無圧面接③

「ここ最近真面目な活動しかしてこなかったから、何か面白いことはないかと考えたわけだよ」


「それが生徒会の本来あるべき正しい姿です」


「そこで私は思い出したわけだ。あれ? そういえばミッキー達の罰ゲームがまだ済んでいないんじゃないか? と」


 神奈月先輩は大鳥先輩の言葉を無視して続けた。


 まったくもって悪い笑顔をしてらっしゃる。

 俺からしてみれば男の女装姿なんて見たくもないわけだが、元々は堂大寺会長もこちらの女性陣の水着姿を見ようとしていたわけだからお互い様だと言える。

 同情の余地無しか。


「ミッキーに連絡を取ってみたところ『覚えてやがったかクソが!』という連絡が来たので、快くやってもらえるみたいだね」


「快くとは一体」


「場所はどこでやるんですか?」


「ウチの学校だよ」


「じゃあ堂大寺会長達はここで女装になるってことですよね? まさか外から女装なんてしてたら学校に来る前に警察署ですよ」


 5人組の女装高校生が歩いてるなんて近所でも噂になってしまう。

 いくらなんでもそれは彼らが可哀想すぎるだろ。


「もちろん、ここに来てから着替えてもらうつもりだよ。さすがに私もそこまで鬼じゃない」


 良かった。

 神奈月先輩といえど最低限の常識を持ち合わせていたみたいだ。


「でもできれば下着も着けてもらいたい」


 やっぱ鬼だわこの人。


「でも誰の服を着るつもりですかね」


「まさか…………私は貸しませんよ未来さん」


 前橋が全力で嫌そうな顔をした。

 女子なら当然予備の制服は持っているわけだが、それを他校の良く知らない生徒に貸すというのは抵抗が強いんだろう。

 そもそも前橋の制服の大きさに入る男子ってあんまりいないんじゃないか?


「なんだいキイは冷たいね。減るもんじゃないだろうに」


「男子に貸すような制服の余りはないので」


「じゃあそれを着るのがシュートだとしたら?」


「なんで!?」


 急に矛先がこっち向いてきたんだが!?

 漆間大附属の罰ゲームって話なのになんで俺が女装する話になるんだよ!


「高坂なら………………まぁ」


「着ねーよ!? 何で俺なら貸すのもやぶさかではないみたいな反応するんだよ!!」


「べ、べべ別に見たいとかそういうのではないけど…………」


「はいはい! 修斗が着るなら全然私も貸します!」


「おい!」


 乗っかるようにして梨音がシュバッてきた。

 一発殴っても許されるよなこれ。


「これはシュートも女装する流れ……!?」


「しませんが!? 俺女装するために生徒会入ったわけじゃないんですけど!!」


 ポンと肩に手を置かれた。

 見ると大鳥先輩が「僕の気持ちが分かったかい」という表情でうんうんと頷いていた。

 分かってたまるか!


「え〜っとぉ…………じゃあ私も高坂君に制服を貸す流れにすればいいのかなぁ」


 そう言っておもむろに新波先輩がワイシャツのボタンを外し始めた。

 え、というかなんでこの人今ここで脱ぎ始めてんの?

 マジで? いいんですか?


「新波先輩!?」


「ちょっと新波先輩何してるんですか!?」


 慌てて前橋と梨音が止めに入る。


「なにって……高坂君に制服を貸すのよね〜? あ、ワイシャツは一緒だもんね。貸すならスカートだけでいいんだ」


 そう言って今度はスカートのホックに手をかけた。


「きゃー! ダメですって新波先輩! ちょっと修斗なにジロジロ見てんの!!」


「そりゃ見るでしょ」


「高坂……最低」


 うぐっ……!

 女子の率直な蔑むような目線が心にダメージを……!


「あっはっは。ニーナはもう少し常識を身に付けた方がいいかもしれないね」


「どの口が……!?」


 ビックリした神奈月先輩の口から常識なんて言葉が出てくると思わなかった。


『ティロン♪』


 わちゃわちゃと揉めている中、俺の携帯に通知が届いた。

 連絡をしてきたのは漆間大附属の生徒会庶務をやっている山田からだった。

 前のフットサルの時に連絡先を交換していたのだが、連絡が来るのは初めてだった。

 中を開いて内容を確認すると『会長から女装指示が来たんだが。ウチの生徒会終わったわ』と書いてあった。

 俺は一言『俺も』と返信した。

 なんだか山田と凄い仲良くなれた気がする。

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