コミカライズ開始記念SS ウル地球編 前編




 ウルリーケ・シャイト・ウォーカーが「その世界」で前世の記憶を取り戻したのは九歳の誕生日の夜だった。

 両親と祖父母に誕生日を祝われ、就寝すると、夢の中でまるで漫画やゲームのような世界で魔法を使う女性の夢を見たのだ。

 うなされていることに気づいた両親が、起こそうとすると、高熱を出していることがわかり、そのまま病院へ担ぎ込まれた。

 その日から、丸一日。入院した少女は、長き夢を見終えて――自分の前世を取り戻した。


「さて困ったな」


 自宅に戻ったウルリーケこと、高嶺流羽は、自宅のベッドの上で腕を組み、あぐらをかいて悩んでいた。

 この世界――地球の日本という国は、魔法はおろか、モンスターも冒険者もいないのだ。

 魔法に人生の大半を注ぎ込んでいたウルにとって、この世界は退屈極まりないものになる――と思いきや、魅力にあふれていた。


 まず、インターネットは素晴らしかった。

 世界中の情報が、ひとつの媒体で手にはいるのだ。

 全てではないし、他国の言葉はわからないが、それでもあまりにも情報量で驚いた。


 続いて、食事が美味い。美味すぎる。ジュースも最高だ。

 菓子類だって、とんでもなく美味しい。

 餡子とか考えた人間は褒めてやりたいほどだ。


 朝、母が作ってくれた食事も、まるで一流の料理人のようだと感心したが、一般的な母親は誰でも同じレベルの食事が作れるらしい。

 前世の母はできなかったし、自分の料理はまるでできなかったので羨む限りだ。


 なによりも、娯楽が多すぎる。

 小説、漫画、アニメ、ドラマ、映画から始まり、スポーツ、アウトドアなど多岐にわたる。

 流羽の父は映画が好きで集めているし、母はキャンプが好きな人だった。

 本棚から適当に選んで読んでみた漫画は、少女と少年の甘酸っぱい恋愛の物語であり、不覚にも胸がキュンキュンしてしまった。


 ゆえに困った。


「魔法を極めるとかずっと考えていた私だったが、今はどうでもよくなってしまったぞ! 魔法もないしね! 世界中を旅したくはあるが、子供は無理のようだし……しばらくは少女漫画なるものの探究に勤しむとしよう!」


 ただ、その前にすべきことがある。


「――サムのご両親に会いにいかなければ」


 転生した際に出会った女神の計らいなのか、サムが地球の日本の出身で、同じ時間に生きていたという情報を得ている。

 惜しむならば、数日前にサムが他界していることだろう。


 サムは、こちらの世界で亡くなり、そして転生していたのだと分かった。

 だが、縁とは不思議なものだ。

 まだ自分がウルの前世を思い出す前に、一度だけこちらの世界のサムに会っていた。

 迷子になって泣いている自分を見つけ、警察に連れていき、親が迎えにきてくれるまで一緒に待ってくれたのだ。

 その際、流羽はこちらの世界のサムに初恋した。


 まさか前世でも、今世でも初恋がサムであるとは、運命なんだろうと思う。

 それゆえに、彼のご両親に挨拶をし、信じてもらえないことは前提で別の世界に元気でやっていると伝えたかった。


 幸いなことに、サムの実家もわかっている。

 流羽のお小遣いでも問題なく行って帰ってこられる距離だ。


 ウルこと流羽は、とあるアイドルグループのCDを購入するために貯めていたお金を握りしめて、サムの実家に向かうのだった。





 〜〜あとがき〜〜

 というわけでコミカライズ開始を記念して、ウルが地球の日本に転生していたら? というお題で書かせていただきました。

「もし」な世界ですのでご理解ください。とはいえ、実はこっちを外伝にしようと悩んでいました。

 今回は前編ということで続きますので、お楽しみに!


 コミカライズはコミックウォーカー様にて11時に公開予定です!

 プラウザでお読みいただけますので、よろしくお願い致します!

 近況ノートのほうで一枚ほど公開しておりますので、ご覧ください!


 コミカライズ、書籍、連載、揃ってよろしくお願い致します!

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