第67話:冒険者ギルドのギルドマスター
ヒロさんもSSSランク素材の貴重性を理解しており俺の耳元で話してくれたのだが、話の流れを理解していたのかレミーがポンと肩を叩いてきた。
「……どうしたんだ、レミー?」
「ギルマスとの話し合い、あたいも交ぜてくれるかい?」
「レミーが一緒でも何も変わらないんじゃないか?」
「いいや、そうでもないよ」
俺は肩を竦めながらそう口にしたのだが、何故かレミーは自信満々だ。
横目でヒロさんを見ると、レミーの態度に何かを感じたのか一つ頷いた。
「……わかった。レミーがいる事で何か変わるなら、頼むよ」
「これでもギルマスとは顔見知りでね。力になれるはずさ」
そうこうしていると、階段から黒髪を刈り上げた筋骨隆々の男性がこちらを見据えながら下りてきた。
「よう! ギルマス!」
「……なんでてめえがいるんだよ、レミー?」
「レインズとはちょっとした顔見知りでね。交渉に色を付けられないかと思ってさ」
「おいおい、ヒロさん。面倒な奴を連れて来ないでくれよ」
「ふふふ、私が連れてきたわけではありませんよ」
「って事は、レミーの言っていた通りこいつか……誰だ?」
「レインズです。ウラナワ村で世話になっています」
ギルドマスターって事は、ここのトップって事で間違いないはず。
レミーからは敬語は止めろと言われたが、とりあえずは丁寧に対応しておこう。
「おうおう、了解だ。そんじゃあ、交渉に入るぞ」
「楽しみだねぇ~」
「……なんでレミーまで入ってくるんだ?」
「興味があってね」
「……ヒロさん」
「私じゃないですよ?」
「……レインズとやら?」
「俺は何も言ってないぞ」
「無言は肯定ってか? ったく、先が思いやられるぞ」
俺とレミーのやり取りをすぐに読み取り、ギルドマスターは頭をガシガシと掻きながら奥の部屋へ入っていく。
今回はレミーも入るという事で、俺もついていくことにした。
中には豪奢な家具や敷物があり、まるで貴族や高官が利用する様な場所になっている。
こんなところで交渉をしていたのかと、俺は改めてヒロさんの立場を考えさせられた。
「それで、SSSランク素材ってのはどれなんだ?」
「こちらです」
椅子に座るや否や本題に入ったギルドマスターの言葉に従いヒロさんが
素材が姿を現した途端、ギルドマスターとレミーが唾を飲み込む音が聞こえてきた。
「……おいおい、こりゃあ確かに、SSSランク素材じゃねえか!」
「……はは……こんなもんで武器を作ったら、あたいでもSランク以上を目指せそうだよ」
「これは、こちらにいるレインズ君が討伐してくれました」
「お前がか!」
「レインズ、マジなのかい!」
SSSランク素材を見つめていた二人の視線が俺に集まる。
まあ、隠す事でもないし、レミーには俺のスキルは知られているからな。
「はい。まあ、倒すまでには色々とありましたけどね」
そこで俺はウラナワ村の森で起きた出来事を説明した。
魔獣の進化、群れの討伐、目の前で起きた更なる進化とSSSランク魔獣との対峙。
どれもこれも驚きの連続だったのだろう、二人は口を開けたまま固まって話を聞いていた。
それでも途中で質問でも入ると思っていたのだが、それもなく最後まで話し切ってしまった。
「――以上が、ウラナワ村の森で起きた出来事です」
「……なあ、ヒロさんよ」
「何ですか、ルックナー騎士爵様?」
「いや、そこでわざわざ貴族を主張しないでくれ。俺はルシウスと同じで一代貴族なんだからよ。って、そんな事はどうでもいいんだよ!」
なんと、ギルドマスターも貴族様だったのか。
「人をからかわないでくれ」
「ふふふ。ハグロアは冒険者としてSランクまで到達し、様々な功績をあげた事から一代貴族として陛下に認められたお方なんですよ」
「とはいえ、ここのギルマスに収まって今じゃあ椅子の上で書類仕事しかしてねえがな。って、だからそんな事はいいんだって! ウラナワ村、無事だったのか?」
自分の事よりも村の事が心配だったのか。ハグロアさんは見た目こそ厳ついが、いい人なのかもしれないな。
「えぇ。幸いにもレインズ君がいてくれましたし、彼の従魔もいましたからね。被害なく、乗り越える事ができましたよ」
「そうか、よかったぜ。俺を呼びに来た奴の話だと、Sランク魔獣の素材もあるって話だし、レインズがいなかったらヤバかったんじゃねえか?」
「そうですね。ウラナワ村だけではなく、周辺の村々も滅ぼされていたかもしれません」
腕を組みながら天井を見上げたハグロアさんは、膝をパンと叩くと突然立ち上がり、俺に頭を下げてきた。
「助かったぜ、レインズ!」
「えぇっ!? いや、頭を上げてください!」
「いいや、礼をするべき内容だ! ウラナワ村やその周辺の村々はシュティナーザ支部の管轄でもあるからな。お前がいなかったら、俺の首が飛ぶところだったぜ」
「管轄なんてあるんですか?」
「まあな。冒険者ギルドの各支部が統括している地区ってもんがある。……まあ、説明すると面倒だから、今は交渉を始めるか」
「よろしくお願いしますね、ハグロア」
「おうよ! レミーがいなくても、最大限に色を付けさせてもらうぜ!」
こうしてヒロさんとハグロアさんの、素材買取に関する交渉が始まった。
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