二学期①
【若元梨音目線】
今にして思えば、私が初めて修斗を意識し始めたのは6歳の頃だった。
自分達が通い始めた小学校とは別のところでクラブチームのサッカーの練習をしているということで、一人で修斗に会いに行ったんだ。
それなのに途中で道に迷っちゃって。
『ぐすっ…………ぐすっ…………ママぁ……パパぁ……しゅーと…………うう……』
実際は小学校から近くの公園にいたんだけど、自分がどこにいるのかも分からず、ベンチに座って泣いていた。
『りお!』
少ししたら、練習着のまま修斗が走って私を見つけてくれたんだ。
『…………しゅーと……?』
『りおのおかーさんがグラウンドに来てりおが来てるはずって言ってたから…………なのに来てないから迷子になってると思ったんだ』
修斗は凄く汗だくで息も荒くなっていて、それが練習の途中だったからなのか、必死に探してくれていたからなのかは分からない。
『ごめんなさい……道、分かんなくなっちゃって』
『いいよ、ちゃんと見つけられたんだし』
『でも……練習の途中なのに』
『りおのためなら練習なんてどーでもいいよ。サッカーなんかより大事だもん。ほら、行こ』
そう言って私の手を取ってくれた時のぬくもりを私は今でも覚えてる。
その時の修斗にとっては当たり前の行動だったのかもしれないけど、幼い私が修斗のことを意識するには充分すぎるエピソードだった。
ただ、それが今のような恋愛感情かと言われればそうとは言い切れない。
小さい子特有の好きなもの、嫌いなもので分類した時の好きだった気がする。
もちろんそれがきっかけであったことは間違いない。
中学生に上がる頃には、他人とは違う特別な感情を修斗には抱いていた。
ただの幼馴染というだけじゃなく、一人の男の子として。
でも私がその感情を表には出さず、自分の心に嘘をつくようにしてきたのには理由があった。
一番は修斗に恋愛感情が全く無かったことだった。
中学1年生になった頃、修斗は既に東京
1にサッカー2にサッカー。
常にサッカー漬けの修斗にとって、サッカーより大事なものは無かったんじゃないかなと思う。
『修斗、次の土曜日にお父さん達と遊園地に行くんだけど修斗も行かない?』
『あー…………悪い! 土曜日は涼介や優夜とサッカーの練習する予定なんだ』
『そっかぁ…………じゃあ日曜日は?』
『日曜はクラブチームで試合があるし……夜まで練習するつもりなんだよね』
『そう……なんだ。そうだよね、練習大変だもんね』
『ごめんなぁ』
『ううん、全然気にしないで!』
似たようなやり取りを何回もした覚えがある。
私は6歳の時に修斗に言われたことを覚えているけど、成長とともに人の価値観は変わる。
修斗の中の一番が私じゃなくてサッカーに変わったことに気づいた時、私は修斗のことが好きという感情を心の奥にしまい込み、出来るだけ修斗の邪魔をしないようにしようと思った。
自分の気持ちを修斗に伝えれば、それは間違いなく修斗にとって邪魔になるし、万が一、万が一拒絶された時に私はもう修斗の隣にいることは出来なくなる。
だから私はできるだけフラットに、あくまで幼馴染という立場であり続けられるように
それが今、修斗はサッカー以外の楽しみに触れて中学時代のような一つの事柄に熱中するようなことは無くなった。
よく佐川君と女の子の体や見た目についてふざけて話し合ったりしてるけど、中学時代の修斗からしたら考えられなかった。
一度、着替え中の私の部屋に修斗が入ってきて下着姿を見られたこともあったけど……なんというか、私の体を見て、その…………エロくなったみたいなこと言ってて…………う、ゔゔん! ま、まぁ要は意識し始めているようなことも言ってた。
だからもし、もしも修斗に恋愛感情というものがあるのだとしたら、それはつまり私以外の誰かを好きになることがあるかもしれないわけで。
今も修斗の周りには可愛い女の子達がいっぱいいて、きいだったり美月だったり冬華だったり神奈月先輩だったり。それに動画のせいで私の知らない人が修斗のことを気になりだすかもしれない。
修斗が私以外の誰かを受け入れて、私の大事な場所が無くなる可能性があるのなら、もう自分の気持ちを隠すことなんてしない。
修斗のことを最初に好きになったのは、私なんだから。
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