9「スカウトされました」①
「さてと、食事も終えたのでそろそろお開きに――と、言いたいのですが、ひとつ困ったことがあります」
「困ったこと?」
はて、なにかあっただろうか、とサムが首を傾げる。
友也は「忘れているようですね」と苦笑いしつつ、続けた。
「僕は、ボーウッドを倒したら魔王として認めると言いました」
「あー、そんな話しましたね」
すっかり忘れていた。
真なる魔王を名乗ったヴァルザードたちの登場や、ラッキースケベ魔王の存在のせいで、サムが魔王になどという突拍子のない話は記憶の彼方にあった。
「まさか彼を倒さず、忠誠を誓わせるとは思いませんでしたよ」
「俺もびっくりです。なぜ、こうなった、と頭を抱えたくなりますよ」
「獣人は強者を求めますからね」
「強いなら同じ獣人のロボとかいう魔王に忠誠を誓えばいいのに」
「ボーウッドを庇うわけではありませんが、ロボは強い、とても強いのですが、それだけです。きっとボーウッドには、同じ獣人として、戦士としてロボに魅力を感じなかったんでしょう」
「魅力、ですか」
なんとなくだが、友也の言わんとしていることがわかる気がする。
レプシーやヴィヴィアンがそうであるように、「ついていこう」と思う器や魅力がある自分が魔王だと分かりやすい。
同じく魔王のダグラスもそうだ。魔王というよりは、兄貴分として魅力がある彼もやはり慕われるだろうと思う。
対し、エヴァンジェリンや友也のように配下を持たずに飄々をしている者もいる。
しかし、王として魅力がないか、と問われると否である。
今まで出会った魔王たちは全員、引き付けられるなにかがあった。
「ロボもロボでいろいろあんるんですけどね。あ、彼も君には興味津々ですから――命には気をつけてください」
「怖い!?」
魔王に興味を持たれることが良いことなのか悪いことなのかわからないが、面倒ごとには変わりない。
強者に興味を持たれる程度に自分に力があることを喜ぶべきか、命を狙われていることに嘆くべきか悩む。
(個人的には、魔王とかそういうのを抜きにして強い相手と出会いたいんだけどね)
ボーウッドと戦って再確認したが、やはり強い相手と戦うことは血と肉が昂り、心が躍る。
生きていると実感できるし、なによりも楽しい。
だからこそ、余計な肩書きがあると面倒に思う。
「それはさておき、魔王になります?」
「……さておかないでくださいよ。魔王にはなりませんけど! ――というか、その前にお聞きしたいことがあるんですが」
「どうぞ」
「なぜ、俺にボーウッドと戦えと? 正直、制圧だけならゾーイがいればよかったんでしょう。まあ、ヴァルザードとかいうわけがわからない魔族も出てきちゃったのは想定外でしたけど」
結局のところ、自分がボーウッドと戦った理由をまだ教えられていない。
友也の境遇や体質はとりあえず理解はしたが、彼がなにを考えているのかわからなかった。
同じ日本を故郷にしているからといって全幅の信頼を置けるわけではない。
もちろん、信頼したいとは思っているが、あったばかりでは難しい。
「そういえばまだ説明していませんでしたね。失礼しました。まず、ヴァルザードとかいう魔族の出現は想定外でした。それは間違いありません。まさか魔王級の個体が隠れていただけでも驚きだというのに、真なる魔王とか厨二病全開みたいなことを名乗りあげて宣戦布告してくるなんて驚きもいいところです」
「……確かに真なる魔王とかちょっと自分で言っちゃうのは痛々しい感じですよね」
真なる魔王を名乗るにふさわしいだけの力を持っていたのだが、自称してしまうとちょっと違うかなと思ってしまう。
無論、強敵であることには変わりないが。
「まったく彼らに心当たりがないわけではないんですが、そうなると面倒というか、過去の遺物というか、僕たちの不始末になるんですよね。そのあたりは追々調べておくとして」
「ちょ、ちゃんと教えてくださいよ!」
「現時点では想定の域から出ていないので。ちゃんと裏が取れたらお話ししますので。さて、君にボーウッドと戦ってもらった理由ですが、ひとつしかありません。レプシーを殺した力を見たかった」
「……まさか、本当にそれだけだったんですか?」
力を見せてくれとは言われたが、言葉通りであることに驚いてしまう。
もっと魔王らしい他の何か理由があると勝手に思い込んでいた。
「申し訳ないと思っていますが、レプシーを倒すだけの力を把握しておかないと。君はとても――怖い」
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