28「魔王たちの動きです」②
ヴィヴィアンは驚き、思わずグラスを落としそうになった。
「……え? まさか、人間の国に?」
「その、まさかです」
「行こうとしているの?」
「あ、違いますよ。もう出発しました」
ヴィヴィアンは、目眩を覚えてソファーに腰を下ろす。
レプシーを倒した人物に興味がないわけではないが、魔王として動けない理由もあるというのに、随分とフットワークの軽い魔王がいたものだと頭が痛くなった。
「本当に……お馬鹿な子ね。誰と、誰かしら? あ、いいわ。どうせダグラスとエヴァンジェリンでしょう」
「よくおわかりで」
「好奇心旺盛のあの子たちらしいわ。それで、追っ手はどうするの?」
「それらをご相談しようかと。残念なことに、僕ではふたりを止められません。魔王の中で一番下っ端ですしね」
友也が苦笑する。
彼の言うように、確かに魔王の中では一番力がない。
だが、友也が人間の国に赴けば、誰よりも混乱を招くことになるだろう。
それをわかっているので、友也自身がふたりの魔王を追うことはせず、古い魔王であるヴィヴィアンに相談しに来たのだ。
「レプシーが封印されていた国よね、なんと言う名の国だったかしら?」
「――スカイ王国です」
「……あー、異世界人の末裔の国ね。懐かしいわ。そういえば、貴方も異世界人だったわね」
「ええ、まあ。昔のことですよ。ところで、ダグラスとエヴァンジェリンを放置できません。どちらも考えることを知らないお馬鹿なので間違いなく問題が起きます」
「最悪戦争よね」
「人間が束になっても怖くはないですが、レプシーを倒した人間には僕も興味があります。できれば、殺さずに話をしたいんですがね」
「あら? 敵討ちでもするつもりかしら?」
ヴィヴィアンに問われ、友也は肩を竦めて否定する。
「そんなつもりはありませんよ。感謝している相手をどうこうしようなんて思っていませんし、僕がその気なら、誰よりも早くスカイ王国に向かっていますよ」
「でしょうね」
「これは、あくまでも僕個人の考えですが、レプシーを倒せるほどの人物なら、魔王となってもいいんじゃないかな、と」
レプシーが万全の状態で復活していないことは、遠い場所にいる友也にも把握できていた。
それでも、レプシーの強さは規格外だった。
彼が復讐に狂わず、魔王として君臨していたら、最強の魔王はレプシーだっただろう。
ゆえに、彼を倒した人間に興味が尽きない。
「元人間の僕が言うことではないですが、たかが人間にレプシーをどうにかできるはずがない。たとえ、彼が死にたがっていたとしても、力を持たず復活していたとしても、です」
「でも、人間は怖いわ。貴方がそうだったように、時として人間という境界線を超えてしまう個がいるもの」
「だからこそ、僕はレプシーを屠った人間が気になります」
人間の国に立場を考えず行ってしまった魔王同様に、友也もレプシーを倒した人間に興味が尽きないようだ。
無論、ヴィヴィアンも同じだ。
可愛い我が子を倒してみせた、人間に興味がないはずがない。
「私の子供たちを送り出しましょう。騎士なら、すぐに向かわせることができるわ」
「――っ、助かります」
「もっとも、ダグラスとエヴァンジェリンを相手にはできないでしょうから、ふたりの顔見知りに行ってもらいましょう。なんとか揉めずに帰ってきてもらうよう、説得してもらわないといけないものね」
ヴィヴィアンは目をしばらく瞑った。
「お願いしたわ。すぐに向かってくれるそうよ」
「ありがとうございます。飛んでいったふたりに追いつけるかわかりませんが、大陸東部の入り口まで僕が転移させましょう」
「あら、ありがとう。支度が出来次第お願いするわね。それまでは、一緒に呑みましょう」
「喜んで、お付き合いします」
友也はヴィヴィアンに手招きされ、ソファーに腰を下ろすと、グラスにワインを注ぐ。
空になっているヴィヴィアンのグラスにもワインを注ぐと、軽くグラスを当てた。
「楽しみですね、僕の親友を倒した人間――できることなら、彼が満足して逝けたのかどうか直接聞きたいです」
異世界人で、元人間であり、今は魔王の一角である遠藤友也は、楽しそうに唇を吊り上げた。
――こうして、魔王レプシーが言い残したように、魔王たちがサムに興味を示すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます