夏休み①
「夏休みどこか行こうぜ!」
期末テストが全て返却され、残すところは終業式を待つのみといったある日の放課後。
新之助が後ろから声をかけてきた。
「どこかってどこだよ」
「それはこれから決めるんだよ。おいニノ、若元、八幡。ちょっとこっち集合」
まるで執事を呼ぶように指をくいくいっと曲げて3人に呼びかけるも、その様子に反抗するかのように3人は無視していた。
俺でもそうする。
「………………謝るからこっち来てえ!」
「情けなさすぎるだろ……」
「なんなのよ〜もう」
哀れむように渋々と3人が集まってきた。
出会って3ヶ月も経てば、新之助の取り扱い説明書なんかを持ち合わせているようになるみたいだ。
俺は出会って3日で手に入れたけどな。
「全員テストで赤点は無かったよな? 俺はそれが心配で仕方なかったんだぜ」
「お前が一番心配されてたんだよ」
「何はともあれこれで夏休みに補習があるやつはいないし、どこか遊びに行こうぜって話をしてんだ」
「いいね! 私もその意見に賛成ー」
「梨音が行くならもちろん私も。新之助の意見に珍しく賛同ね」
「珍しくってなんじゃい」
「それでどこに行くかって話なんだが」
「おいおい、夏って言えば選択肢なんて一つだろ」
新之助が自信満々に言った。
はて、夏に行く場所はそんなに限られてるもんなのか?
今までの俺の選択肢と言えばグラウンドの一つに絞られてたわけだからな。まさかグラウンドとは言うまい。
「あれじゃない? 海」
「若元正解大正解!! 佐川ポイント10点進呈!」
「うわいらない。ちなみに貯めるとどうなるの?」
「100点で俺とデートできる権利を贈呈です」
「あー……受け取り拒否でいいかな」
「なんで!」
ほぼ罰ゲームをプレゼント代わりにすんなよ。
それ受け取ってくれんのお前の母ちゃんだけだぞ。
「プールとかでもいいよね〜。僕、あんまり泳ぎとか得意じゃないけど」
「なるほどそっちもあったか…………どうやら選択肢は一つだけじゃなかったみたいだな」
「ぶれるの早っ。もう少し自分の言葉に責任持てよ」
「まぁまぁ修斗よく聞けって」
新之助がガッと肩を組んで引き寄せ、二人に聞こえないような声で話してきた。
「要は女子の水着が見れりゃあどこでもいいんだ俺は」
「ほう…………お前、よく策士だって言われないか?」
「よせやい照れるだろ」
俺かて年頃の男の子。
サッカーを辞めてからはそういう部分にも否応なく心惹かれるものだ。
水泳の授業時にも見れるだろって?
そうじゃない、そうじゃないんだ。
みんなは学校で見る制服とプライベートで見る私服、どっちの方が良いかって話よ。
学校での制服姿はもちろん可愛いし、普段は見せない私服姿も可愛いってわけ。
つまりはどっちも可愛いってこと。
ん? なんか変な結論になったな。
「そこで修斗には前橋と桜川も誘って欲しいってわけよ」
「俺が?」
「二人と仲良いだろ、お前」
「さては俺をダシにしてるな」
「ニヒヒ、女子は何人いてもいいだろ」
全員知らない仲でもないし構わないが…………桜川は部活の仕事もあるだろうし前橋に至っては海に行くような奴には見えん。
まぁ予定合う合わないはともかくとして、一応声は掛けておくか。
「分かった。俺から連絡しとくよ」
「お! 話が分かるじゃねーの!」
「別にあんたのためなんかじゃないんだからね」
「修斗のツンデレとか誰得なんだよ」
その後、日程調整を重ねることにより、海に行くのは一週間後となった。
ただし、荷物があることを考慮するとこの前のようなリムジンではなく、ワゴン系の車になるそうだ。何台車あるんだよというツッコミはこの際スルーした。
そしてその車は7人乗りらしい。
現状の人数であれば運転手の牧村さんを含めても6人で問題はないのだが、ここに前橋、桜川が加わるとなると定員オーバーとなってしまう。
なので、向かう方法については二人の返事を待ってから改めて決めるということになり、俺達は解散した。
俺と梨音はそのまま生徒会室へと向かう。
生徒会長である神奈月先輩が終業式での生徒代表挨拶をすることになったので、それの下準備だ。
そのついでに前橋を海に誘うことにしよう。
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