閑話 女子会
【若元梨音目線】
「みんな水着持ってる?」
一昨年に買った水着もあるけど、これでも私達は成長期。それに今回は女の子だけじゃなくて男の子もいるから、少なからず意識もしてしまう。
私、美月、冬華、きいは学校が休みの日にショッピングモールに集まった。
「梨音っちー! こっちこっち!」
最寄り駅に着いたところで既に美月ときいが待っていた。
「お待たせー。あとは冬華だけ?」
「後ろ後ろ」
振り返ると冬華も同じタイミングで来ていた。
どうやら同じ電車に乗っていたみたいだ。
「初めましてだよね八幡さん。私、桜川美月って言います。今回は海に誘ってくれたみたいでありがとう!」
「企画者は私じゃないけど、こちらこそよろしくお願いします。
「じゃあ八幡っちだね!」
やっぱりその呼び方になるんだ……。
「私の方は桜川さんのこと前から知っていたけれどね」
「ええ!? あちゃー、私ってそんなに有名人だったかー。やっぱり溢れ出るオーラみたいなものが…………」
「高坂の元ストーカー」
「黒歴史掘るのやめて!」
私達のクラスならみんな美月のこと知ってるから……。
挨拶もそこそこに、私達は軽くカフェに寄って飲み物を買うことになった。
私はミルクラテというのを買ってみた。
冬華とたまに来ることはあるけど、その時は大体季節限定メニューを頼んだりしている。
きいはあまり来たことがないのか、メニューの多さとサイズの呼び方に手間取っているのが少し可愛かった。
「べ、別にここに来なくても生きていけるし……」
頬を赤らめさせながらそんな風に強がっていて、無性に抱きしめたくなった。
「というか今回はさ、男の子もいるわけじゃん。高坂っちと佐川っちとニノっち。みんなは誰狙いとかあるの?」
さらっと美月が答えにくい質問をしてきて、思わずミルクラテを吹き出しそうになった。
「な、なんでそんなこと聞くの?」
「ええ〜だって気になるじゃん。梨音っちと八幡っちは普段から一緒にみんなと遊んでるわけだし、せっかく新しい水着を買いに行くんだからその人に向けてアピールとかするのかな〜って」
美月がニヤニヤと笑いながら聞いてくる。
こういう時に元ストーカーとしての調査力を見せてくるのは厄介だなぁと思う。
「まぁ美月は修斗目当てだから隠す必要無いとして…………」
「ちょちょ! 決めつけが早い!」
いまさら聞かなくてもみんな知ってることだし。
「周知の事実だからね」
「八幡っちまで! そんなこと言ったら梨音っちだって高坂っちの幼馴染じゃん! こっちの方がよっぽど分かりやすくない?」
「確かにそうね。普段から距離感もなんかおかしいし…………実はもう付き合ってたり?」
「な……! ないないない! 付き合ってなんかないから! 修斗とはただの幼馴染だし……!」
「ムキになって否定するところがむしろ怪しいなぁ〜」
そりゃ否定しておかないと、もしも同じ家で暮らしてるなんてバレたらそれこそ晒し上げられちゃう……!
「それに鷺宮さんが高坂に猛アタックしてた時の梨音の不機嫌さと言ったら……」
「冬華〜?」
そりゃまあ、当時の鷺宮さんの態度に少しはモヤっとしたけども…………それとこれとは話が別だし!
「鷺宮さんと言えば、この前の前橋っちの啖呵も凄かったよね〜。あんな熱い一面があるなんて知らなかったし」
「あ、あれは…………」
美月が言っているのは、河川敷のフットサルの帰り道、涼介君と鷺宮さんに偶然会った時のことだ。
鷺宮さんが修斗のことを小馬鹿にした物言いをした時に、誰よりも早く、強く否定したのはきいだった。
「なんのこと?」
「冬華はいなかったもんね。この前、鷺宮さんの修斗に対する失礼な発言に、きいが言い返したの」
「いやぁ、アレは高坂っちに対する愛を感じました」
うんうんと美月が頷きながら言った。
「ち、違うし! 私は高坂のサッカー選手としての能力を否定されたことに怒ったのであって、別に高坂自身についてどうこう思ってるわけじゃなくて、昔から同じサッカー選手としての憧れとかもあったからそれを馬鹿にされた気持ちにさせられたのが悔しくて言い返したのであって、高坂が気になってるとかそういう話じゃないんだから!」
「あ、うん。なんかごめん」
「凄い早口……」
「〜〜〜〜〜!!」
なんなのこの可愛い生き物。
家に持ち帰ったらダメなのかな。
「でも前橋さんはニノとも普通に話せるよね。ニノがそもそもそんなに人と話せるタイプではないのだけれど…………仲良かったり?」
確かにニノはいまだに私や冬華と1対1だと少しキョドりながら話す節があるけど、きいと話している時は普通だ。
「
妙に納得したように私達は頷きあった。
「佐川っちは? 佐川っちのことが気になってる人」
「新之助は…………」
「まぁ…………うん」
「私は苦手」
「冷たっ! 前橋っちに関してはストレート過ぎる!」
悪い人じゃないんだけどね……。
なんて言うか誰よりもクセが強くて、恋愛対象として見れるかと言われたら……。
「でもすごい気遣いできる人だと思うわね。なんていうか、普通じゃ気付かないようなところをよく見てるというか、人の懐に入るのも上手いというか」
「お、八幡っちが唯一フォローした」
「宇佐木先生にしても、ニノの家の人達にしても、そういうところは素直に凄いと思うわ。恋愛対象として見れるかという問いに対しては……頭を捻るけれど」
あ、私と同じこと言ってる。
「まぁ3人に限った話をするなら、総合的にスペックが高いのは高坂よね。スポーツも勉強もできるし見た目も清潔感あるし」
「そんな高坂っちに相応しいのは、幼馴染枠でアイドル級の梨音っちか、比護欲が掻き立てられる美少女の前橋っちのどちらか、というわけだね」
「どんな評価の仕方なのよ。というか、なんで美月は自分のことは入れてないわけ?」
「いやいや、二人に比べたら私なんて戦いになりませんから! もうその辺に落ちてる軍手と同じですから!」
いくらなんでも卑下しすぎ……。
きいが庇護欲掻き立てられる美少女というのは凄く納得できるけど、私なんてそんな大層なもんじゃないよ。
「美月は運動部らしい綺麗なボディラインしてるじゃない羨ましい」
「それを帰宅部で出来てる梨音もおかしいのよ。桜川さんだって、結構男子人気高い噂も聞こえてくるし、みんなと比べたら私なんて…………」
珍しく冬華が落ち込んだ表情を見せる。
あんまり容姿の話なんてしたことないけど、意外と冬華も気にしてる……?
「八幡っちは………………こんなに良いものがあるでしょーが!!」
美月が冬華の胸をガッシリと掴んだ。
確かに服の上からでもハッキリと分かる大きさなのは冬華だけだ。
着替えの時にいつも思わず見てしまう。
「ちょっ、やめ……! 初対面で普通人の胸揉まないでしょ!」
「ええい、男子を一番誘惑できる武器を二つも持っておいて贅沢なり!」
「美月、外で人の目もあるからその辺で…………」
「勘弁してあげよう!」
「なんて傲慢な元ストーカー…………!」
少し涙目になりながら胸を隠す冬華。
ふときいを見ると、自身の胸元を見ては諦めたように目を逸らしていた。
大丈夫だよきい。
きいの魅力は見た目には現れてないところだから。
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