯爵家で今も支えてくれているデリックに、サムは心から感謝した。
「そんなことはさておき! 遠藤友也様! ぼっちゃまを危険なダークエルフに会わせたら大変なことなりますよ!」
「参考までに、ダフネはなぜダークエルフを危険視するのですか?」
「あいつらは、いやらしい一族なんです!」
「魔族の中でも群を抜いて変態のエルフが言うんじゃねえよっ!」
ダフネの訴えに、友也が口調を乱して怒鳴った。
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