37「招かれざる客が来ました」②





「――なんだと?」


 眉を潜め、聞き返すクライドにザカリアはいやらしい笑みを浮かべた。


「ですから、サミュエル・シャイト宮廷魔法使い殿を、引き渡していただきたいのですよ」

「欲しいのではなく、引き渡せと申すか?」

「申します」

「その理由は?」

「彼には我が国の領土内で破壊行動を行った容疑がございますゆえ。いえいえ、逮捕したいわけでも罰したいわけでもありません。ですが、まず、お話を聞かなければならないのです」


 破壊活動、と聞き穏やかではないと思う。

 サムがそんなことをするはずがない、とクライドは考えた。


「なぜサミュエル・シャイトが容疑者だと?」

「正確に言うならば、サミュエル・シャイト殿とウルリーケ・シャイト・ウォーカー元宮廷魔法使い殿もです」


(あ、サムとウルならやりそう)


 ウルがサムを連れて各地で「やんちゃ」していたことはクライドの耳にも入っている。

 だが、まさか、今になって引き渡しを要求してくる国が出てくるとは思わなかった。


(ええい! サムとウルが証拠を残すような真似をするものか!)


 暴れん坊だが、愚かではない。

 とくにウルが、尻尾をつかませるようなヘマをするはずがない確信がある。

 おそらく、ふたりと関わった人間からの情報から、サムたちを容疑者扱いしているのだろうが、証拠はないはずだ。あれば、すでに出しているだろう。


「なにか証拠でもあるのか?」

「決定的なものはございません。しかし、一国の宮廷魔法使いに容疑がかかってしまうのはよろしくないでしょう。ここは素直に、一度お話をさせていただきたいのです」

「話だけならば好きなだけするといい。無論、この国の中で」


 ティサーク国の狙いは定かではないが、サムを欲しているのはわかっている。

 魔王に至った彼が、たかだか人間の国ひとつにどうこうできるとは思わないが、面倒事をわざわざ抱え込ませる必要はない。

 できることなら、使者たちをサムに合わせずに、お引き取りしてもらいたかった。


「クライド陛下。どうやら、我が国の要望が伝わっていないようなので、遠回しはやめてはっきりと伝えさせていただきたく思います」

「最初からそうしてほしかったのだがな。それで、そなたらの要求とは何かな?」

「外でもない。サミュエル・シャイト殿を、我が国にください」


「――断る」


 予想通りだった。

 なにを持って、サムを欲するのかはさておき、破壊行動の容疑者など口実でしかない。

 ティサーク国に呼び入れようとしているのだ。


「まあまあ、あまり答えを急かないでください。悪い話ではありません」

「断る」

「双方の国に利があることだとご理解をいただければ」

「くどい! そなたたちにどのような思惑があるのか知らぬが、サミュエル・シャイトは私の息子だ! あの子をまるで物のようにそなたたちにくれてやるものか!」


 クライドの怒声に、ザカリアは今まで浮かべていた笑みを消した。





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