第13話 新たに秘匿しなければならないスキルができました…

 瑞希と凛華は今まで手に入れた戦利品からどういったスキルを得ることができそうか話し合った。1日3回までという制限もあるうえに、1人が何個までスキルを得ることができるのかわからないという問題もあるので慎重になっていたが、潜伏して生活をする以上役立つスキルはいくつあっても足りないということで瑞希たちは、いくつかの道具から狙ったスキルを獲得できないかと話していたのだ。



「それで残った候補はこれだよね」



 凛華は話し合って残ったものたちを見ながらそう言った。この場に候補として残ったアイテムは、ダンジョンコア、凛華の母の包丁、凛華の祖父の鍬の3つだった。



 ダンジョンコアは運が良ければダンジョンに突いての情報をあわよくば得られないかという希望で、それに類するスキルを得られれば強力なものにならないかという考えで最終候補にまで残った。


 凛華の母の包丁は、スキルを持たない一般人からスキルを得ることができるのか試したいという気持ちと、彼女が飲食店で働いていることもあって、獲得できるのであれば料理系のスキルを得れば食生活が豊かになるのではないかという打算からだ。


 凛華の祖父の鍬も同様の理由であり、農業系のスキルが手に入ればダンジョンやその周辺で野菜を得られるのではないかという考えだった。彼女たちは最終候補にまで残したが、少なくともこのダンジョンで野菜を育てたとしても、それが普通の野菜になるのかわからないので優先順位は低かった。



 それ以外にも解毒草や魔石、スケルトンからのドロップ品の壊れかけシリーズの武器も候補に挙がったが、それらから現状いますぐに役立つスキルが手に入るかわからないことと、魔石からどのスキルが手に入るかわからないギャンブル要素がある以上直ぐに挑戦するのが躊躇われて選考で落としたのだ。



「それじゃあ、ダンジョンコアから始めるよ…?」



 瑞希は本命のダンジョンコアからスキルの承継を試みた。すると、


『コアからスキルを引き継ぎますか?』



 いつもと同じ声が聞こえてきたので(はい)と念じると、頭の中にダンジョンコアの記憶が出てくるのではなく、不思議な数字や見たこともない文字の羅列が浮かび上がりそれが瑞希の頭の中でグルグルと書き続けられ、一瞬の後にそれらが消えた。


(今見えたものは何…?)



 瑞希は見えた文字列や数字が意味するものも分からなく、急にそれらがブラックアウトしたかと思うと意識が戻ってきたので呆然としていた。



『ダンジョンコアから〈ダンジョン作成〉を引き継ぎました』


『黛瑞希が称号:ダンジョンマスターを有していないため、当該スキルを所有する資格はないと判定』


『最適な形にスキルを作り変えます』


『…スキルの再構築が終了しました。スキル〈亜空間作成〉を取得しました』


『〈無限収納(極)と〈亜空間作成〉で複合進化可能です。進化させますか?』




 次々とアナウンスが聞こえ、瑞希が情報の整理ができていないでいたところ、進化をしますかと聞かれ、よくわからないまま、(はい)と念じてしまった。


『進化が終了しました。ギフトの影響によりスキル〈個人空間〉を取得しました』



 そのアナウンスを最後に瑞希はよくわからないスキルを手に入れることができた。



「…い、おーい、瑞希ってば!」



 瑞希がよくわからないスキルを手に入れるまで時間を要してしまい、その間はずっとぼ~っとしていたため、凛華は不安になり声をかけ続けてくれていたようだった。



「あ、凛ちゃん。ごめん、いつも通りの感じでスキルを手に入れられたんだけど、なんか複合進化をしたり、ギフトの影響を受けたりしたせいで〈個人空間〉っていうスキルが手に入ったよ」



「う~ん聞いたこともないし、特別なスキルなのかな?」


「とりあえず鑑定をしてみるね」



 瑞希はそう言って、自身に鑑定をかけてスキルの詳細を確認することにした。



個人空間プライベートスペース〉…自らの望む世界を作り上げることができる。作ることができる世界は魔力量に応じて変化する。



「こんな感じだけど…、使ってみないとよくわからないも…」


「けど、少なくとも無限収納さえも材料にしたスキルだからかなり強力なスキルになるよね」


「多分…? なんとなく使い方はわかるけど、今から試した方がいいかな?」


「あ、待って」



 凛華はスキルを試そうとした瑞希を慌てて止めた。そして、時計を確認して瑞希に包丁と鍬を指さしながら理由を話し始めた。



「そのスキルは私もかなり気になるし、早く見たい気持ちもあるけど、あと5分で日付が変わるから早くあの2つからスキルが手に入るか試してほしいの。そうじゃないと明日の2つ分を消費しちゃうじゃん」



 瑞希はその指摘を受けて確かにその通りだと思い、慌てて包丁と鍬に手を当ててスキルを引き継いでみようとすると、狙い通り、再びアナウンスが聞こえてきた。



 2つの道具から見えた光景で包丁からは、調理場で料理をしている凛華の母の姿と、その包丁を今よりも若い時に買った時の姿が映し出された。鍬からは、毎日朝に一生懸命に野菜を育てている凛華の祖父の姿だった。



 そして、時間ギリギリに〈料理〉スキルと〈農業〉スキルが手に入った。



〈料理〉…料理を作る際に補正がかかり、質が上昇する。スキルレベルの上昇に伴って作成された料理に効果が付与されることもある。


〈農業〉…スキルレベルの上昇に伴って農業全般に補正がかかる



 手に入ったスキルは2人の狙った通りのスキルだったので、あとは土地の確保をすれば長期間潜伏することになっても野菜は手に入る可能性が出てきた。



「間に合って良かったね」


「本当にね。これであとは種と土地だね。一応種は売ってるやつを買って来てもらったけど、これだけじゃ足りないと思うし」



 凛華の母には買い物をお願いした際に「適当でいいから野菜の種も買ってきてもらえると嬉しい」と凛華が頼んでいたこともあり、ミニトマトとなす、エンドウ豆の種がある。



 季節から考えてもそれらが今植えるべきかどうかも微妙なものもあるが、ダンジョンであればそのあたりは関係がないかもしれないということに期待をして用意してあった。



「とりあえず、一度〈個人空間〉を使ってみるね」



 瑞希が凛華に確認をするようにそう尋ねると、凛華も頷いて瑞希の動きに注目していた。



「個人空間!」



 瑞希がそう宣言をすると、瑞希の前にドアノブが現れた。


「どう、瑞希?」


「え? なんかドアノブが現れたけど…」


「え? どこに?」



 瑞希は凛華と話が嚙み合っていないのか疑問符を頭に浮かべ、凛華もまた、瑞希はドアノブが現れたというが彼女の目には何も見えないので、瑞希が言っていることが分からなかったのだ。



「凛ちゃんには見えない…?」


「うん、私には瑞希がスキルの名前を言っただけで何も変化が起きていないようにしか見えないよ」



「そっか…」



 瑞希は説明をしようにもドアノブが現れたとしか説明ができないので、とりあえずそのドアノブを引くか押して開くしか選択肢がなかった。


「とりあえず私は扉の向こうに行ってみるね」


「わかった。多分瑞希自身のスキルだし危険はないと思うけど一応警戒はしておいてね」


「うん、ありがとう」



 瑞希はそう返事をして扉を押した。すると、そこから先には不思議な真っ白な空間が広がっており、一瞬光ったかと思うと自分の家が目の前に現れた。



「え、何が起こったの?」



 瑞希は何が起こったのか理解できないでいたが、とりあえず玄関を開けて中に入った。すると、そこにはいつも見ている景色と変わらぬ自宅の風景が広がっていた。違いとしては、冷蔵庫の中身が空っぽであったり、テレビをつけても何も映し出されなかったりして、外側だけ整っているという感じだった。



「窓の外は真っ白なんだけどな…」



 今のこの空間は、彼女の家の敷地だけが切り取られてこの世界にあるという感じで、それ以外は真っ白な空間が広がっていた。そのため、窓から見える景色は真っ白なままでそれ以外は何もなかった。



「そういえば、無限収納も合わさって進化をしたみたいだけど、その効果は何処にあるんだろう…」



 瑞希がそう疑問に思っていると、ピコンッ、という音が聞こえた。



 瑞希が不思議そうに辺りを見渡していると、瑞希は自分が付けた覚えがないのにパソコンに電源が入っていることに気がついた。



「何かあるのかな?」



 瑞希が自分のパソコンのパスワードを入力してホーム画面を開くと、いつもと変わらないホーム画面と思いきや、自分の知らないアイコンが複数並んでいた。



・倉庫


・建築


・拡張


・設定



 瑞希はどういう設定になっているのか気になり、まずはそれぞれを確認するのではなく、設定画面から確認した。



 すると、そこには、『時間の設定』・『メンバー設定』・『退出』の3つの項目が示された。時間の設定を確認してみると、現在はデフォルトで『停止』となっており、他に通常、加速、減速の設定があった。


「とりあえずよくわからないから今は停止のままでいいかな?」



 瑞希はそこの設定を弄ることはせずに『メンバーの設定』を確認した。確認をすると、現在はメンバーが瑞希の名前しかなく、他のメンバーを設定する、管理者権限を与える、剝奪する、といったこの空間における入出権利について、といったようにここで何ができるかということを設定できるようになっていた。



「それならここに凛ちゃんを設定すればいいのかな?」



 瑞希はメンバーの追加を選択してみたところ、凛華の名前はその中に選択肢としてあり、他にも彼女たちの家の家族の名前がそこにはあった。むしろ、気になったのはそれしか名前がなく、どういう条件で名前が追加されるのかわからなかった。



「とりあえず凛ちゃんを追加してから退出しようかな?」



 瑞希は武藤凛華を追加すると設定をしてから、『退出』を選ぶと先程と同じようにドアノブが目の前に現れた。



 瑞希がそのドアノブを押して外に出ると、先程のダンジョンの景色が視界に広がった。



「あれ、瑞希?」


「ただいま」


「え? ただいまって、どこか行っていたの?」


「え?」



 またも話が噛み合わない様子だったが、凛華から瑞希が光に包まれたかと思うと、光がおさまったら何も変わらずにそこにいたという説明を聞いて時間の設定の停止の意味が理解できた。そのことを凛華に説明すると彼女もそういうことかと理解してくれた。


「それじゃあ私も今度は中に入れるの?」


「多分そうだと思う」



 瑞希はそう言うと、先程と同じようにスキル名を唱えるとドアノブが現れた。そして今回は凛華にもドアノブが視えたようで2人で扉をくぐった。



「へえ~、中はこうなっているんだ!」


「う、うん。今の私の魔力だとこれが限界みたい。私の魔力が増えればここが広くなるかもしれないし、まだ見てない項目に拡張とか建築ってあったからもしかしたらまだ追加できるかもしれないけど」


「なるほどね。それじゃあ、とりあえずここにいるのもなんだから瑞希の部屋に行こうか。それでその項目を確かめてみようよ」



 凛華の指摘を受けて、2人は瑞希の部屋へと移動をしてパソコンを起動させた。



 そして、残りの項目についてわかったのは以下のことだった。


・倉庫


 これは今までの無限収納と同じ効果を持っているようである。違いがあるとするならば倉庫の中に移動ができるようになっているようで、中に入って直接保管されているものを取るか、パソコンでクリックしてこの場に呼び出すかの違いがあるだけである。


・建築


 これは、魔石や建材、作りたい施設を選べば瑞希が今まで訪れたことのある施設や場所であれば建築できるようである。試しに凛華の家を選択してみると、今の領域では建築不可能であること、建材が足りないこと、必要魔力量が足りていないなどとまだまだ実行するのが先になりそうだった。


・拡張


 これは、今の白いだけの空間を瑞希が使用できるようにすることだった。建築をするにしても、他の何かをするにしてもこれができなくてはその白い空間には入ることもできないようだった。拡張の方法は、瑞希の魔力が増えるか魔石から直接魔力を手に入れるかの2択だった。凛華の魔力が拡張に使えないかと思ったが、管理者の魔力でなければいけないと表示されてしまい、凛華の魔力を使ことはできなかった。



「とりあえず、ここは今は休憩所としてしか使えないかな?」


「う~ん、そうかもしれないけど…、野菜を育てるならここがいいと思うんだよね」



 瑞希がそう言うと、最小の拡張コストと畑の建築コストを表示させた。


――――――――――


拡張に必要な魔力 0/100 


――――――――――


――――――――――


畑の設置に必要な土の量 40L

魔石(小)の数 50個


――――――――――



「…かなりの土が必要だね」


「そう…だね…」



 2人は計画が思ったよりも早く頓挫することになったかもしれないと思いどうしようかとしばらく話し合いをすることにした。

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