74「エピローグ」①
「――ようこそ、ウルリーケ・シャイト・ウォーカー」
目を開けたウルを待っていたのは、真っ白な空がどこまでも広がる空間だった。
嫌になるほど純白の空の下には、色鮮やかな花々が咲き誇る大地と、ひとつの小さなテーブル。
そして、そのテーブルに、簡素な白いワンピースを身につけた女性がいた。
どこか懐かしさを覚える女性は、透き通るような白い肌に、まるで人形のような整った鼻梁、地面につくほど長い稲穂色の髪を揺らしていた。
「お前は誰だ?」
警戒心を込めてウルが問う。
死んだはずの自分がなぜここにいるのか、そもそもここはどこだ、と疑問はたくさんあるが、目の前の美女の存在感が大きすぎてまず問わなければいられなかった。
すると、女性は細くしなやかな指を一度だけ鳴らした。
刹那、ウルの脳裏に覚えのない記憶が流れてくる。
たまらず、その場に膝をついてしまうが、疑問は解けた。
「――全部、思い出したぞ。私は、お前と――神と契約を交わしたんだったな」
すべてを思い出したウルは、立ち上がり、女性――神を睨んだ。
「オルドのような三下の中途半端な醜い魔法で蘇生できたわけだ」
ウルは、神と向かい合うようにテーブルに着く。
神が手を振ると、目の前に湯気の立ち上るティーカップが現れた。
「オルドが成功したんじゃない。お前が干渉した結果、私は仮初の命を手に入れた」
「そのような契約でした」
「ああ、それも思い出した。お前の願いを聞く代わりに、私は一時的に蘇った。ったく、お前も意地が悪いな。生き返っている間に、そのことを忘れさせるなんて」
ティーカップに口をつけるウルに、神は静かに頭を下げた。
「申し訳ございません。ですが、私たちの存在を他の人間に知ってほしくなかったのです」
「だろうな」
ウルは、一度目の死後、この場に呼ばれ目の前の女神と会っている。
そこで交わした契約により、限定的に蘇生したのだ。
オルドがウルを制御できなかったのも納得だ。そもそも、ウルを蘇生できるほどの技術が無かったのだから。
「ま、いいさ。サムたちには悪いことをしてしまったけどな」
「本当に申し訳ないことをしました。あれだけ慕われているあなたを、契約とはいえ連れていかなければならないことに心が痛みます」
あれだけ命を繋ごうと懸命だった友人たちに申し訳なくなる。
それだけに聞いておかなければならなかった。
「ひとつ、聞かせてくれ。お前と契約していなければ、私はあのまま生きていられたか?」
女神は首を横に振った。
「いいえ、残念ですが、無理でした。仮の話ですが、もう数年後の霧島薫子であれば、可能だったでしょう」
「浄化を弾いたのは?」
「私との契約を遂行するために、契約術式が浄化を反射しました。私と契約しているあなたには、蘇生をはじめ、呪いなどの魔法は効果がありません」
「神の御技か」
「申し訳ございません」
ウルは、大きく息を吐く。
女神のせいで友人たちの努力が無駄になったわけではないのなら、文句を言う必要はない。
むしろ、家族たちにちゃんと別れを告げることができたのは女神のおかげであるので、感謝の気持ちのほうが大きい。
「ま、いいさ。あいつらの努力を無駄にしていたのなら許せなかったが、そうじゃないならいい。そのことを説明してやれないのが悔やまれるが、あいつらなら大丈夫だと信じている」
「心からの謝罪をします。契約とは言え、結果的にあなたにも辛い思いをさせてしまいました」
「よしてくれ、私自身が決めたことだ」
女神は、金色の瞳をウルに向けた。
「では、契約を果たしましょう」
ウルは、決意を込めて頷いた。
「――ああ、私はお前の管理する世界に転生しよう」
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