第65話:冒険者ギルド

 到着した冒険者ギルドはバルスタッド商会程ではないが二階建ての石造り、大きくも頑丈な造りをした建物だ。

 ……ちょっと待て、冒険者ギルドってのは一商会よりも大きな組織だと思っていたんだが、それよりも大きい建物で商売をしているバルスタッド商会ってヤバくないか?

 俺のそんな気持ちなど知る由もなく、ヒロさんは慣れた様子で冒険者ギルドへ入っていく。


「私たちも行きましょう、レインズ!」

「お、俺は……」

「ギースとエリカはバージルと一緒に馬車を見ていてくれ」

「……はい」

「えっ! わ、私も行きたいんですけど!」

「お前の仕事は護衛だろう。エリカが行くなら俺が残るが、どうする?」


 俺たちの仕事は護衛であり、護衛対象はヒロさんとバージルの二人。

 一人が残るなら俺とエリカのどちらかは残らなければならないのは当然だろう。


「……私が残りますよ!」

「あぁ、頼む」


 バージルに視線を向けながらそう言っていたが、護衛対象の動きを観察するのは大事な事だ。


「ギースも頼むな」

「……少しくらい中を見るのもダメかな?」

「……はぁ。まあ、お前は護衛対象ではないからいいのか?」

「ギース君! 卑怯だよ!」

「うえぇっ!?」

「というわけで、ギースも残っておけ。しばらくはシュティナーザに滞在するんだから、顔を出す機会もあるだろう」


 落ち込むギースの肩を軽く叩くと、俺は場所を下りてヒロさんを追い掛ける。

 中に入ると老若男女、多くの人が建物内を行き交っていた。

 剣を腰に下げた者や屈強な肉体を晒している者、見た目で魔法師だと分かる者など、様々な衣装の者がいる。


「……凄い人だかりですね」

「これが普段の冒険者ギルドですよ。買取の窓口は一番奥ですから、壁際から向かいましょう」


 よく見てみると、人だかりができているのは受付の前の方で壁際は比較的空いている。

 この人だかりの中に迷うことなく入っていくヒロさんを見ていると、足が悪いという事を忘れてしまいそうになる。

 長い付き合いなんだろうと思うが、護衛するこちらとしてはハラハラしないわけでもない。


 ――ドンッ。


「おっと」

「大丈夫ですか、ヒロさん?」

「えぇ。すみません、レインズ君」


 そして、予想通りというか、肩が冒険者にぶつかってしまいよろけてしまった。

 周囲に人がいなかったのと、壁際だったこともありすぐに体を支えることができた。

 一方の冒険者は体がぶつかるのが普通なのだろう、特に気にした様子もなく歩き去ってしまう。


「いやはや、いつもの事とはいえ、やはりここは大変ですね」

「一緒に行きましょう。幸い、奥の方は空いているようですし」


 奥に進むにつれて人だかりは少なくなってきている。

 俺はヒロさんの手を取ると、それでも他の冒険者の邪魔にならないよう壁際からゆっくりと歩いていき、時間を掛けて買取の窓口に到着した。


「お疲れ様です。本日は買取ですか?」

「はい。村で討伐した魔獣の素材になるのですが、数が多かったのでこちらで買取りをお願いしたい」

「では、身分証をご提示いただけますか?」


 ふむ、素材の買取りにも身分証は必要になるのか。

 まあ、身分のはっきりしない者から素材を買い取る事にはリスクもあるだろうし、当然と言えば当然か。

 ヒロさんが商業ギルドのギルドカードを提示すると、受付嬢の表情が明らかに変わり、すぐに奥の部屋に案内されてしまった。


「こちらの個室は安全ですが、レインズ君はどうしますか?」

「俺がいなくても大丈夫なんですか?」

「お金の話をするだけですからね」

「それじゃあ、少しゆっくり見させてもらいます」


 ヒロさんから許しを得て、俺は少しの間だが別行動をする事にした。

 とはいえ、同じ建物内にいるのでヒロさんの気配に集中しておけばすぐに駆け付ける事も可能な距離は保っておこう。

 そんな感じで人の動きに目を向けると、何となくだが冒険者ギルドの仕組みが分かってきた。

 入口に近い窓口が冒険者が依頼を受ける窓口で、数も一番多い。

 次の窓口は恐らくだが依頼人が依頼を出す窓口だろう。並んでいる人は明らかに冒険者というか、非戦闘員といった感じの人ばかりだからだ。

 その次に並んでいる人たちは比較的に若く、緊張した面持ちを浮かべている者が多い。

 買取り窓口の隣なので良く見えるが、ここは冒険者ギルドの登録窓口なんだろうが、ここに35歳の俺が並んでたらバカにされるんだろうかと気になってしまう。

 窓口とは異なるが、入口から左に向かったところに広いスペースがあり、そこは食事処……じゃないな、酒場になっているようだ。

 明るい内から酒を飲んでいる冒険者もいるのかと驚いたが、よくよく考えるとジラギースでも昼間から隠れて飲んでいた兵士もいたし、こういった輩はどこに行っても少なからずいるという事だろう。


「――あれ? レインズかい?」


 そんな事を考えていると、突然後ろから声を掛けられた。

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