58「襲撃です?」③




「翼人って数えるくらいしか見たことないからテンション上がるな。これで、敵意剥き出しじゃなければ友達になれたかもしれないのに――残念だ」


 中庭に降り立った六人の翼人と魔族。

 翼人は、民族衣装のような衣服を身につけて日に焼けた肌に、背中から翼をはやしていた。

 翼の色は、灰色だ。天使、とは違う印象を受ける。

 翼人に連れられてきたのは、種族は不明だが、ざっくりと魔族だ。おそらく、魔人だろう。人によく似ているのが特徴だが、有している力や魔力は人間を超える。

 無論、魔人の中にも戦えない者がいるが、それでも総じて一般的な人間よりは強い。だが、それなりに経験を積んだ魔法使いや、騎士ならば勝てるだろう。

 しかし、魔人の戦士になると話は別だ。かなりの強敵である。

 実際、魔人はもちろん翼人の魔力はかなりのものだ。しかし、どこか違和感がある。


「さて、一応聞いてあげるよ。何の用だ?」


 サムの問いかけに、魔人の男が代表して口を開いた。


「よくも我らの仲間を……だが、さすが魔王と言ったところか! 我々は、そこにいるアーリーの後始末にきた」

「はぁ? てめえら程度の雑魚に俺の――いや、なんだよ、てめえら? そんなに強くなかっただろ?」

「ほう、わかるか。見るが良い、この力を!」


 六人の魔族から、一斉に力が解き放たれる。

 ひとりひとりの魔力が、準魔王のダニエルズ兄弟やカルに匹敵していた。

 だが、刹那的な爆発力でしかない。単純な力なら、アーリーのほうが上だった。


「これはこれは、なかなかですね。ただ、魔力を放出するまではかなりの雑魚でしたね。おかげで魔力を高めるまでは雑魚すぎて、気づくことができませんでした」


 サムの隣に並んだ友也が感心している。

 しかし、それは強さにではなく、この程度の強さを自慢できる精神面に、だった。


「つーか、ギュン子! 結界仕事してないんですけど!」

「誤解だよ、サム。通っても問題なし、と結界が判断する程度の力しかないじゃないか。つまりはそういうことだよ」

「いや、雑魚だからって通すなよ!」

「言っておくけどね、サム。僕がガッチガッチに結界を張ったら、変態魔王たちは王都の外に吹っ飛ぶことになるからね! ある程度緩めておかないと不便なのだよ!」

「俺はいいのかよ?」

「愛ゆえに」

「その愛を他の奴らにもわけてあげて!」

「断る!」

「ええい、面倒な奴だな!」

「そこまでです、ふたりとも。しかし、疑問です。準魔王程度の力を頑張ってようやく出せる程度の雑魚が、よくもまあ魔王がいる場所に姿を表せましたね。度胸だけでなんとなかならないんですけどね」


 アーリーの驚きと、魔族たちの言葉から会話から、準魔王の力を手に入れたのは最近のようだ。

 それ自体はいいのだが、その程度でなぜ自分たちに勝てるだと思っているのか疑問だった。


「アーリー! 貴様は前々から気に入らなかった! オーウェン様から少し目をかけられているからと偉そうに! だが、今は私たちのほうが格上だ! 八つ裂きにしてやる!」

「やってみやがれ!」

「裏切ろうとしていたのは見ていたからな。オーウェン様は貴様を連れて変えるように言っていたが、この場にいる者どもとまとめて殺してやる! あのお方からいただいた力に恐れ慄くがいい!」


 また、『あのお方』が出てきた。

 そろそろどんな人物なのか気になってきた。

 とはいえ、この程度の力を分け与えるだけしかできないのなら脅威ではない。


(いや、雑魚が刹那的でも純魔王級の力を放てるなら、人間には脅威すぎるか。といっても、人間には魔族そのものが脅威なんだけど)


 ひょっこり出てこないだろうかと期待してみるが、残念ながら敵は六人だけで、それ以上はいない。


「とりあえず、ぶっ飛ばすか!」

「ひとりくらい残しておいてくださいね。情報を吐かせますから」

「あいよ」


 サムが前に出て、拳を握りしめた。

 刹那、一陣の風が背後から吹き抜けた。


「――あ」


 サムが間の抜けた声を出し、友也たちが目を見開いた瞬間、眼前にいた魔族六人がバラバラに斬り裂かれ物言わぬ肉塊になって飛び散った。


「ぐろっ、おえっ!」


 きっと本人たちは自分の身になにが起きたのか理解できぬまま絶命したのだろう。

 そして、一瞬にして敵を殺したのは――魔王ロボ・ノースランドだった。


「えっと、ロボさん? 手伝ってくれたのかな? ありがとう」


 サムが戸惑いながら、礼を言ってみると、彼女は鼻を鳴らした。


「気にするな、ついでだ」

「できたらひとりくらい殺さないでほしかったんですが」

「黙れ、変態め。耳が汚れる」

「……ひどい」


 一蹴された友也が、しゃがみ込んでしまう。


「えっと、ついでってなに?」

「私は――ボーウッドに用がある」

「俺? な、なんだ?」


 サムの疑問に、素っ気なく返事をすると、戸惑っているボーウッドの前に立ち、ロボは拳を奮った。

 鈍い音が響き、ボーウッドが地面をバウンドしながら転がっている。


「なんで!?」


 まさかの行動に目を丸くしていると、ロボはなにやら満足したようで、「よし、なんだかすっきりした。もやもやも消えた」と自己完結して屋敷の中に戻っていった。

 残されたサムは、バラバラになった魔族と、気絶するボーウッド、落ち込む友也と、唖然としている他一同に順番に視線を向けると、


「誰か説明して?」


 困惑した声を出すのだった。




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