魔法少女戦線 極彩色の侵略者と真紅の少女

白林透

第1話 プロローグ 北極奪還と伝説の二人

 てつく暴風に、無数の氷のつぶてが巻き上げられていた。


「私はッ、あきらめない! 一人になっても、あれだけは壊す!」


 北極点、高度四百メートル。

 海面から無理やり割り剥がされ、天にそそり立つ一キロ級の巨大な氷の壁。

 両の足を氷に食い込ませて垂直に起立する真紅の少女が叫ぶ。

 艶のある褐色の髪は首の後ろで一纏ひとまとめにされ、羽に似たヘッドギアが両サイドから髪を固定している。

 よわい十二とは思えない気迫。手に握られた己の背丈ほどもある巨大な真紅のハンマーが轟々ごうごううなった。

 彼女がまとうのは絢爛けんらんな戦闘衣装。選ばれた者だけが纏う事の出来る人類最後の希望。

 見据える先は遥か地上。

 未知の技術で形成された巨大なドーム型のワープゲートだ。

 その直線を塞ぐように、虹色の極彩色ごくさいしきに輝く異形の巨大な塊が四つ。

 其々、巨大な口の蜥蜴とかげ、六本の脚を持つ亀、針の体毛を持つ鳥、四つの尻尾を持つひょうのような姿をしている。

 垂直に近い氷壁を蹴って駆け出す。残された時間は少ない。

 彼女の衣装はほころび始めていた。戦闘による摩耗まもうもあるが、それとは別に魔法を無力化する敵の新兵器の影響が大きい。

 ゲート破壊に赴いた魔法師、魔法少女の殆どがすでに戦闘不能。

 亀に似た巨体が、六本の脚の形を変化させて、触手のようにしならせた。

 一つ一つがビルのようなサイズのそれら全てを少女は手にしたハンマーで軌道を変えて交わし、更に反動を利用して加速。化け物の頭部に深々とハンマーを叩き込む。

 はたから見る者が居れば、あまりに違いすぎる体格差から無意味な一撃に思えただろう。

 だが――、


「どけぇえええ!」


 ハンマーの先端が熱せられたようにしゅに染まった瞬間、巨大な敵は風船が膨らむように膨張、粉々に爆発して周囲に白い粉をぶちまけた。

 粉塵ふんじんきりを破って更に下降。同様の攻撃を仕掛けて来た、鳥型を同様にちりに変える。


「チッ!」


 敵を砕くと同時に、ハンマーも粉々に砕け散った。

 少女はすぐさま腰に手を当てる。

 そこには赤いガラスのようにき通った星形のアクセサリーが一つ。本来は四つあるストックもこれが最後の一個。

 触れると同時に輝いたそれは、一瞬で大ハンマーへと姿を変えた。

 今更、個数は問題ではない。あと一分も持たずに変身は解ける。


 この一本で十分。

 

 ひょう蜥蜴とかげが足並みを揃え、同時に攻撃を仕掛けて来た。

 腕や尻尾は使わない、本体での突撃だ。

 巨大故に軌道をずらして回避するのは不可能。まるで巨大な壁が迫ってくるようだ。

 大きく上段にハンマーを振り被る。ゲート破壊のエネルギーは極力きょくりょく残しておきたいが、この障害を突破できなければ意味がない。

超大型個体との真っ向からの打ち合いは未だ経験が無かった。破壊できたとして、弾き飛ばされる可能性もある。


それでも――、


決意とは裏腹に、彼女のはるか上空から右脇を通過して青白い極太ごくぶとの閃光が蜥蜴の左腕を貫通、爆発と共に大きな風穴を開けた。


「まさかティナ?」

「遅刻してごめんね、ユメコ。貴方の無茶な氷山割りのおかげで随分ずいぶん上まで打ち上げられちゃったから」


 鮮やかなブルーの修道服に似た戦闘服に身を包んだ少女が、すぐ後ろを滑空かっくうしていた。目を奪われるほど透き通った琥珀色こはくいろの瞳、白い肌にブロンドの髪。

 手には身の丈ほどもある、老木のようにうねった杖を握っている。


「ティナは離脱して。後は自分が」

「冗談、せっかくメインディッシュに間に合ったのに。手柄の独り占めは許さないわ」


 特に合図するでもなく、二人は示し合わせたように化け物を一体ずつ破壊する。

見事なコンビネーション。

 残るは無防備になったゲートただ一つ。


 しかし――、


「くっ……」


 二人の手から武器が消失する。戦闘服も爪先から剥がれ始めている。

 限界が近い。空中の氷を蹴り込み更に加速。

 

 果たして、間に合うだろうか?


 互いの視線が交錯する。


「余裕がないのはお互い様」

「だけど、これが最後なら――」

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