死霊令嬢

マキシム

前編

昔々、イルベル王国のミリー・アルポネ公爵令嬢が婚約者のキース・インベル王太子殿下に殺された。キースは想い人であるシャロン・ミリアン子爵令嬢と結ばれるためにミリーに濡れ衣を着せ、処刑したのである。王太子の父親である国王は兼ねてからアルポネ公爵家の領地の豊富な砂鉄を欲していたため、領地を没収、ミリーの両親を幽閉及び毒殺したのである。令嬢と令嬢一家の処断に反対する家臣たちは一家もろとも処刑された


【キース・インベル】

「これで僕と君を邪魔する者がいなくなったよ。」


【シャロン・ミリアン】

「えぇ、私は幸せですわ。」


その後、キースとシャロンは結ばれ、国王も息子を罰せず婚約を認めたのである。その2人の様子を見ていた黒い影・・・・


ユルサナイ・・・・


令嬢が処刑されてから20日後、国王が常軌を逸した振る舞いをし始めた。国王は宮殿の造営のために多額の税を投資したのである。家臣たちは反対したが、国王は無視し、宮殿の造営に着手したのである。宮殿造営のための国王が行ったのは、重税である


今までは4公6民だった税が、8公2民になったのである。家臣たちは重税を行えば、民たちが困窮すると諫言したが、国王は断行したのである。国民たちは突然の重税に困惑し、反対したが国王は見せしめのために死刑の上、財産没収の刑に処したのである。キースも父である国王の異変に気づき、諌めたが聞き入れてもらえず、国王は悪政を敷いたのである


歳月が立ち、宮殿の造営が一段落したところで、国王は突然死したのである。召使が起こしに来たところ、国王は白目を剥いて、口を大きく開きながら死んだのだという。その死に様はあまりにも無惨だったという


チチトハハノカタキダ・・・・


その後、キースは急遽、国王に即位した。そして先王が行った重税を取り止め、減税に努めた。シャロンは王妃になったが、王妃教育も満足もできていない状態で王妃になったため、重責に耐えきれず、体調を崩してしまった。キースは度々、見舞いに訪れたが、シャロンの体調は回復せず、日に日に痩せ細るばかりであった。キースはかつての想い人の醜くなっていく姿に興ざめし側妃を迎えるようになった


【シャロン・ミリアン】

「へ、陛下、な、なぜ。」


それを知ったシャロンはショックのあまり、寝込み、そして突然死したのである。その死に方は先王と同じ白目を剥いて口を大きく開きながら死んでいたという


ザマァミロ・・・・


キースは先王と王妃の突然死に違和感を覚え、国で評判の占い師に占ってもらった


【占い師】

「先王・王妃両陛下の相次ぐ死は先に処刑した陛下の元婚約者であるミリー・アルポネ様の呪いにございます。」


呪いと聞いたキースは背筋が寒くなった。シャロンと幸せになるために濡れ衣を着せて、処刑したのだから・・・・


キースはどうすればいいのか、聞いてみたが占い師の返ってきた言葉は・・・・


【占い師】

「畏れながら、それは無理です。呪いは思いのほか、強く対処ができません。」


キースは激怒し、占い師を処刑しようとしたが、家臣たちに止められ、国外追放の刑に処したのである。国外追放を受けた占い師は国境から追い出され、城のある方向を向いた


【占い師】

「あぁ、令嬢の死霊が笑ってる、もはや止められぬか。」


そのころ、キースはムシャクシャした気持ちを発散すべく寵愛する側妃と閨を共にした。翌朝、キースは目覚め、側妃を見ると、背筋がぞっとした。側妃は先王と王妃と同じように白目を剥き、口を開いた状態で冷たくなっていたのだ。その姿をみたキースは・・・・


【キース・インベル】

「私は悪くない、私は悪くない。」


キースは自分がやった悪行がそのまま返ってきた事を認めずにいた。その後、側妃の葬儀が行われた。家臣たちの間では、キースが元婚約者であるミリー・アルポネに濡れ衣を着せて処刑した事をミリーが怨んでいるのではないかと囁かれるようになり、キースは正直、居心地が悪かった


その後、更なる災難が起こった。王国中に飢饉や旱魃が起こったのである。キースは食糧庫を開放し、食うに困っている国民たちに食糧を配ったが、数が多すぎて、分配できず飢え死にする国民が続出したのである。キースは国民たちに荒地の開拓、土木工事に従事することに金を出し何とか乗り切ることができたのである。しかし一難去ってまた一難、今度は王国中に疫病が蔓延したのである


【キース・インベル】

「どうすることもできん!」


疫病が身分を問わずに王族・貴族・国民に襲い掛かった。国王の身内が続々と疫病で亡くなり、貴族たちも半数が亡くなったのである。国民たちも疫病によって総人口200万人のうち、50万人の死者を出したのである。万人はこの疫病を処刑された令嬢の祟りと噂するようになった


【キース・インベル】

「私は悪くない、私は悪くない!」


キースの心はどんどん荒んでいき、後宮に引きこもる事が多くなった。キースは世俗の煩わしさに嫌気が差し、世嗣ぎを作ることを名目に側妃と女官たちと交わり続けたが、いくら励んでも子供ができず、キースはやきもきしてしまった。そんな中でも令嬢の祟りが後宮内にも広がり、子供ができないのは祟りのせいではないかと噂された


【キース・インベル】

「お前たちは、私の子供を宿す気がないのか!ないなら他を探す!」


キースは後宮でも居心地が悪くなり、離宮に引きこもるようになった。この離宮でキースは贅沢三昧な暮らしをするようになり、朝議には一切参加しなくなった。これを危惧した家臣たちは、キースの従兄弟である大公のアルソナ・インベルに相談を持ちかけた。アルソナも兼ねてからキースの不行状を非常に危惧しており、家臣たちと計り、ついにクーデターを起こしたのである。キース率いる家臣たちは離宮に乗り込み、寝ているキースの捕縛に成功した。キースが目覚めると縄で縛られ、従兄弟のアルソナと家臣たちが自分を睨み付けていた


【キース・インベル】

「アルソナ、お前なぜこんなことを!」


【アルソナ・インベル】

「決まっている、国の災いとなる暗君を捕縛したまでだ。キース・インベル、覚悟しろ。」


キースは今、自分が置かれている状況を悟り・・・・


【キース・インベル】

「まさか、私を殺すのか!頼む、殺さないでくれ!国王の座を明け渡すから!この通りだ!」


キースの必死に命乞いする姿にアルソナと家臣たちははじめは死刑にしようと思ったが興ざめし、平民に降格・国外追放の刑に処したのである。キースは素直に受け入れ、国境へと運ばれたのである。その途中で国民たちから罵詈雑言と石をぶつけられながら運ばれるのであった


【キース・インベル】

「うう、くやしいのぅ。」


キースは金と食糧と水を渡され、国境に着いた途端に平民になった。その後、キースはひたすら歩いた。途中で雨が降り、キースは雨宿りをするべく、建物を探した。数分後に屋根付きの小屋を見つけ、キースは雨宿りすることにした。小屋に入ると、囲炉裏以外、何もなく殺風景な室内だったが、どうやら先客がいたようだ。先客は顔と体を隠すほどの大きな羽織を着たまま、囲炉裏に座っていた


【キース・インベル】

「すまないが雨宿りさせてもらえないだろうか?」


【先客】

「・・・・いいですよ。」


【キース・インベル】

「そうか、失礼する。」


どうやら先客が女だと分かり、キースは安心した。キースはとりあえず囲炉裏の前に座り、暖をとった。キースは羽織を着ている女に質問をした


【キース・インベル】

「羽織は脱がないのか?」


キースは尋ねるが、女は返事をしなかった。キースは内心、いらっとしたが、今は目の前の囲炉裏で体を温めることに専念した。そこからは静寂な時間が流れた


【先客】

「貴方様はどこから来られたのですか?」


【キース・インベル】

「インベル王国から来たんだ。」


突然、女が話しかけた、それに対しキースは自分の生まれ故郷を話した


【先客】

「奇遇ですね、実は私も生まれはインベル王国なのですよ。」


【キース・インベル】

「そうなのか。」


キースは自分の正体を悟らせないように、話を聞いた。女はインベル王国の生まれだが、両親を早くに亡くし、他国にいる身内の下で暮らしたという。インベル王国へ向かい、両親の墓参りをするべく来たのだという


【キース・インベル】

「そうか、亡き両親も草葉の陰で喜んでいような。」


【先客】

「いいえ、喜んでいません。」


【キース・インベル】

「なぜだ?」


【先客】

「両親は無実の罪を着せられて処刑されました。」


【キース・インベル】

「そ、そうか。」


キースは聞いてはいけないことを聞いたと後悔したが、女は喋り続けた


【先客】

「この国の王様が両親の持つ砂鉄に御執心で、私の両親に濡れ衣を着せて、奪い取ったのです。」


キースは女の話を聞くと、違和感を覚えた。そう、かつて先王が元婚約者であるミリーの実家の公爵家の領地で取れる砂鉄を狙い、婚約破棄がきっかけで召し上げたのだから・・・・


【キース・インベル】

「そ、そうなのか・・・・1つ聞きたいことがある、そなたの名前は何だ?」


キースは恐る恐る尋ねると女は立ちあがり、羽織を脱いだ


【キース・インベル】

「ヒイイイイイ!」


キースが後ろへ仰け反った


【ミリー・アルポネ】

「ミリー・アルポネと申します。」


そう、目の前にいたのはかつて自分が無実の罪を着せ、処刑した元婚約者だったからだ。しかし身体中、血塗れで髪は乱れきっていた


【キース・インベル】

「み、み、ミリー!」


【ミリー・アルポネ】

「お懐かしや、キース様。」


ミリーは微笑み、キースを睨み付けた


【ミリー・アルポネ】

「怨めしい、キース様、この時をどれほど待ちわびたか。先王、シャロン嬢、そしてキース様、貴方のお命もらい受けます。」


【キース・インベル】

「ヒイイイイイ!」


キースは必死で足を動かしながら、命からがら小屋を脱出し、あちらこちらさまようのであった


【ミリー・アルポネ】

「逃がしませんよ、アハハハハハハハハ!」


雨の音とともに、ミリーの高笑いが響くのであった

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