第99話『時間待ち 拝殿の上で』

やくもあやかし物語・99


『時間待ち 拝殿の上で』   






 いざ出陣!




 と思ったら「明るいうちは出てこないから」ということで、玉祖神社のお社で休憩。


 どいう仕掛けになっているのか、拝殿の裏にドアがあって、そこを開けると真ん中に囲炉裏のある広間になっている。


「高安の妖たちが集会に使ったり、まあ、公民館だね」


 そう言って、俊徳丸は囲炉裏の席を勧める。


「まあ、くつろいでおくれ。ぼくの顔ばかり観ていても退屈だろうから……」


 パンパン


 俊徳丸が手を叩くと、西半分の壁が素通しになって外の景色が見えるようになった。


「微妙に高いわね」


 チカコがポケットからノソノソ這い出でながら言う。


「ほんとだ、麓の景色が丸見えだ」


「うん、拝殿の上だからね」


「二階なの?」


「三階ぐらいかな、もっと高くもできるよ」


 パンパン


「おお!」


 音に合わせて、もう二階分高くなった。


「これって、単に展望を良くするためじゃないでしょ?」


 チカコが上目遣いで指摘する。


「さすが、チカコだね」


「どういうわけなんですか?」


「高くすれば、それだけ広い視野で考えることができるだろう」


 パンパン


「ほら、これで大阪の全貌が見えるようになった」


「ほんとだ、海が見える」


「もっと高くすれば、東アジア全域が見えるよ」


 パンパン




「ちょっと、いい加減にしてください」




 後ろから声がして、ビックリして振り返ると、中学生らしい女の子が二人、目を三角にしている。


「お茶をもって上がろうとしたら、どんどん高くなっていって……ハーハー……息が切れます」


「ああ、すまんすまん」


 二人は、丸顔と面長で、とってもかわいい。


「丸いのがタヌキ、面長ちゃんがキツネだよ」


「え、そうなの?」


「もう、正体ばらさなくってもいいでしょ、俊徳丸」


「いいじゃないか、やくもは、正体分かっても、怖がったり偏見持ったりする子じゃないから」


「はい、お茶とお菓子、置いておきますからね」


「時間になったら、声かけましょうか?」


 キツネが目だけ笑わない笑顔で小首をかしげる。


「大丈夫だよ、お姉ちゃんは、必ず取り返してあげるから」


「きっとですよ、あんまり遅いと、お姉ちゃん、消化されてしまうから」


「任せておけ」




 それ以上言うことはなく、二人は、キチンとしたお作法でお茶とお菓子を置いて下がった。




「キツネのお姉さん、食べられちゃったの?」


「うん、キツネは半妖だから、時間がたつと消化されてしまう」


「あら、ニワトリが居るのね?」


 チカコがお茶をフーフーしながら振り返る。


 耳を澄ますと、たしかに クック ククク と密やかな鳴き声。


「長鳴き鳥を飼ってるんだよ」


「ニワトリじゃないの?」


「ニワトリでも偉いやつだよ。ほら、天照大神が岩戸に籠った時、神さまたちが賑やかに宴会やって天照大神を引っ張り出しただろ」


「ああ、聞いたことある」


「ひょっとして、あの時『朝が来た!』って天照大神を……あの時、コケコッコーってゆったニワトリ!?」


「そうだよ、さすが、チカコは詳しいね」


「でも、たくさんいるみたいよ」


「十羽ほどかな、ここでは、長鳴き鳥も神さまだからね」


 中学生にしては、古いことを知ってるわたしだけども、知らないことが一杯ある。


 そういうのって、やっぱり顔に出るんで、俊徳丸は高安や、大阪の面白い話をいろいろしてくれる。




 コケコッコー!




 長鳴き鳥が鳴いた。


 見渡すと、河内野の向こう、大阪湾に陽が沈もうとしている。


「さ、行こうか!」


 スックと立った俊徳丸は『鬼滅の刃』に出てくるキャラのように絵になっていた。





☆ 主な登場人物


やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

教頭先生

小出先生      図書部の先生

杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん       図書委員仲間

あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る