22「最強を賭けた決闘です」②
「――あ? なんだ、今のは? それが攻撃か?」
サムに先制攻撃されたと思ったアルバートは、高まった魔力を解き放つことをせず、怪訝な表情を浮かべた。
が、すぐに彼の顔に怒りが浮かぶ。
「ふざけてんじゃねぇよ! 俺の魔法の邪魔をしたかと思えば――」
「あ、アルバート」
怒声を上げていたアルバートに、審判役のリュードが躊躇いと戸惑いに塗れた声をかける。
「なんだよっ! 審判が決闘中に話しかけてくるんじゃねえよ!」
「……お前、まさか気付いていないのか?」
「ああっ?」
「体から、そんなに血を流していて、なにも感じていないのか?」
リュードの言葉に、アルバートは自らの体を見下ろし、目を丸くした。
「――なんだ、これ?」
アルバートの足下には赤い水溜まりが広がっている。
彼の腹部から、大量の血液が流れ出て、足を濡らし、血溜まりを造っているのだ。
「お、おい、なんだ、これはっ! なにしやがったっ、クソガキ!」
怒鳴りながら腹部を押さえるアルバートの腕を、鮮血が真っ赤に染めていく。
それを見て、静かに一部始終を見ていたサムが、感心したように声を発した。
「あんた、意外と凄いな。よく、まだ立っていられるな」
「ああっ? ……あ? なんだ、なにを、あ? 視界が、なんで、倒れ?」
どさり、と重い音を立ててアルバートの上半身が、下半身を残して横に倒れた。
刹那、会場から悲鳴が上がる。
続いて、残っていた下半身がゆっくりと後ろに倒れ、内臓を血溜まりの中に撒き散らした。
「あ……あ、ああ、あ」
自分の身になにが起きたのか理解したのかしていないのかわからないが、サムを見てなにかを言おうと上半身だけで血溜まりの中でもがいている。
サムは彼の傍らに移動し、声をかけた。
「よく、その程度でこの国の最強を名乗っていたね? デライト様のほうが数段強かったよ。せっかく訓練してもらったのに、こんなに弱いとは思わなかった。ま、いいさ、今日から俺がこの国の最強の魔法使いだ。最期の言葉があるなら聞くけど?」
「ふ、ざ、ける、な」
「うん?」
「木蓮、を、呼べ。治、させろ。それで、仕切り、治し、だ、油断、してな、け、りゃ、こんな、ことに、は」
「無理だよ」
治療されればまだ戦える。油断していなければ、こんなことにならなかったと言うアルバートは惨めだった。
アルバートは自分が勝者だと思って疑っていなかった。
ゆえに、驕っていた。
サムの攻撃など取るにたらないと思っていたのかもしれない。
だが、結果はこの通りだ。
アルバートはサムの攻撃によって身体を横一閃に両断されてしまい、無様に転がっている。
これがすべてだ。
仕切り直しがしたいと言って、そんなことが認められるはずもない。
なによりも、アルバートに残されている結末はひとつしかないのだ。
「あんたには俺の一撃が見えなかったみたいだから説明するけど、俺の攻撃は炎の斬撃だ。魔法とスキルを合わせた、相手を殺すためだけの技さ。自慢していいよ、これを躊躇無く人間に使ったのはあんたが初めてだから」
「だま、れ」
「今はただ身体を両断されているだけだと思うかもしれないけど、ほら、ちゃんと見てごらん」
「――っ、があっ、な、んだっ」
アルバートが撒き散らした血液と内臓に炎が灯る。
炎は少しずつ、確実に広がり、アルバートのすべてをゆっくりと焼いていく。
これに慌てたのは他ならぬアルバート自身だ。
「ま、まて」
サムには宮廷魔法使い第一席の木蓮がどれほどの回復魔法を使えるのか知らない。
だが、身体を両断されたアルバートが彼女を呼べと言ったのだ。
治すことができたのかもしれない。
だが、それは許さない。
アルバートにはここで死んでもらうと決めている。
だからこそ、彼を焼き尽くすための一撃を選んだのだ。
「まて、たのむ、殺さないでくれ、死にたくない」
「なに言ってるんだよ? あんたはもう死んでいるんだよ」
「やめ、謝る。もう宮廷魔法使い、も、最強も、やめる、いらない、だから、頼む」
情けなく命乞いをするアルバートは、惨めで、哀れで、負け犬だった。
やはり、この国の最強の魔法使いに相応しくない。
サムは涙さえ流すアルバートにこれ以上ない笑顔を浮かべた。
「さようなら、アルバート・フレイジュ。あんたは俺の大切な人たちを侮辱した。死を以って償え」
絶望の表情を浮かべるアルバートの身体に炎が広がっていった。
「やめ、やめろ、やめてくれっ、あついっ、あつぃ!」
涙をこぼし、助けを求めるよう虚空に手を伸ばしたアルバートだが、誰にも助けられることなく生きたまま炎に食われていく。
絶叫を上げる時間さえ与えず、涙と鼻水に顔をぐちゃぐちゃにしたアルバートは、すべて炎に焼かれてしまった。
残されたのは灰色の塊だけ。
それも、一陣の風が吹き宙に舞ってしまう。
――スカイ王国最強と呼ばれた魔法使いは、塵も残さず消えた。
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