鍛冶師フェイの本領発揮

「フェイ様……」


 ソフィアは不安そうだった。無理もない。俺達は今、工房にいる。


「不安になるのはわかる。だけど、俺達は俺達にできる事をするしかない」


 俺は鍛冶師だ。戦闘職ではない。前線に出向いて闘うのは俺の領分ではない。俺は武具を鍛錬する事しかできない。


「そうじゃ。わしらはわしらにできる事をするしかないのだ」

 

 鑑定士のゴンさんも来てくれていた。


「してフェイ殿。おぬしは何を鍛造するつもりなのじゃ?」


「これから援軍は必ず来てくれます。その人達に向けた武具を作ろうと考えています」


「……そうか。おぬしならきっとやってくれる。おぬしならこのエルフの国を救える。わしはそう信じておる。微力ながらわしも応援させてくれ」


「はい」


 俺は鍛錬を始める。


 キンコンカンコン!


「おお! 何と凄い熱の入用じゃ! これは凄いものができそうだわい!」


 ゴンさんは驚いていた。


◆◆◆◆◆


 それから一日程の時間が過ぎようとしていた。


「……くっ。くそっ」


 シャロ率いるエルフ兵の部隊は善戦した。しかし多勢に無勢だった。持久戦を強いられたエルフ兵は続々と倒れていく。そして率いるシャロの体力も無限ではない。


 対する大帝国には多くの兵力があった。そして多くが銃で武装をしていたのである。多勢に無勢だ。


「まったくよ。手こずらせやがってよ。エルフのお姫様。確か、シャロティア様だったか」


「くっ……」


 シャロは既に力尽きていた。


「……闘っている時は余裕がなかったけど、こいつはえらい上玉だぜ。頑張ったかいがあったな」


「ああ。お楽しみの始まりだ」


 兵士達は舌なめずりをしていた。シャロは生理的嫌悪と恐怖を覚えた。


「心配するな。てめぇの姉のユースティアもきっちりと嬲り者にしてやるからよ。姉妹仲良くな」


「クックック。これだから戦争はやめられねぇぜ」


(フェイ様……ユースお姉様、申し訳ありません)


 このまま敵に辱められるぐらいなら。自害した方がいい。シャロは覚悟を決めた。


 ――と。その時だった。


 影が見えた。巨大な影だ。これは、ドラゴンの影だ。


「おっと! それ以上はさせないだ!」


「なっ!? てめぇは!」


 天空より降り立ってきたのは獣人の王レオであった。


「ぐわっ!」


 兵士はその爪で切り裂かれる。


「間に合ったかにゃ!?」


 ミーシャが現れる。


「くっ! くそっ! 獣人風情が!」


「うらあっ!」


「ぐわっ!」


 近接戦闘では肉体能力の高い獣人に敵うはずもない。兵士達はなすすべもなく切り裂かれる。


「シャロ。間に合いましたか」


「ユースお姉さま!」


「おーい! 皆無事か!」


「フェイ様!」


 フェイが姿を現す。


「おいらたちもいるだ!」


 ドワーフ族が竜化しているフレイムから降りてきた。


「ドワーフ王!」


 ◆◆◆◆


 俺が武具の鍛錬を終え、その場所にたどり着いた時には、既に援軍が駆けつけてきてくれた。何とか間に合った様子だ。


「よかった。何とか間に合った」


 俺は大量の荷物を持ってきたのだ。ゴンさんとユースにも手伝ってもらった。


「……フェイ様」


「ユース。何とか間に合ったみたいだね。獣人族、ドワーフ族、そして竜人族。本当、このエルフ国の危機に馳せ参じてくれてありがとう」


「まあ、約束は約束だ。来るに決まってるだろう」


「そうだ! お前たちは命の恩人だ!」


 獣人王とドワーフ王は言う。


「これは俺からの贈り物だ。まず獣人族。試してみて欲しい」


「なんだ? これは?」


「なんにゃ? これは?」


 俺は爪のようなものを取り出した。


「それはミスリルクローと言っての。攻撃力があがるんじゃ。スキル攻撃力UP大がついておる。貴様獣人の攻撃がよりえげつないものになるのじゃ!」


 鑑定士のゴンさんは説明をする。


「そしてドワーフ族にはハンマーを」


 俺はミスリルハンマーを渡す。


「それはドワーフ族の装備のハンマーじゃ。それも攻撃力があがるんじゃ」


「おお! 実にありがたい! 木のハンマーでは些か心もとなかったのだ!」


 ドワーフは喜んだ。


「そしてこいつは、シャロ。竜人用の装備だ」


「これは……?」


 馬につける手綱のようだった。


「これは神竜の手綱と言って、竜騎士が乗る事により、竜の全パラメーターが10%アップするという破格の補助装備じゃ! ただでさえ強い竜が本領を発揮し、とんでもない化物になるのじゃ!」


「シャロ。君にはフレイムさんに乗って闘って欲しい。竜騎士として」


「ありがとうございます。フェイ様。ありがたく頂戴します。装着してよろしいでしょうか? フレイム様」


「うん。別にいいよーーーーーーーーーーーーーーー。後でバハムート様もくるよ」


「それは心強いです」


 シャロはフレイムに神竜の手綱を装備させた。


「さあ、反撃の条件は整った」


 俺は少しワクワクしていた。不謹慎かもしれない。だが、俺が鍛造した武具がどう活躍するのか、鍛冶師としてそれなりに関心があったのだ。心が高鳴った。


「反撃開始だ」


 防戦一方だったエルフ国が援軍の力を得て、ついには大帝国に反撃を開始する。その時がきたのだ。



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