大帝国からの使者
「ルード王子……これからどうされるおつもりでしょうか?」
「ええ。気になりますとも。ええ」
国王エドモンドと宰相はもみ手をしている。もはや二人は名ばかりの立場となったのだ。
大帝国フィンという上位権力者が生まれた。言わば二人は管理職から中間管理職になったのである。
だが、そういう態度も彼らには似合っていた。分相応なのかもしれない。
「うーん。やっぱり綺麗なものって言うのは見ていて惹かれるよね。僕は好きだな」
「ええ。まあ、そうですな。確かに美しいものには価値があると想います」
「それに僕は女性が好きだ。良い匂いがするし。抱けば心地よい。あれはいいものだよ」
「ええ。そうですな。はい」
「エルフの国には美姫がいるというではないか。それが欲しいな。無論、それだけではない。エルフの国には多くの資源が存在する。我が大帝国の繁栄の為に、是非友好的な関係を築きたいものなのだよ」
「はぁ、エルフの国ですか」
「どうかしたのかい?」
「い、いえ。以前、行った事があるのです。鍛治師のより戻しに。失敗したのですが」
「確かにあの時会ったエルフの王女様はそれはもう目玉が飛びでるほどお美しい方でした」
「そうか。だったら尚更興味が出てきたよ。すぐに馬車を出すんだ。使者と共にエルフの国へと行くんだよ」
ルード王子はそう命令をした。
◆◆◆
「なんですって!? それは本当なの!?」
ソフィアから報告を受けたユースは驚いていた。
「ええ。本当です。ユース様」
「ん? どうしたの?」
俺は話かける。
「フェイ様……それが、大帝国フィン及び王国ハイゼルから使者が来ているそうなんです」
「……同盟」
「それで父であるエルフ王のところに実際にその大帝国の王子が来ているそうなんです」
「なんだって!」
何が目的かはわからないが、嫌な予感がする。俺達もまた、王子がいるとされる謁見の間へと行った。
◆◆◆
「同盟ですか!?」
「はい。是非我が大帝国とエルフ国との間で同盟を結んでは頂けないかと」
王子はエルフ王と会談をしていた。その様子を俺達は聞き耳を立て、覗き見ていた。俺達とは俺、ユース、シャロ、それからソフィアの四人である。
「な、なぜですか。なぜ急に我々と同盟を結ぼうと考えたのですか?」
「エルフの国には豊富な資源があります。鉱山もあり、貴重な金属も採れると聞いております」
「して、私達が同盟に入る事の旨味というのは何なのでしょうか?」
「決まっていますよ。我々の同盟に入れば、大きな軍事力を得る事となる。他国や多種族から侵略される可能性もなくなりますよ。無論、有事の際は実際に力もお貸しします」
「ふむ……そういう取引ですか」
「ところでエルフ王には大変お美しい娘さんがいらっしゃるようで。ユースティア様という名の美姫」
「はぁ……美しいかどうかは一人よるので何とも言えませんが」
「同盟の際に、お互いの関係をより密にする為に、娘さんを妻として娶りたいと考えておりますが、いかがでしょうか?」
「ふざけないでください!」
ユースは叫んだ。完全に姿が露見してしまう。しかしもはや構わないようだった。
「何とお美しい! 想像していた以上だ! これは何としても手に入れたくなってきましたよ!」
ユースの姿を見たルード王子は興奮気味であった。
「だからふざけないでくださいと言いました! 私にはもう心に決めた人がいるんです! あなたの妻となるつもりは微塵もありません!」
「心に決めた人? それは誰ですか? 横にいる男ですか? 確か鍛治師のフェイとか行っておりましたね。聞いた事がありますよ」
大帝国フィンは王国ハイゼルと同盟を結んだそうだ。実際のところは属国となったのだろうが。国王と宰相から話を聞いたのであろう。
「いきなり現れてなんだ! ユースを妻に娶るだと! ふざけるなっ!」
「いいんですか!? 今回の話が決裂に終われば、大帝国がエルフの国に攻め入ってくるのですよ」
「くっ! 卑怯な、脅しですか!」
「最初からそのつもりだったようですな。話がまとまらなければ武力をちらつかせる。それが人間のやり口ですか」
「人間とまで主語を大きくされるとは。あくまでも我々のやり口です」
「ルード王子」
「はい?」
「交渉は決裂です! 娘にはもう心に決めたお人がいるのです! あなたに差し出す事はできません!」
「お父様」
「そうですか。決裂ですか。わかりました。では我が大帝国はエルフ国に攻め入ります。力で蹂躙して、欲しいものは手に入れるとしましょう。それはそれで一興です。戦争に勝利した暁には、それはそれでおぞましい状況が見える事でしょう。勝利した兵士達はエルフの民を貪り、犯し尽くす事でしょう。地獄絵図のような惨状が見えるかもしれません」
「ゲスがっ」
シャロは吐き捨てる。
「男たるもの、やはり欲しいものは戦って手に入れなければなりませんね。いいでしょう。久々の戦です。心躍りますよ。では、私は一旦帰らせて貰います。改めて宣戦布告をさせて頂きますよ」
そう言ってルードは帰ろうとする。
「お父様、彼を帰らせていいのですか?」
「下手に監禁したり、殺したりすれば大帝国はより苛烈に我が国を攻めてくる事であろう。それは避けたい。怖いのは彼単体ではない。あくまでも背後にある国家の軍事力だ」
「そうですか」
その通りだった。ルードを捕らえる事には解決の糸口などない。もはや戦争は避けられないのだ。
「では、私はこれで。またお会いしましょう。恐らくは勝戦国の王子と敗戦国の姫として、お会いする事になるとは思いますが。くっくっくっくっく! あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
哄笑が響く。こうしてルード王子は従者と共に帰っていった。
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