第36話『建国記念の日』


やくもあやかし物語・36


『建国記念の日』     







 三連休最終日、思い立って部屋のお片づけをした。




 取り立てて片づけをしなきゃならないほど散らかってるわけじゃない。荷物が多いわけでもない。


 朝刊読んでるお爺ちゃんを覗き込んだら『建国記念の日』という文字が目に飛び込んできたからだ。


 なんか、お片づけして清々しい気持ちになるにはピッタリの日だと感じた。


 


 わたしの部屋のアレコレはゴツクて重い。




 ベッドも机も本棚ももともとこの部屋にあったもので、どう見ても昭和……どころか、ひょっとしたら明治大正のものかもしれない。


 少しづつズラして移動させようと思ったんだけど、ゴゴゴ……ズズズズ……すごい音がする。


 音を聞きつけて、お爺ちゃんもお婆ちゃんもやってきた。


「あら、片づけ?」


「一人じゃ無理だよ」


 ということになって、ジジババの協力を得ることになる。


 さぞかし捗るかと思ったけど、二人ともギックリ腰の前科があるので恐るおそる。


 けっきょく机を壁際にピッタリ寄せて、あとは拭き掃除しておしまい。


「おや、電話のコンセントがある」


 机で隠れていた壁に電話の引き込みが見つかった。古い家なのでお爺ちゃんお婆ちゃんも忘れていたんだ。


「じゃ、例の黒電話繋いでみたらどう?」


 お婆ちゃんの発案で黒電話を繋いでみる。




 ツーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「変な音がするよ」


 お爺ちゃんに受話器を渡す。


「ああ、繋がってる証拠だよ。古い電話は、こういう音がするんだ」


「そうなんだ」


「どれどれ……」


 お婆ちゃんも面白がって受話器を持つ。


「……ウンともスンとも言いませんよ」


「試しに天気予報でもかけてみろよ」


「そうですね……だめ、繋がりません」


 お婆ちゃんに代わってもらうと、受話器は無言で、ツーーーーーーの音もしない。


 


 その夜、夢を見た。




 オブジェに逆戻りした電話をせめてキレイにしてやろうと、聞くところと話すところを外した。ねじ式だろうと見当を付けたら、その通りだったので、ちょっと嬉しい。


 あ!


 手が滑って、受話器を落としてしまう。


 コードが付いているので、床から五センチくらいのところで受話器はブラブラしている。


 拾おうとすると、なにかが出てきた。


 え?


 それは身の丈一センチほどの女の子。それが真岡電信局で見た電話交換手のようなナリをしている。


「あ、あなた!?」


「キャ」


 その子は、あっという間に本箱の裏に隠れてしまった。




 目が覚めてから、受話器の送話口を外しておく。


 あの交換手さんが戻ってきたら、すぐに入れるようにね……。




☆ 主な登場人物


やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生


お母さん      やくもとは血の繋がりは無い


お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介


お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い


杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き



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