13「シナトラ家へ向かいます」①




「あー、びっくりしたぁ。というか、へー、レイチェル様がデライトさんを……なにそれ、王族の中で歳の差がある相手を好きになるのって流行っているのかな?」


 事情をよくわからないまま馬車に乗せられてしまったサムは、リーゼとステラにレイチェルが訪ねてきた事情を聞かされた。

 正直、まさかセドリックに続き、レイチェルまでもが恋愛を、それも年上の相手に想いを抱いているとは思わなかった。

 ただ、レイチェルの場合はセドリックより難しいかもしれない。デライトは国王からの信頼が厚い魔法使いだが、もう四十代で娘のフランまでいる。デライトの感情も大事だが、フランがレイチェルを嫌だと拒めば、父親である彼も受け入れはしないだろう。

 貴族が再婚することは珍しくないが、その相手が王女で、十四歳の少女というのもなかなか稀である。


「サム?」

「どういうことですか?」


 セドリックのことを話すべきか、とサムは一瞬悩んだ。

 彼は、女性視点からの話も聞きたいのでサムの妻たちに話してもいいと言ってくれていたのだが、馬車にはレイチェルも同乗しているため、躊躇いが生まれた。

 だが、ステラにしたことを謝罪した彼女は、秘密はちゃんと守ると約束してくれたので、話すことにした。

 ちなみに花蓮は、馬車に乗ってすぐに寝息を立てている。しかし、いざなにかあれば、誰よりも早く反応するだろう。


「セドリックがルイーズを……知りませんでした」

「初耳ですね」

「あら、わたくしは知っていましたわよ」


 セドリックのルイーズへの想いを知らなかったステラとリーゼに対し、レイチェルはなにを今更とばかりにつまらなそうな顔をした。


「え? ご存知だったんですか?」


 尋ねるサムに「ええ」とレイチェルは当たり前だと肯く。


「セドリックお兄様は、昔からルイーズに子犬のように懐いていたではないですか。いずれ側室か愛人にする日が来るんでしょうと思っていましたけど、まさか振られているとは……ざまぁ」


(……やっぱりレイチェル様って性格悪いなぁ)


 兄がフラれて、にやり、と喜ぶ顔はまさに悪役のそれだった。


「こら、レイチェル。駄目ですよ、人の不幸を笑ったりしたら」

「このまま馬車を引き返してしまうのもいいかもしれませんね」


 ステラが妹を窘め、リーゼが意地の悪いことを言うと、レイチェルは悪い顔を一変させて悲しげな表情に変えると、ハンカチを取り出し涙を拭う仕草をした。


「……ああ、おいたわしやお兄様」

「微塵もそんなこと思っていないのがよく伝わってきますねぇ」


 若干の性格の悪さが見え隠れしているものの、レイチェルを性根まで悪党ではないと思った。

 ステラにしたことは正直どうかと思うが、本人が許しているので、サムからなにかを言うつもりはない。

 ただ、意外に話がちゃんとできる、という感想を抱いた。

 もっと人の意見など聞かず、自分の意見だけを押し通すような人物だと勝手に想像していたので、少し拍子抜けでもある。

 今回のデライトの件だって、デライトを呼び出し命令するのではなく、ステラに頭を下げて紹介してほしいという、順序を守った。

 それだけ本気なんだろう。権力ではなく、ちゃんと心がほしいと思っているのだと考えられる。

 その辺りは、セドリックとレイチェルは兄妹だな、と感じだ。


「ところで、サミュエル」

「はい」

「これは悪意ではなく、あくまでも善意の助言なので誤解しないように」

「はぁ」

「セドリックお兄様のお相手に、ルイーズはやめておいたほうがいいと思いますわ」



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