第13話  憧れ

 次の日の朝。


 私は、寝坊した。さんざん泣いたから、目が腫れてしまっているわ。こんな姿、昔の自分なら恥ずかしくて、表に出ることができなかったと思う。


 でも、今日からは新しい自分なのよ。

 だから、前に進むわ。


 今日は、仕事はお休み。フランツ様が、今日は休んでゆっくりしていいと言ってくれたから。


 私は少しだけ罪悪感を感じながらも、彼の厚意に甘えることにしたわ。

 人の厚意に恐縮することはないとわかったから。それに報いるのは、恐縮することではなく、その人が手を貸して欲しい時に、今度はこちらが手を伸ばすことだとわかったから。


「あら、ニーナ様! 今日はお仕事お休みなんですよね」

 私は遅めの朝食を食べていたら、マリアがやってきた。

 サラダとスープ、パンの朝食を手早く済ませて、彼女と談笑する。


「ええ、少し眠れなくて、寝坊してしまったのよ」

「それだけ我が家に馴染んできたってことですよ。私は嬉しいな」

「ありがとう、マリア。本当に私はあなたに助けてもらってばかりよ」

「なら今度、勉強を教えてください。ヴォルフスブルク語の試験が難しくて、泣きそうなんですよ」

「お安い御用よ、それなら母国語よりも得意かも」

「ありがとうございます! 先生よりも詳しいニーナ様に教えてもらえるなら、百人力ですわ」


 私たちは、10時のお茶を楽しむ。

 こんなに心からゆっくりする休日は、初めてかもしれない。今まで着こんでいたドレスがどれほど重かったかよくわかるわ。


「そうだ! これから街に遊びに行きませんか? お兄様から、ニーナ様の日用品を買ってくるように言われているんですの。お小遣いももらっているので、お昼はカフェで食べてきましょうよ?」


「でもそれは、マリアのお金じゃ……」


「大丈夫ですよ。ニーナ様の分も、お仕事を手伝ってもらっているからと、お兄様からいただいておりますし……ご実家の公爵家からも、ニーナ様の生活費分以上のお金をいただいておりますので、気にしないで欲しいと言われておりますわ」


「なら、少しだけ、街で遊びましょうか」

 同年代のお友達と気軽に街に繰り出す。


 昔から憧れていたことよ。でも、貴族でも皇太子様の婚約者である私には、そんな些細な憧れも叶わなかったから……


「なら、ご飯を食べたら、春物の服を見ましょう!」


「助かるわ。正直、あまり服を持ってくることができなかったから、困っていたのよ」


「楽しみですわ!! そして、お友達に自慢しますわ。みんなニーナ様に憧れているから、デートしたなんて言ったら羨ましがるはずですからね!」


「それはちょっと、気恥ずかしいわね。でも、ちゃんと、エスコートしてね、マリア!」


「もちろんですわ、お姫様!」


 私たちは、そう言って笑い合う。今日から私の青春が始まったのかもしれない……

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