第98話:森の中へ
村長の屋敷を後にした俺たちが向かったのは、バージルの鍛冶屋だった。
彼女も何が起きたのかを他の村人から聞いていたようで、俺たちが来る事を予想していたのか姿を見つけるとすぐに駆け寄って来た。
「みんな!」
「バージル! 帰ってきてすぐで悪いが、防具を作ってくれないか? 俺とエリカの分だ!」
「任せて! 師匠も手伝ってくれるんですか?」
「当然じゃろうが! 最高の防具を作ってやるわい!」
「頼みます! リムルはヒロさんから革製品の防具だから、こっちの準備が終わったらすぐによろず屋に向かおう。その時にはヒロさんも戻っているはずだからな」
デンの事はもちろん心配だが、焦ってみんなを危険に晒すわけにはいかない。最善の準備をしてから向かうべきだ。
「ルシウスさんから魔法袋を貰ってるから……あぁ、そうだ。それと、時間があれば予備の剣もお願いしたい」
「どうだろう……今ある剣で良ければ渡せるけど、それでもいいかな?」
「もちろんだ。何もなければ返すから」
「何を言っておるか!」
バージルとのやり取りを聞いていたハルクさんが大声を張り上げた。
「儂に任せておけ! そこらに転がっている剣よりも良いものを打ってやるわい!」
「……大丈夫なんですか?」
「時間がある限り打ち続けてやるわ! 昔は何十時間も耐久で打ち続けた事もあったからのう!」
「うえぇっ!? ……マジですか、師匠?」
「がはははっ! だいぶ昔じゃがな! 鍛錬を積むにはもってこいじゃからのう! だから安心せい、レインズ」
ドンと胸を叩きニヤリと笑ったハルクさんを見て、俺は不思議と安心感に包まれた。
この人ならやってくれると、本能で理解してしまったのだ。
「……分かりました。よろしくお願いします」
「任せておけ! ただし、帰ってくる時にはちゃんと素材も持ち帰るんじゃぞ? その魔法袋でな!」
最後の言葉に俺は苦笑を浮かべると、魔法袋を軽く持ち上げてポンと叩いた。
「もちろんです。魔獣素材を大量に仕入れてきますよ」
「がはははっ! 楽しみにしているぞ! それではやるぞ、バージル!」
「はい、師匠!」
俺とエリカはすぐに採寸を済ませると、夜にもう一度立ち寄る事を約束してヒロさんのよろず屋へと向かう。
すでにヒロさんは戻ってきており、リムルにあった革製品を見繕ってくれていた。
「お待たせしました、ヒロさん!」
「用意はできています。リムル君、あっちでこれらの洋服を着てもらっても良いですか?」
「は、はい!」
用意されていた洋服を手に取ったリムルが奥の部屋に移動する。
しばらくして洋服を身に付けたリムルが戻ってくると、サイズもピッタリで動きやすそうに見える。
「どうでしょうか、リムル君?」
「問題ありません! とても動きやすいです!」
「それは良かった。丈夫な魔獣の革を使った洋服なので、森歩きにはもってこいですよ」
「支払いは持ち込んだ魔獣素材でいいですか? それとも現金で?」
「魔獣素材でお願いします。その方がさらに高く売れますからね」
ハルクさんとは違い柔和な笑みを浮かべるヒロさん。
だが、口にしている事はさすが商人といった感じで奥が深い。
「必ずデン君を助け出して、無事に戻ってきてくださいね」
「もちろんです。みんなで無事に帰ってきます」
「ヒロさん! この洋服、ありがとうございました!」
その後、俺たちは村の中を走り回り準備を行い、最後にバージルの鍛冶屋に戻って防具を確認した。
「この場にある最高の素材で作ったわよ!」
「これから予備の剣を打っていくから、出発前に渡してやるわい!」
バージルは大量の汗を額に浮かべながらやり切った顔を浮かべているが、ハルクさんは早速鎚を片手に予備の剣を打ち始めた。
「絶対に帰ってくるのよ!」
「せっかく移住したんじゃ、お主らがいなくなるんじゃないぞ!」
「二人とも、ありがとう!」
「絶対に戻ってくるね!」
夜も深くなり、この日はゆっくりと休む事にした。
デンがおらず、森に魔獣がいなくなっている以外は何も起きていない謎の現象に不安がないわけではない。
それでも長旅から戻ってきて疲れが溜まったまま向かうのは自殺行為だと判断したのだ。
「……無事でいてくれよ、デン」
俺はデンが生きていると言い聞かせながら、焦る気持ちを抑えて眠りについたのだった。
◆◇◆◇
そして、翌日。
俺は気力十分な状態で門の前にやって来た。
そこにはエリカとリムルもすでに来ており、誰が来るのか聞いていなかったが姿を見た限り今回はガジルさんが一緒に来るようだ。
他にもバージルはハルクさん、ヒロさんに村長夫妻、他にも多くの人たちが見送りに来てくれている。
「準備はいいか?」
「もちろんです!」
「久しぶりにレインズとの魔獣狩りだな!」
「わ、私も大丈夫です!」
お互いに顔を見合わせて大きく頷くと、俺たちは村長たちの方を向く。
「それじゃあ、行ってきます」
「必ず無事に戻ってくるんじゃぞ」
「はい!」
最後に俺はスノウを頭の上から抱き上げると、バージルに手渡そうとする。
馬車の中で一緒だったのだから慣れているだろうと思ったのだ。しかし――
「ビギャー! ビギャギャー!」
「スノウ! お前はまだ雛だから危険なところに連れて行けないんだ」
「ビギャギャー!」
俺の手から離れまいと腕に爪を立ててくるスノウ。
そこまで鋭くないのでくすぐったい程度だが、ここまで抵抗されると気が引けてしまう。
「……レインズ殿。そのドラゴンの雛は連れて行った方がいいかもしれませんぞ?」
「え? そうなんですか、村長?」
嫌がるスノウを見かねて……という感じもなく、何やら確信めいた感じで口にしている。
「ドラゴンというのは利口でもありますが、親と認めた者のために何かできると感じているならついていこうとするものなのです」
「という事は、森の奥で俺のためにできる事がスノウにはあるって事ですか?」
「その通りです。それに、そのドラゴンはこの森に生まれ落ちた存在です。であれば、可能性は高いかと」
スノウを危険な目に遭わせたくはないが、無理やり村に置いていくのも違う気がする。
それに、村長の言葉を信じるならばスノウを連れて行くのが正解な気がするのも確かだ。
「……絶対に危ない事はしないと約束できるか?」
「ピキャ!」
「……絶対だぞ?」
「ピキャピキャ!」
「…………はぁ。分かった、一緒に行こう」
「ピキャ! ピッキャキャー!!」
翼をパタパタと動かして嬉しさを露にすると、上を指差してきたので最初と同様に俺の頭に乗せた。
「……これは、気合いを入れ直さないといけないな」
「デンを助けて、みんなで帰って来ましょう!」
「レインズは自分のやるべき事をやってくださいね!」
「俺たちの事は気にするんじゃないぞ!」
「ピキャキャー!」
こうして俺たちは、四人と一匹というメンバーで森の中へと足を踏み入れたのだった。
第二章 終わり
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