エルフの国に鍛冶師として招待される
俺の目の前にはエルフの王女様が立っていた。
「ユースティア様ですか……」
「フェイ様、そんな他人行儀な呼び方はお止めください。あなた様は私の、私達の命の恩人なのです。どうか、ユースとお呼びください」
エルフの王女を現在進行形の無職が呼び捨てにするのは憚られた。だが、本人が良いと言っているのだから仕方ない。
「ユース……これでいい?」
「はい。フェイ様。それでいいかと思います」
「ユース。俺の事はフェイ様なの?」
「はい。あなた様は命の恩人ですから」
「そうなんだ……」
その点、いちいち言及するのも面倒だった。すぐに別れるような関係かもしれないからだ。
「それにしても、エルフ兵達の武器を見せて貰って良い?」
「は、はい……こちらでしょうか」
地面に落ちている剣をユースは持ち上げ、俺に渡してきた。
「……やっぱりな」
ボロボロだ。金属製ではあるが、碌な切れ味ではないだろう。強度も低い。槍に関しても同じ程度だろう。
「エルフの国には鍛治師はいるの? こんな剣を作って申し訳ないと思わないのか? その鍛冶師は」
「いえ、エルフの国に鍛治師などおりません。その剣も槍も他国から購入したものです。我々エルフはあまり闘争を好みません。故に鍛治師の文化も発達していないのです」
「そうなんだ。確かに平和を好むのは良い事だよ。だけど、力がなければどうしようも無いこともある。さっきの奴等みたいなのから身を守るには力を身につけるしかない」
「確かにそれもそうです。先ほどのフェイ様の攻撃は凄いものでした。あれはどのようにして起こったのでしょうか?」
「この剣の効果だとは思うんだけど……」
俺が作っていたのは贋作だと思っていた。だが、あの時の魔剣グラムの効果は間違いなく本物にしか宿らないものだった。いつの間にか、本物の魔剣を鍛造できるようになっていたというのか、俺は。
「その剣はどこで手に入れたのですか?」
「これは俺が鍛造したんだ」
「そうなのですか! フェイ様が! ご自分であのような強力な武器を鍛造する事ができるのですか!」
ユースはえらく驚いていた。
「自分でも驚いているよ。まさか俺が作った剣がこんな効果を発揮するなんて思ってもみなかったからね」
「すごい……フェイ様は近くの王国で鍛治師をしているんでしょうね。きっとこんなすごい剣を作れるフェイ様を王国は逃しはしないでしょう」
「残念ながら俺は今どこにも所属していない。言葉を濁さずに言えばただの無職だ。ノージョブだ。ぷー太郎だ」
「え? それは本当ですか?」
「ああ。本当だよ。ついさっき、国王からクビを言い渡されたんだ」
「それはなぜですか?」
「俺はずっと贋作鍛治師として働いていたんだよ。だから代わりがいくらでもいる贋作鍛治師なんてもっと安いのがいるって、クビを切られたんだ。だけど俺自身知らなかったんだ。まさか俺が鍛造していた武器がいつの間にか本物になっているなんて」
「でしたらフェイ様、私達の国で鍛治師になってくださいませんか?」
「え?」
「先ほど説明した通り、私達の国に鍛治師はおりません。ですがそれではいけないのです。先ほど見せて貰った通り、言葉の通じない相手には力で対抗するしかない。刃は人を傷つける事もできますが、人を守る事もできるはずです。私達はその身を守る力が欲しいのです」
「けど、いいのか。俺は人間だぞ。エルフにとっては外様だ。警戒するんじゃ」
「いえ。あなた様は私達の命を救ってくださいました。ですからエルフの人々も歓迎してくれるはずです。ねっ、皆」
周りに控えていたエルフ兵に意見を求める。
「そうです。フェイ様がいなければ情けない俺達じゃユース様のお命を守れなかった事でしょう」
「ええ。娘の命を助けたとあらば、国王も歓迎してくれます。国民だって一緒です」
「フェイ様は俺達の命の恩人ですよ。人間だからって歓迎してくれますよ」
温かい言葉だった。
「ありがとう……皆」
俺は涙を流す。
「なぜフェイ様がお礼を言うのですか。助けられたのはこちらの方です。そしてこれからも助けて貰おうとしています。私達はまだ何も返せておりません」
「いいんだ。こんなに必要とされた事今までの人生で一度もなかったから、俺、嬉しくって。それで……」
「泣くのはおよしください。フェイ様は私達の英雄なのですから」
「ごめん……」
俺は涙を拭う。
「俺で良かったら是非君たちの国で武具の鍛造をさせてくれ」
「はい。歓迎します。フェイ様」
ユースは温かい笑みを浮かべた。こうして俺はユースと同じ馬車に乗り込み、エルフの国へと向かうのであった。
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