48「さすが魔王です」





「てめぇはあの魔王の恐ろしさを知らないのかよ!? 歴代魔王たちの中で、最低最悪の天災遠藤友也だぞ! 逆らった者は老若男女すべて平等に公開陵辱され、死んだ方がマシな目に遭わせられるんだぞ!」

「酷い言われようだな!」

「まあ、概ね間違っていないがな」


 アーリーの悲鳴まじりの言葉に、ゾーイがうんうんと頷く。

 カルはビールをごっごっ、と飲んでから「いつもことっすよ」と気にもしていない。

 ジェーンは無言を貫いているが、否定はしないようだ。


(……あのラッキースケベに遭ったらそりゃ恐れられるよね。しかも、少女からおっさんまでスケベられるとか、誰にとってもラッキーじゃないじゃん!?)


 友也のラッキースケベは現在ギュンターの結界で抑えられているものの、完全に封じたわけではない。

 サムとしては、友也は良き友人であるが、いつ大切な妻にラッキースケベをされるのではないかと冷や冷やしているのも事実だ。

 どうにかできないものか、と悩む。


「ま、まあ、あの変態野郎はどうでもいい! とにかく俺とてめぇで殺しあいだ!」

「いろいろ聞きたいことがあるから、俺が勝ったらあんたの背後にいる元魔王とやらの情報をもらうからな」

「いいぜ! 俺が勝ったら、てめえは死体なるだけだがな!」


 調子を取り戻したアーリーが拳を握る。

 サムは、「その前にちょっと」と待ったをかけ、心配そうにこちらを見ているリーゼたちのもとに向かった。


「ちょっと喧嘩してきますね。せっかくの休日なのにすみません。ゾーイたちと一緒に屋敷に戻っていてください」

「サム……元魔王とか聞こえていたけれど、大丈夫?」

「ええ、もちろんです。負けたりしませんよ」

「……信じているわよ」


 リーゼを抱きしめる。

 彼女だけではなく、ステラ、アリシア、水樹、花蓮、フランと順々に抱きしめ、


「おっと、すみません」


 そのままの勢いでオフェーリアまで抱きしめてしまい、慌てて謝罪する。


「い、いえ、お構いなく。嫌ではありませんので」

「あ、はい。どうもです」


 オフェーリアが顔を真っ赤にするので、サムは気恥ずかしくなってしまう。


「おらっ、いちゃついてんじゃねえよ! 早くしろ!」


 アーリーが空気を読まずに怒鳴ってくれたので、サムはオフェーリアに笑顔を浮かべてから、背を向ける。


「ったく、こっちは独身だってのに、いいご身分じゃねえか! さすがあの変態魔王の仲間だな。妻が数人いるとかとんだ色欲野郎だ」

「俺を友也と一緒にしないでもらおうか!」

「……仲間じゃねえのかよ」

「仲間だし、友人だけど、俺は変態じゃない!」

「お、おう、なんかごめんな」


 最近、変態の仲間だとか、変態の総元締めとか不名誉なことを言われるようになってきたので、サムはここらではっきり変態ではないと断言言しなければと思った。

 サムに気圧されたアーリーだったが、咳払いすると、親指で店の外を指した。


「よし、んじゃ、喧嘩しようぜ」

「いえ、喧嘩はさせませんよ」

「あん? ――ひ」

「そこまでです」


 サムとアーリーの間に、遠藤友也が音もなく転移してきた。

 戦いに待ったをかける友也を認識したアーリーが、小さな悲鳴を上げる。

 女性に怯えられるのはいつものことなので気にしない友也が、アーリーを見た。


「久しぶりですね。アーリーがここにいるということは、オーウェン・ザウィードもまだ存命ということですね。まったく忌々しい。殺したつもりだったんですけど、害虫並の生命力ですね」

「え、えええええ、遠藤、友也」

「サム、申し訳ありませんが、ここは僕が代わります。アーリーにはいくつか聞かなければならないので」


 真面目な顔をして背中越しにサムにそう伝える友也。

 しかし、サムとしては、そろそろ顔面蒼白となり震えているアーリーに気付いてあげて欲しい。

 きっと友也の話を半分も聞こえていないはずだ。


「遠藤友也ぁあああああああああああああああ! やだぁああああああああああああああああああ! また陵辱されるぅうううううううううううううううううう!」

「ちょ、なんですか、急に人聞きの悪い!」


 勇ましい女性のはずのアーリーが喉が裂けんばかりに悲鳴を上げた。

 不服を覚えた友也が手を伸ばすと、


「触らないでぇええええええええええええ――ぴっ」


 ついにアーリーはその場に倒れてしまった。


「……なんですか、これ。なんなんですか、これ!」

「すごいな、友也。どれだけ恐れられているんだよ。触れただけで倒したぞ」


 サムが思わず拍手をすると、この場にいた一同が拍手をする。


「ちょ、やめ、なんで拍手するんですか! 僕は真面目にここにきたのに! 泣きますよ!」





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