第7話『つづら折りの近道』
やくも・07『つづら折りの近道』
それなら、この道がいいよ。
杉野君が指差したのは崖道をほんのちょっと北に行ったところだ。
図書室当番も四日目。
マップメジャーは見当たらないんだけど、国土地理院の地図を見ていた。
この街に少しでも慣れなきゃという気持ちと、三日も見ているんで、ちょっと愛着。
すると、返却された本を書架に戻しに来た杉野君と目が合って、少し話してるうちに「家までの近道」ということになって教えてもらったんだ。
右に曲がると崖下道というところで反対の左に折れる。
狭い路地っぽいんだけど、なんとか通れる。
抜けると四メートル幅の生活道路。ちょっと行ってつづら折りの小道が崖の上まで通じている。
なんだか大きなお城を裏口から攻め上る感じ。プライムビデオで観た戦国時代のドラマが頭をよぎる。
わたしは竹中半兵衛、敵の大将首はすぐそこだぞ!
まなじりを上げてつづら折れを駆け上がる!
「おや、早いわね」
家につぃて「ただいま」を言おうとすると、ちょうど玄関に出てきたお婆ちゃんに言われた。
ちょっと驚いたという感じ。孫としては喜んでほしいんだけど――なんで、こんなに早く帰って来たのよ――早く帰って来たことが迷惑みたいな響きを感じてしまう。
ああ、こういうのをひがみ根性ってゆーんだろうなあ……。
家にも街にも不慣れなんで、ついネガティブに受けとってしまうんだ。
反省反省、すぐに着替えてお風呂掃除。
わたしの部屋からお風呂場へはリビングを通る。暖炉の上の時計が目に入る。
え?
時計の針は六時間目が終わって五分しかたっていない時間を指している。
部屋に引き返してスマホでチェック……やっぱ五分しかたっていない。
図書室当番をやって帰って来たんだから、いくら近道をしたっていってもおかしいよ。五分後なんて、教室を出て図書室に向かっている時間だ。
深く考えないでおこう……念入りにお風呂掃除をすることで気を紛らわせる。
「お風呂ピカピカになってたね、ありがとう」
お風呂をあがったお爺ちゃんが喜んでくれたんで、よかったよかった。
「この道を通ったんだよ」
帰ってきたお母さんに、時間が巻き戻ったみたいなことは伏せて説明する。
「へー、知らなかったなあ、こんなつづら折り」
この街で生まれ育ったお母さんが知らない。
「わたしが出てからできた道なんだろうね」
「あ、あ、そうだろうね」
合わせておいたけど、あのつづら折りは百年はたってますって感じに苔むしていた。
さっさとお布団にもぐりこんで寝ることにした。
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