18「戦いが終わりました」
「なんていうか、寂しい奴だったな。ナジャリアの民が復活を企んだ魔王だから、どれだけ悪逆非道かと思ったら、かわいそうな魔王だった」
「サムよ。魔王レプシーは封印前には残虐の限りを尽くした魔王だ。同情するなとは言わぬが、あのまま復活して世に出てしまえば、私たちによい未来などなかっただろう」
「ですね。それは同感です。魔王レプシーは倒さなければならない相手だった」
同情はしたし、哀れにも思ったが、結局相入れはできなかっただろう。
魔王レプシーはナジャリアの民を受け入れていた。
奴らの人食いも、吸血鬼の習性を真似ていたという。
ならば、両者とも、人間にとっては害でしかない。
(――せめて、あの世で亡き家族と再会できてほしいな。俺にはそう願うこと以外、なにもできない)
「そういえば、サム。魔王はお前のことを呪われし子と言っていたけど、そのあたりは結局どういうことなんだ?」
ウルの疑問に、サムは「さぁ?」と肩を竦める。
正直、なにがなんだかわからないことばかりだった。
結局のところ、剣が使えないことや、スキルを持って生まれたことなどになにかしらの理由があるようだが、今はもう考えられない。
いや、おそらく後日考えても答えは出ないだろう。
「俺が呪われし子だろうが、なんだろうが、別になにも変わりませんよ。俺は俺として生きていくだけです。これまでのように、これからも、ね」
「……そうだな。それでいい」
ウルに頭をくしゃくしゃ撫でられながら、ようやく長い一日が終わると肩の力を抜いた。
師匠であるウルリーケ・シャイト・ウォーカーの復活から始まり、スカイ王国王宮に魔王が封印されていることを知った。
ナジャリアの民の長と戦うも、魔王が復活してしまい、代償を支払ったが倒すことに成功した。
とてもじゃないが、一日で起きていいイベントの量ではない。
「もう疲れました。とりあえず、帰りましょう」
ベッドが恋しい。
今なら、二日ほど眠っていられそうだった。
「その前に、サムよ」
「はい、国王様」
墓所に背を向けようとしたサムをクライドが呼び、振り返ると彼は深々と頭を下げた。
「魔王こそ復活するという想定外のことが起きてしまったが、そなたがいてくれたおかげで、結果的には一族の悲願を達成することができた。先祖のできなかった、魔王の完全なる討伐を果たしてくれたことに、心から感謝している」
「いいえ、俺はすべきことをしただけです。それに、魔王が外で大暴れしたら、俺の大切な人たちが困りますから」
婚約者のひとりであるリーゼのお腹の中には子供がいる。
我が子が生まれてくる世界が、魔王との戦争中であるなんてごめんだ。
平和な世界で、伸び伸びと育ってほしい。
「それでも私の感謝の気持ちは変わらない。大々的にそなたを称えることはできないことが申し訳ないが、後日、迷惑をかけたことを報いさせてもらいたい」
「ありがたく頂戴します」
「うむ、そうしてくれるとこちらとしても助かる。さて、いい加減、地上に戻るとしよう。私も――いや、余もこれからは、墓守としてではなく王としても頑張らなければならない。明日からは、すべきことが多くて大変だ。ナジャリアの民と繋がっていた人間を捕縛、断罪しなければならぬのでな」
墓守から国王へと戻ったクライドを待っているのは、多忙な日常だろう。
今までは泳がせていたナジャリアの民への内通者や、売国奴は、もうこの国に必要ない。
ならば、そうそうに排除するのがこの国のためだ。
「……そういえば、ギュンターがずっと静かだけど、巻き込まれて死んだか?」
地上に戻ろうとすると、ウルがふとずっと静かなギュンターを思い出した。
返事はすぐにあった。
「……僕がウルリーケとサムを残して死ぬはずがないじゃないか」
「あ、生きてた。というか、なんで顔を真っ赤にしてるんだ? 発情するのも時と場合を考えろよ」
「もう、そろそろ、限界だ」
「ん?」
何が限界なのかわからず、サムたちは顔を見合わせた。
「サムの魔王を屠った一撃で墓所と、王宮の一部が切り裂かれているんだ! 僕が結界を張って支えているが、そろそろ崩れる」
ギュンターの言葉に、サム、ウル、そしてクライドが顔を真っ青にした。
「退避ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
そして、ウルがサムとクライドを担ぎ上げると、一目散に墓所から飛翔して逃げていく。
――未だ結界を張って墓所を支えるギュンターを置いて。
サムたちが墓所から無事に脱出すると同時に、音を立てて王宮の一角が崩れたのだった。
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