代表選抜④

「修斗ー!」


「おっ」


 試合を終えた俺の元に弥守みもりがやってきた。


「どうだった? 試合は」


「かっっっこよかった!! 修斗が一番目立ってたよ!!」


「試合内容を聞いたんだけどな……。でもサッカーが面白いって分かってくれたろ?」


「ええ! 凄く好きになったわ!!」


 よしよし、これでまた一人サッカー信者が増えたわけだ。

 こうやってサッカー人口を増やしていくのが選手としての務め───。


「よぉ修斗! 何をまた女の子口説いてねん」


 ちっ、うるさい奴が来たな。


「弥守ちゃん言うんか? 俺、城ヶ崎言います、宜しゅう!」


「気安く話しかけないで」


「風当たりきっつ」


 つ、冷たぁ……。

 何で優夜に対してこんなに冷たいんだ。

 確かにこの馴れ馴れしさ、気持ちは分からんでもないが……ほぼ初対面でそんな強く当たる?


「な、なんやねん。俺、なんかしたか?」


「関西弁が気に食わないんだろきっと。標準語に戻せよ」


「俺のアイデンティティやぞ!」


 涼介が優夜に言った。


「なぁ弥守さん」


「気安く話しかけないで」


「俺もかよ」


 涼介にさえもその態度なのか……。

 俺と最初に話した時はこんな感じじゃなかったんだけどな……。


「弥守、一応俺のチームメイトだからあんまり冷たくしないでやってくれよ」


「うん! 修斗が言うならそうするぅ」


「はぁ!? 何やねんこの扱いの差はよぉ!」


「きっと、先制点を決めきれなかったお前が悪いんだ」


「何でやねん! そのあと2点決めたやないか!」


「何事も2番じゃダメなんだよ1番でなきゃ」


 言い合う涼介と優夜を尻目に、弥守を連れて少しグラウンドから離れた。


「俺はこの後も練習あるからさ、弥守は先に帰ってなよ」


「何日ぐらいドイツにいるの?」


「5日ぐらいかな」


「自由時間は? 遊べる日はある?」


 自由時間……もしかしたら昨日みたいにあるのかもしれないが、そもそも合宿という名目で来ているわけだから、遊ぶ時間なんてものは無い可能性の方が高い。

 それに俺自身も遊びたいわけじゃない。

 せっかくドイツまで来ているんだ、時間があるのなら少しでも練習をしていたい。


「悪いけど弥守と遊んでいる暇は───」


「私のパパ、プロサッカーチームのオーナーやってるよ」


「マジで!?」


「うん。パパに言えば試合見せてもらえるかも」


 なんという棚からぼた餅……!

 ドイツブンデスリーガの試合が間近で見られるとなれば話は別だ。


「…………なんとか監督に話を通してみるから、お父さんに試合を見せてもらえるようにお願いできる?」


「うん!」


 弥守がパァッと笑顔になった。

 弥守のコネを利用しているようで気が引けるが、プロの試合観戦と天秤に掛けたら答えはすぐに出る。

 こんな貴重な機会を逃すことはしない。


「これ、泊まってるホテルと連絡先。携帯は使えないから何かあればここに連絡して。もしくは毎日ここで練習してるはずだからその時でも」


「はーい」


 こうして俺は弥守に連絡先を渡し、それからの5日間毎日弥守はグラウンドに来て俺達の練習を見ていた。

 最終的に涼介や優夜達とも仲良くはなったが、俺と話す時と態度が違うと優夜はブー垂れていた。そんなん知らんわ。

 弥守はお父さんに話を通してくれたみたいで、俺達は全員招待され、ホームの試合を見ることができた。

 弥守のお父さんのチームはあまり有名なところではなかったが、相手がシャルケだったこともあり充分に盛り上がり、貴重な経験を得ることができた。



 そして別れの日。



「じゃあな弥守、色々勉強になったよありがとう」


「私もまた日本に戻るから、その時にまたね!」


「俺は東京Vにいるから。もし日本に戻ったら来てくれよ」


「うん! 絶対!」


 そう約束して俺達は先に日本へと帰国した。

 その数ヶ月後、俺は怪我をして東京Vには行かなくなり、弥守と会うこともこの時以降無かった。

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