51「サムと商人です」②
「――嘘、だろ?」
サムは言葉を失う。
もし、ヤールの言葉が事実なら、とんでもないことだ。
「魔剣が作れる人間は現代にいないはずだ。魔剣に希少価値があるのは、現代の技術では作ることができないからだぞ!」
「ですが、私は作れます。まあ、少々ずるい手を使っているのは認めますが。しかし、サミュエル様だって同じようなものではありませんか」
「俺が? なぜだ?」
「あなたのスキルは、魔剣を超えて聖剣の領域です。恐ろしくあり、実に妬ましい」
「俺のスキルも知ってるわけだ。だけど、そんな大層なものじゃないさ」
「自慢話をするようで嫌ですが、私が愛情を込めて制作した魔剣が折られたことは一度もありませんでした。しかし、あなたは容易く、私の魔剣を折ってしまった。ショックでした」
「そりゃ悪かったな。だけど、あんななまくらを作ったお前が悪い」
少しでも情報を引き出したいので、会話を続けていく。
ヤールは饒舌だ。
会話から情報が漏れてもいいのか、それとも気にしていないのかは不明だ。
ヤールがどこの誰であろうと、魔剣を作ることができる人間の存在は危うい。
もし彼が魔剣を大量に生産することが可能なら、大問題だ。
下手をすれば、大陸の国々のバランスが崩れてしまう可能性だってあるのだ。
「さて、そろそろ教えてくれないかな? マニオンなんかに魔剣を持たせて、俺を狙う理由は?」
「あなたが少々お邪魔でしたので」
「もっとはっきり言え」
「アルバート・フレイジュ、ミザリー・ミッシェル」
「そのふたりがどうした?」
「あなたに関わって破滅した愚か者ですが、私の協力者でもありました」
「協力? なんの?」
「スカイ王国を奪うための、です。――つまり売国奴だったのです」
「へぇ、なら死んで当然だ」
アルバート・フレイジュも、ミザリー・ミッシェルも、その人格を考えれば自分さえ良ければ売国くらい平気でするような人間だった。
今更、売国奴だったことが明かされても、驚きはしない。
「まあ、こちらとしても利用してから殺すつもりだったのですが、もう少し利用させてもらいたかったですね」
「いや、あんな奴らなんてなにも役に立たないだろ」
「あんな人間でも使いようがあるのですよ」
「なるほど。それで、スカイ王国を奪おうなんていう妄言を吐くお前は、どこの誰だ?」
「私は、いえ、私たちはナジャリアの民」
ヤールの口にしたナジャリアの民のことはサムも知っていた。
知っていただけに、首を傾げる。
「は? ナジャリア人は大陸の最北出身だろ? なんで南のスカイ王国を狙ってるんだよ?」
「まあ、理由はいろいろありますが、憎きスカイ王国から領土を奪うことは我が一族の悲願なのです」
「――かなり迷惑なんだけど」
理由は定かではないが、スカイ王国を我がものにしようとする考えは迷惑極まりまい。
「私たちは、悲願のために行動していますし、その動きを止める必要はありません」
「で、俺が邪魔だと」
「はい。とても邪魔です。あなたのような戦力がスカイ王国にいるのは都合が悪い。なので、死んでください」
「ふざけんな、お前が死ね」
サムは地面を蹴って、ヤールに肉薄すると同時に右腕を薙いだ。
「――キリサクモノ」
ヤールの体が、腹部で横一線に切り裂かれて上半身が宙に舞い、音を立てて地面に落ちた。
しかし、サムの腕にな、なにかを斬った感触がない。
それ以前に、両断されたヤールから、血が流れていなかった。
「ふふふ、はははははははっ、これは凄い。実際に味わってみて、確信しました。私の作る魔剣ではあなたに太刀打ちできそうもない。しばらくはあなたを超える魔剣を作ることに専念しないといけませんね。また、お会いしましょう、サミュエル・シャイト様。今度は、もっと使える駒を用意してみせますので」
「二度と来るな」
ヤールの体が、うっすらと消えていく。
その仕組みはわからないが、もし魔法であればサムの知らない未知なるものだ。
「それでは、さようなら」
そう言い残してヤールは消えた。
まるで、はじめからそこにはいなかったのではないかと勘違いしそうなほど、なにも残さずに、消えていった。
残されたのは、亡骸さえまともに残らなかったマニオンと、息子がいたであろう場所に膝をつくヨランダだけだった。
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