49「衝動です」①




「こうしてサムと一緒にベッドで寝るのは久しぶりね」

「そうですね。一週間も離れていたわけではないのに、ずっと会っていなかった感覚です」

「ふふ。寂しかった?」

「とても寂しかったです」


 サムが帰国した翌日の夜。

 久しぶりのスカイ王国でのんびりした休日を終えたサムは、リーゼと一緒にベッドの中にいた。


「あら、素直ね」


 昨晩、帰国し、王宮のパーティーに参加したサムは、帰宅するなり疲れて眠ってしまった。

 リーゼたちも、サムを起こすことはせず、ゾーイとエヴァンジェリンたちと一緒に談笑して明け方まで盛り上がったのだ。

 ゾーイとエヴァンジェリンはリーゼたちと相性が良いようで、仲良くなってくれてサムもほっとしている。

 そして、今日、サムはリーゼとふたりきりの時間を堪能した後、ベッドに潜ったのだ。


「素直になりますよ。寂しかったんですから」

「水樹がいたじゃない」

「それはそうですけど、やっぱりリーゼやみんなと会いたかったんです」


 夜の国にはいつも水樹が傍にいてくれたのだが、ボーウッドと戦い、魔王遠藤友也と会ったりと、ゆっくりしている暇がなかった。

 旅行に行ったわけではないので、仕方がないことではあるが、そのせいでリーゼたちの温もりを恋しいと思ったことは何度もあった。


「っと、すみません。喉が渇いたので、水を」

「……最近、サムはよく喉が乾くと口にするわね」

「そうですか?」

「ええ、そろそろ夏が終わるとはいえ、まだ暑いから私だって水は欲しくなるけど……サムったら、いつだって飲み物を手放さないじゃない?」


 ベッドから出て、水差しから水をコップに注ぐサムは、リーゼの言葉に「確かに」と頷く。

 あまり気にしていなかったが、喉が乾くのだ。

 今だって、いちいちコップに水を注ぐのではなく、水差しに直接口をつけてすべて飲み干したいとさえ思う。


(――なんだろう?)


 自分でもわからないが、さほど気にすることではあるまい。

 水を一気に呑み干すと、なんでもないと笑顔を浮かべて、ベッドに戻り、リーゼの額にキスをする。


「もう、誤魔化さないの。続くようなら、一度お医者様に見てもらいましょう」

「……わかりました。そうします」


 大袈裟な、と笑い飛ばそうとしたが、心配してくれるリーゼのために頷いた。


「よろしい。じゃあ、寝ましょう」

「はい。おやすみなさい。リーゼ」

「おやすみ、サム」


 ふたりは、自然と唇を重ね、抱きしめ合うように眠りにつくのだった。




 ◆




「―――――」


 嫌な夢を見て、サムは目を覚ました。

 彼は、酷い喉の渇きを覚えて、水差しを求める。

 しかし、身体がうまく動かず、指先が水差しをかすめ、倒れてしまう。

 割れることこそしなかったが、水がテーブルの上に広がり、絨毯にも溢れていく。

 水を失ってしまったサムは、水を求めて部屋を出ようとして、ふと気づいた。


 サムの視線の先には、ベッドで静かな寝息を立てる愛しいリーゼの姿がある。


 ――嗚呼、なんて美味しそうなんだ。


 瑞々しく健康的な肌に、歯を立て、血を啜ったら、どれだけ美味しいのだろう。

 きっと、甘美で背徳的な味がするに違いない。



「――っ」



 と、リーゼの『血液を飲みたい』という思考から、我に帰ったサムは絶句する。

 血を飲みたいなど、尋常な思考ではない。

 サムは人間なのだ。

 人間は血を吸わないし、愛しい人を見て『美味しそう』なんて思わない。


 ――これではまるで『吸血鬼』じゃないか。


 だが、我に帰ったはずのサムの身体は、意志に反して動いていく。

 ベッドに乗り、寝息を立てるリーゼの髪をそっと撫で、そして――首筋を愛しげに舐めた。


「……ん? サム?」


 サムの行動に、リーゼが気づいたようで目を覚ます。

 それでも、彼女の首筋を舐めることを辞めないサムに、くすぐったそうにリーゼが身を捩った。


「あん、サムったら。寝る前にたくさんしてあげたのに、まだしたりないの?」


 腕を伸ばし、サムを抱きしめようとリーゼが動いた刹那、


「――馬鹿者! 吸血衝動だ!」


 寝室をゾーイが蹴破って現れた。




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