現役ユース生③

「や〜まだ! お前が大物連れてくるなんて言うから誰かと思えば、まさかあの高坂修斗だとはな!! こりゃ上々じゃねえか!」


「期待通りだろう?」


「バカヤロウ期待以上だ!」


 大城国だいじょうこく紗凪さなぎ

 実際に会うのはこれで二度目だ。

 前に会ったのは中学二年の秋大会だったか。

 横浜レグノスと対戦した時に、大城国がFWを張っていた。

 優夜や賢治を超える体格に驚いたが、身体の使い方が悪く、賢治との競り合いで一方的に負けていたのが記憶にある。

 あの頃よりもさらにデカくなっていることや、日本代表にも選出されたという話を聞いていることから、優夜にも負けないフィジカルを手に入れたということか。


「改めて、大城国だ」


「秋大会ぶりだな」


「ぉお? 俺のこと覚えててくれたのか?」


「俺は一度対戦した相手のことは覚えてるんだよ。それを抜きにしてもその見た目だ、忘れる方が難しいだろ」


「だっはっは! それもそうだな!」


 ばん! と背中を叩かれた。

 とんでもない力だ。

 軽くよろめきそうになる。


「にしても、結構な人数集まったじゃねえか。女子も含めて8人とはな」


「8人…………違う違う。そっちの女子3人は高坂の応援団だ」


「応援団でもねぇよ」


「でもキイがいるじゃねぇか。よぉキイ、ジュニアユース以来だな。ひじりさんは元気か?」


「げっ」


 大城国が前橋に気付き、声を掛けた。

 山田弟とは特にリアクションが無かったが、どうやら大城国とは接点があったみたいだ。

 にしても嫌そうなリアクションだな。昔のチームメイトに会うのがそんなに嫌か?


 …………うん、嫌だな。


「なんだそんなに俺と会うのが嫌か!」


「別にそこまで仲良くないし」


「だっはっは! 相変わらず愛想の無い奴だ!」


「うるさい」


 塩対応は変わらず。

 横浜レグノスのジュニアユースにいた頃から前橋はこんな感じだったのか。

 大城国が前橋の兄貴と接点があるところを見るに、単に山田弟とは前橋が仲良くなかっただけと見た。


「前橋っち大城国さんと知り合いなの!? 今の世代別日本代表の人じゃん! 凄い!」


「別に……元チームメイトってだけだし」


「中二の途中までな。俺がAチームに上がるまでの間、Bチームで仲良くやってたということだ!」


「だから仲良くやってないって! こ、高坂! 別にこんなのと仲良くやってないから!」


「なんで俺に釈明するんだよ」


 チームメイトと仲良くするのは別に悪いことじゃないだろうに。


「世間話はこれぐらいにして、受付を済ませようぜ。俺達は思い出話をしに来たんじゃなくて、フットサルをやりに来てるんだからな」


「その通りだ山田よ。わざわざ自主練の時間を割いて来たんだからな、俺を楽しませてくれる奴はいるんだろうな!」


 まるで傍若の無人。戦闘狂を思わせるような発言だが、その実、俺自身も楽しみにしていた。

 中学三年の夏に怪我をしてから約一年、前回のフットサルのような初心者の集まりではなく、サッカー経験者の集まるちゃんとした試合の場。


 見回すと対戦相手のチームはほとんどが歳上だ。

 社会人、大学生、高校生。これらの世代別がチームを組んで勝ち星を争い合う。これほどワクワクさせるものは久しぶりだ。

 俺の今の状態を推し量るにはちょうどいい。

 フットサルとサッカーはボールの大きさもコートもルールも異なり、それを主戦場としてプレーしている人達を相手にするわけだが、それぐらいのハンディを跳ね返せなければ、俺が再び涼介や優夜と同じところへ立つことはできないだろう。

 それに、今回は味方も心強いしな。


「試合開始は今から1時間後。一人当たり参加費は2000円。6チームによる総当たり戦で優勝チーム、準優勝チームには豪華賞品が。それじゃあ更衣室で着替えてアップするぜ」


「「「おう!」」」


「じゃあ、私達は向こうのベンチで見てるからね!」


 梨音達と別れ、俺達は試合の準備を始めた。

 既に他のチームではコート内で練習を始めている。

 1時間前から始めているとは、気合いも十分のようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る