53「尋問です」②
「だぁあああああああああああああああああああ! どうして俺は喋っちまったんだ! おのれ、魔王め! 俺におかしな魔法を使ったな!」
「いえ、君の自爆ですって」
「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
尋問も拷問もする前に、あっさり口を割ってしまったアーリーに、なんとも言えない雰囲気になってしまった。
少々おふざけを入れていた友也も、彼女が口を割らなければ言葉通り拷問までしていただろう。
だというのに、あまりにも簡単に情報が入ってしまった。無論、すべてではないが。
「オーウェンが魔王級になったですって? そんな馬鹿なことが……あんな屑が魔王に至れるわけがない」
「あのさ、友也。アーリーでもいいんだけどさ、あのお方っていうのが誰かわからないんだけど、魔王級の力をおいそれと渡せるものなのかな?」
あのお方、というのがどのお方なのか不明だが、魔王級の力をどうやって渡すことができるのかわからない。
なによりも、魔王級の力を渡すことができるということは、あのお方という人物が魔王とと同等以上の力を有していなければならないだろう。
「無理でしょうね。継承魔法は廃れていますし、レプシーがサムにしたのは同格同士の譲渡です。オーウェン程度の魔族に魔王の力を渡すことが可能だとしても、そもそも受け取ることができるのか疑問です」
「アーリーさん、あのお方って誰っすか?」
「そうでした。まずそこから聞かなければなりませんね」
友也がアーリーに鋭い視線を向ける。
元魔王オーウェンの思惑はさておき、魔王級の力を手に入れたと聞いてしまうと、真偽を確かめずにはいられない。
虚言か、それとも事実なのか、それによって大きな的になるかどうか決まるのだ。
「し、知らねえ!」
「――この状況で嘘をつくなら……カル」
「へい! 喜んで!」
アーリーのコレクションを雑に地面に投げると、カルは火球を生み出した。
「待て待て待て! マジだって! マジでしらねーんだよ! 主人はあのお方っていうのとはひとりでしか会わないんだ! 俺だけじゃねえ、他の奴らだって声さえ聞いたことがないんだっての!」
「それ、実際に存在しているんですか?」
「それだけは間違いねえ。主人の力が、跳ね上がった。それだけは俺も確認している。主人曰く、いずれ俺だって魔王級の力を貰える可能性があるようだが……人からもらってもなぁ」
アーリーは自分の努力で強くなりたい派のようだ。
少しだけ彼女へのサムの好感度が上がった。
「君を、魔王級にですか? 言ったら悪いですが、君は準魔王級に届くか届かないかくらいです。それを魔王と同等に引き上げることが可能なのですか?」
「さあな」
「カル、燃やしていいですよ」
「よっしゃ!」
「待て待て待てって! だから知らねえんだって! つーか、マジでそんなことができるなんてこちとら信じてねーよ! 魔王級が量産できたら、もう戦争だろ!」
アーリーの言うように、魔王級の力を持つ魔族が量産されたら戦争待ったなしだ。
下手をしたら、大陸西側では治らず、大陸全てを巻き込む可能性だってある。
現時点でも、元魔王が人間の国に干渉しているのだ。
最悪の想像は簡単にできた。
「もう全部吐いたんだから、ワンピース返せよ! まだ袖を通していないものもあるんだぞ! 地面なんかに置きやがって、クリーニング代請求するからな!」
「君はまだワンピースが灰にならないとでも思っているんですか?」
「なん、だと?」
「君の情報の真偽を確かめるまで、ワンピースはこちらで預かっておきましょう。万が一、嘘があった場合は――その辺のおっさんに無理やり着せます」
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「その上で燃やして灰にしてあげます。そして、今度は拷問スタートです」
「てめえには人の心がねえのか!」
「はっはっはっ! 魔王にそんなものを求められても困りますって!」
友也はノリノリだった。
もしかしたら女性をいじめるような趣味があるのではないか、とサムはちょっと心配になった。
大した情報こそ吐かなかったアーリーだが、ちゃんと情報は口にしたのだ。これ以上、何かする必要はないとサムは判断し、友也を止めようとした。すると、サムの背後からボーウッドが前に出た。
「――魔王遠藤友也よ」
「ボーウッドくん?」
「彼女は兄貴の命を狙い、魔王方に弓弾こうとする不届き者の手下だ。あなたのお怒りもわかる。しかり、レディだ。レディに対して、洋服を燃やすなどするべきではない。そんなことをしてしまえば、紳士でなくなってしまう」
真面目な声音で紳士を説くボーウッドに、友也も「冗談がすぎましたね」と両手を上げた。カルだけが「え? やらないっすか?」と残念そうにしているが、こいつは無視でいい。
「正直、拷問までするつもりでしたし、殺しても構わないと思っていましたが、屑の過剰な自信がわかっただけでよしとしましょう」
「魔王殿の寛大な処置に感服する」
「はいはい。じゃあ、ボーウッドくん。アーリーの縄を解いてあげてください」
「承知した」
ボーウッドは、椅子に拘束されているアーリーの縄を解いていく。
そんな彼にアーリーが睨みながら、口を開いた。
「なんだよ、てめぇは。俺に恩を売ろうってか?」
「誤解しないでほしい、レディ。魔王遠藤友也が紳士でなくなってしまう前に止めただけだ」
「はっ、なにがレディだ。こんな男みたいな俺が、可愛いワンピース着てるの想像して内心笑ってんだろ!」
「それはありえない」
「は?」
「なぜなら、あなたは可憐なレディだ。あのワンピースもきっとよく似合う。ぜひ機会があれば見せてほしい」
――とぅくん。
(あれ? 今、なんか聞こえたぞぉ!)
なにかときめくような音が聞こえたのは気のせいだろうか、とサムは首を傾げる。
周囲をキョロキョロしていると、気づいた。
勇ましい顔つきのアーリーが、乙女の顔になっているのだ。
「あ、あの、お名前は?」
「名乗るほどものものではないが……あえて言うのなら、人は皆、俺のことをボーウッドと呼んでいる」
「いや、名前じゃん。普通に名乗ったじゃん」
空気読めないのを承知で、サムがつい突っ込んでしまった。
しかし、サムの言葉はアーリーたちに届いていないようだ。
アーリーに手を差し出し立ち上がらせたボーウッドが、彼女に背を向ける。すると、彼女は赤く染めた頬をして、熱い吐息を吐き出すように呟いた。
「ボーウッド様……素敵なお名前……」
「様ぁあああああああああああああああああああああ!? あと、なんかキャラ変わってない!?」
思わぬ展開にサムは絶叫を上げた。
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