第90話:緊急依頼の報告
冒険者ギルドに戻ってきた俺たちは、残っていた冒険者や先に戻っていた冒険者から大喝采を浴びた。
中にはFランクの俺が手柄を奪ったと見た者もいるかもしれないが、少なくとも俺の目にはそういった輩は見当たらない。
冒険者というのは存外に素晴らしい性格の持ち主が多く、ザックのような人間の方が少ないのかもしれない。
「よくやってくれたな、レインズ! レミーにエリカも!」
真っ先に声を掛けてきたのはギルマスで、その後ろにはしっかりとギースが付いて来ていた。
「師匠!」
「ギース! あぁ、無事だったのね!」
「俺はずっとシュティナーザの中にいましたから」
「生き残れただけでも最高だね!」
ギースの姿にエリカが安堵し、レミーは肩を組んで力一杯に笑っていた。
「それで、レインズ。ラコスタの首は取ってきているのか?」
「あぁ。ここに出してもいいのか?」
「構わん! おぉい、てめぇら! レインズがラコスタの首を持ってきたぞ! 見たい奴は集まりやがれ!」
「「「「おおおおぉぉっ!」」」」
建物の中だというのに冒険者たちは武器を掲げて大声をあげた。
その声で建物が震えているのだが、これは緊急依頼が発令された時よりも揺れているのではないだろうか。
「それじゃあ、出しますよ!」
俺がヒロさんから預かっていた魔法袋からラコスタの首を取り出すと、さらに大きな声で歓声があがる。
そろそろ建物が壊れるんじゃないかと心配になってしまうが、荒くれ者が多い冒険者が集まる建物なのだからそんな柔ではないかと思いたい。
それにしても不思議なものだ。荒くれ者が多いと言っておきながら、素晴らしい性格を持っている者もいると思っている。
矛盾しているように聞こえるが、感じ方は人それぞれなのだから仕方がない。
「他にも魔獣を入れてきてるんですが、どうしますか?」
「いや、それはひとまずそのままにしておいてくれ。……これ以上こいつらが暴れると、さすがに建物が壊れかねん」
どうやらギルマスも同じ心配をしていたようだ。というか壊れるかもしれないのか、この建物は。
「それにしても、まさか本当に討伐してくるとはなぁ」
「信じてなかったんですか?」
「いいや、信じていたさ。だが、追い払ってくれたらありがたいなって感じで思っていたんだが、首を取ってきやがった」
「……え? もしかして、追い払うだけでもよかったんですか?」
予想外の言葉に思わず問い返してしまったが、ギルマスは大きく笑いながら俺の肩を叩いてきた。
「ガハハハハッ! んなわけあるか! 討伐してくれて最高に感謝してるぜ! さすがはキラースキル持ちって事かね?」
そう口にしたギルマスだったが、俺は曖昧に笑う事しかできなかった。
確かにギルマスの言う通りだろう。魔獣キラーのスキルがなければラコスタを討伐する事はもちろん、追い払う事もできなかっただろう。
だが、全てを魔獣キラーのおかげだと言われるのは気に入らない。
……こういう気持ちになるから、ジーラギ国ではキラースキルを敬遠していたのかもしれないな。
「おいおい、ギルマス! んなわけないじゃないか!」
「そうですよ! 魔獣キラーの効果もあると思いますけど、やっぱりレインズの実力と度胸が勝ったからですよ!」
俺の気持ちを察してなのかは分からないが、レミーとエリカが心外だと言わんばかりにギルマスへ詰め寄っていく。
その姿を見た俺は苦笑を浮かべているものの、内心ではとても嬉しく思っていた。
「あぁん? そんなもんは当然だろうが! いくらキラースキルを持っているからと言って、魔獣と戦えるかどうかはそいつ次第だからな! そんな当たり前の事は言わんでも分かるだろう?」
「そう聞こえない奴だっているって事だよ!」
「そうですね、レミーさん!」
「いったい何なんだ? なあ、レインズよ?」
「あー……まあ、俺は嬉しかったですよ」
「そうなのか? ……お前もよく分からん奴だな」
ギルマスも悪気があって口にしたわけではないのだ。だから俺もこれ以上は何も言わなかった。
だが、後で二人にはお礼を伝えておこうかな。その方が良い気もするし。
「よーし! てめぇら! すぐに報酬が欲しい奴はあっちに並んでちょっと待ってろ! 後でも構わねえ奴はそっちだ! ギルドカードを提示してくれればこっちで全部やっておくから後で取りに来い! いいな!」
「「「「おおおおぉぉっ!」」」」
俺たちは急ぎでもないので後から報酬を受け取る事にした。
それにヒロさんやハグロアさんにも詳細を報告しなければならない。
「それにしてもあれだなぁ。ジーラギ国から流れてきたとはいえ、面倒な魔獣が姿を現すようになってきたもんだ」
「……え?」
「ん? 言わなかったか? ラコスタは元々この大陸に生息していない魔獣だ。流れてくるとすれば、今の状況だとジーラギ国しかないだろうな」
最後の最後で衝撃的な事実を知ってしまった。ジーラギ国、大丈夫なんだろうか。
「……それじゃあ、俺たちは行きますね」
「おう! 今回は本当に助かったぜ、ありがとな!」
……はぁ、疲れた。ヒロさんの護衛なのだが、まさかシュティナーザを守る事になるとは思わなかったぞ。
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