生徒会長①

 ピピピ、ピピピ、ピピ───カチッ。


「ふぁ……」


 目覚ましの音で起こされた。

 いつになっても電子音っていうのは不快な音だ。

 嫌でも起こされる。


 昨日はあの後、サッカーをまたやりたいことを話し、梨音とは仲直りをした。

 サッカー部に入りたいというわけではなく、あくまでも無理をしない範疇で、ということだが。

 この怪我とは下手したら生涯付き合っていかなきゃいけなくなるかもしれないんだ。

 あまり無理はできない。


 それでも梨音にとって俺がサッカーを諦めていなかったことの方が嬉しかったみたいだ。

 すぐに機嫌も良くなり、桜川とも仲良くなっていた。


 まったく。

 そんなことで機嫌がコロコロ変わるとか、女子は分からんな。


 ………………まぁでも、梨音は俺のリハビリにほぼ毎日付き合ってもらってたわけだし、サッカーをもう一度始めて欲しかったのかもしれないな……。

 知り合いにプロサッカー選手とかいたら自慢できるもんな。

 じゃないといくら幼馴染だからって、そんな毎日面倒見たりしないだろ普通。


 …………いやホント、何でアイツはあんなに俺の面倒見てくれてたんだろうな……。


 あー!! なんかイガイガしてきた!

 考えたって分かるかよめんどくせぇ!


「修斗起きたー?」


「うわあ! ノックぐらいしろよ!」


 いきなり部屋の扉が開き、制服姿にエプロンの梨音が入ってきた。

 この前の意趣返しのつもりか!?


「そんな思春期の男子じゃないんだから」


「絶賛思春期真っ盛りだっつーの!」


「同年代の女の子に起こしてもらえるなんて幸せじゃん」


「じゃあ今度同年代の男子が梨音を起こしに行くからな」


「……剥ぐよ」


「何を!?」


 爪!? 皮!? 

 なんにしても怖えよ!


「とにかくご飯もうすぐでできるから、早く支度してよ」


「はいはい」


 梨音が部屋から出て行った。


 あまり待たせるとせっかく直った機嫌がまた悪くなりそうだ。

 俺は早々に支度を済ませ、梨音と一緒に朝ごはんを食べた。



 学校へ着くと新之助が既に席におり、俺を見かけるとニヤニヤしながらしながら俺に近づいてきた。


「聞いたぜ修斗。昨日、グラウンドのところで若元と桜川と揉めてたらしいじゃん」


 何で知ってるんだこいつ。

 そういう下世話な話に聞き耳立てるの得意かよ。


「ニノがちょうど見てたんだってよ」


 犯人はニノか。


「あれか? 拗らせた三角関係か?」


「お前が思ってるようなことは何もねーよ。むしろ、今日から桜川は俺のところには来なくなるはずだぜ」


「え? マジかよ」


「おう。勧誘しても無駄だって理由を直接話したしな。それに、桜川と梨音とも関係は良好さ」


「ふーん。でもよ、アレ見てみ」


 新之助が教室の入り口のところを指差していた。

 そこを見ると桜川がオロオロしながら俺を呼ぼうか呼ぶまいか悩んでいるみたいだった。


「来てんのかい……」


「いやこれきっとアレだぜ……。あまりにも修斗を引き入れた過ぎて、桜川が生き霊としてこの教室に───」


「そんなホラー展開は嫌だ。ちょっと行ってくら」


「大丈夫か? おふだとかいらないか?」


「お前の頭にでも貼っとけよ」


「そうそうそう、このお札を額に貼って───って誰がキョンシーやねん!」


 新之助のクソつまんないノリツッコミは無視して俺は桜川のところに向かった。

 桜川は俺が近付いてくるのを見て、安心したように頬を緩ませた。


「ご、ごめんね高坂っち」


「構わないけど、どうした? サッカー部には知っての通りの事情だから無理だぞ」


「あ、いや、そういうことじゃないんだけど…………」


 少し恥ずかしそうにモジモジと要領を得ない桜川。

 散々他クラスに来ておいて、今さらアウェー感を感じてるってわけないよな?


「なに?」


「そ、その…………勧誘とかじゃなくて、普通に高坂っちのところに遊びに来てもいいかな? ほら、せっかく知り合ったわけだし、昔から高坂っちのファン……じゃなくて! 別に高坂っちとは勧誘目的とかじゃなくても遊びたいと思ってるし…………その……友達として」


 なるほど。

 そりゃそうか。

 今までは勧誘って名目で俺のところに来てたけど、それが無くなったからといって友達の関係が無くなるわけじゃないもんな。

 むしろ、他クラスの女子とも仲良くしてもらえるのはありがたい。

 友達100人できるかなじゃないけど、色んな人達と知り合いたいもんな。


「全然当たり前だろそんなの。むしろ俺から頼みたいぐらいだよ」


「ホ、ホント!?」


「本当本当。梨音とかともせっかく仲良くなったんだからさ、いつでも来いよ」


「あ……う、うん! ありがとう!」


「わざわざそんな事言いにきたのか?」


「そんな事って、私にとっては勇気のいることだったんだよ!」


「あはは。何をいまさらって感じだな」


「うう……そんな笑わなくてもいいじゃん!」


「あーはっはっはっは!!」


「そんな爆笑する!?」


「ウソウソ。変な気とか使う必要もないからな。怪我だって軽く走ったりはできるぐらいに回復してるし。あっと、チャイム鳴ったな」


「うん。じゃあ私も自分のクラスに戻るね」


「はいよ」


「じゃーねー!」


 来た時とは打って変わって、良い笑顔で桜川は自分のクラスへと戻っていった。

 相変わらず爽やかだ。

 俺もアレぐらい爽やかだったらもうちょっと友達増えるかな。

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